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379 代官の諮問

 ティミショアラは堂々とした足取りで代官ベルダに歩み寄る。


「我が子爵ティミショアラである。以後よろしく頼むぞ」

「古代竜の子爵閣下に拝謁できるとは光栄です」


 互いに握手を交わしている。


「ちなみにこの狼の被り物をかぶっているのは我の身内であるアルラだ」

「アルラどの、よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」


 型通りの挨拶を済ませると、ベルダは言う。


「子爵閣下には魔王を僭称していた者の討伐にも協力していただいたとか。王国を代表してお礼申し上げます」

「む? その件に関して、代官はどのように聞いているのだ?」

「ラーンガウ子爵とリンミア子爵、それにティミショアラ子爵閣下が協力して討伐したと……」


 ラーンガウはルカの家名、リンミアはユリーナの家名だ。

 俺の存在を隠しているのでそういう報告になったのだろう。


「まあ。間違ってはおらぬが……。他にもエルケーの冒険者や我の身内が尽力したのだ。我自身は大したことはしておらぬ」

「そうでしたか。冒険者の方々やお身内の方々にもお礼を言わねばなりませんな」


 代官ベルダは金髪のポニーテールの美人だ。だが、口調は男っぽい。

 身分を隠し、男の多い騎士団で女性でありながら副団長まで昇ったのだ。

 だからこそ、そういう口調になるのかもしれない。


「子爵閣下どうぞ、お座りください。お身内の方もどうぞお座りください」

「うむ」「ありがとうございます」

「ミリアどのも座ってくれ」

「ありがとうございます」


 代官はティミと俺に椅子を勧めた後、ミリアにも椅子を勧めた。

 平民であるミリアを椅子に座らせること自体普通はあり得ないことだ。

 護衛という設定のヴィヴィは当然立ったままである。


 しばらく代官ベルダはティミと会話をしてから、ミリアに語り掛ける。


「牢屋に入っていた者たちの説明を聞きたい」

「彼らは魔王を僭称していた者から、エルケーに商品を持ち込むことを独占的に許されていた商人です」

「ほう」


 ミリアは御用商人の罪状を説明していく。

 賢いミリアらしく、的確でわかりやすい説明だった。

 それをベルダは静かに聞いていた。


「……なるほど。色々聞きたいことが出来たのだが……なにから聞けばよいのか」


 少し考えてから、ベルダは言う。

「我が配下の調査によるとエルケーの状況は相当に改善したようだ。狼商会のおかげだろう。代官として礼を言う」

「もったいなきお言葉。ありがとうございます」

「だが、狼商会とは……あまり聞かぬ名前だな」

「つい最近作られたばかりですから」

「つい最近とな? ミリアどのはその前はなにをしていたのだ?」

「私は、もともとリンミア商会で働いておりました」

「ほう、リンミア商会か。では資本も?」

「いえ、資本はコンラディン伯からでございます」

「なんと! さすがは勇者伯閣下だ。エルケーの民のために私財を提供してくださるとは! なんと慈悲深い」


 ベルダは感動しているようだった。

 それから、御用商人の保持していた戦力などの話に移った。


「それに関しては私の護衛と子爵閣下のお身内の方がお詳しいので……」


 ベルダは俺の方をみる。

「ぜひ、お話をお聞かせください」

 そして、ヴィヴィにも目を向けた。

「そなたにも直答じきとうを許す。気兼ねなく話すがよい」


 俺が御用商人の護衛とゾンビについて説明すると、ベルダの顔が引きつった。


「オークとオーガのゾンビだと?」

「はい。オーク十匹。オーガ五匹です」

「よく、討伐ができたものだ。我が竜騎士団でも討伐は容易ではないだろう」

「我の身内だからな」

 ティミがどや顔で言った。


「なるほど。確かに子爵閣下のお身内の方ならば、納得ですな」

 そんなベルダに俺は補足しておいた。


「今のエルケーにはラーンガウ子爵がいらっしゃいますので」

「さすがは剣聖ルカ・ラーンガウどのですな」


 ベルダは納得したようで、うんうんと頷いた。

 いつの間にかルカは剣聖と呼ばれるようになっていたらしい。知らなかった。


 ティミがベルダに向けて言う。

「僭称魔王と魔人を倒した後、我も冒険者と協力して近隣のゾンビを退治して回ったのだ。つまり、牢屋の中の商人はゾンビを連れ歩いていたのだろう」

「ゾンビの使役ということですな……、それは重罪と言わざるを得ませぬ」

「僭称魔王か魔人のどちらかが余程ゾンビ化技術に長けていたのだろうな」


 それからベルダは俺とミリア、ヴィヴィに色々と質問してきた。

 エルケーをしっかりと治めようという意志を感じる。真面目な代官のようでよかった。

 監獄業務を行ってくれていた冒険者への報酬も代官所が支払ってくれることになった。


 質問が一区切りつくと、ベルダは部下にお茶とお菓子を持ってくるよう指示を出す。


「すぐにお茶が運ばれて来るはずだ。護衛どのも椅子に座ってくれ」

 ヴィヴィにも椅子を勧めてくれた。


「良いのかや?」

「もちろんだ」


 ベルダは王族だというのに、気さくなようだ。

 一応ここまでは公式の諮問。だから護衛にすぎないヴィヴィは座らせなかった。

 だが、ここからは非公式なお茶会。作法に厳しくなくてもよいと判断したのだろう。


 お菓子が運ばれてくると、シギショアラが懐の中でモゾッと動いた。

 お菓子の匂いにつられたのだろう。


「……静かに」

 俺はささやくように言う。

「り」

 シギは大人しくなった。

 赤ちゃんなのにとても賢い。あとでお菓子を沢山上げよう。


 お菓子を食べ、お茶を飲みながらベルダはエルケーについて色々尋ねてきた。


「ほう? お菓子が美味しいお店があるのだな? 今度是非行ってみよう」

 問いただすというよりも、雑談のついでといった雰囲気だ。

 だが、情報はしっかり得ようとしているようだった。

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