ベルダは雑談のような雰囲気で、重要な情報を聞き出すのがうまいようだ。
美味しいお菓子の話から、物流の話などに移る。
それから、お菓子を一緒に食べたものの話題から孤児の話に移った。
「なんと、狼商会は孤児を保護して教育を与えてくださっているのか」
「そんな、大げさな話ではないです。お手伝いしてもらっているだけで……」
「謙遜せずともよい。なにか不便なことがあったら、私も手助けしよう」
「ありがとうございます」
孤児の話から、チンピラたちの話になったり、空き家の話になったりした。
一通り話し終わると、ベルダは大きく息を吐いた。
「国王陛下からエルケーの街の代官を命じられたときは、覚悟したものだが、多くの問題が解決に向かっているようだな」
そして、ベルダは深く頭を下げた。
王族が平民相手に深く頭を下げたことにミリアが驚き、慌てて言う。
「代官閣下! 急にどうなされたのですか」
「感謝する。そなたたちがいなければ、エルケーの民が何人亡くなっていたかわからぬ」
「私たちは出来ることをしただけで……」
「なかなか、出来ることではない。これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
そしてベルダはティミショアラを見る。
「ティミショアラ子爵閣下。改めてよろしくお願いいたしますね」
「うむ。話した限り、我もそなたのことは嫌いではないようだ。今後ともよろしく頼む」
「ありがとうございます」
そしてティミは一瞬首をかしげて考えた。
「ふむ」
「どうされました?」
「いや、なに……。アルラ良いだろうか?」
このタイミングで俺に尋ねるということは、シギショアラのことだろう。
シギショアラを代官に紹介していいか尋ねているのだ。
もちろん俺に尋ねるということは、ティミは紹介していいと判断したということだ。
「ティミショアラ子爵閣下のお考えの通りに」
「うむ。そうか」
俺の許可をもらって、ティミが笑顔になる。
「シギショアラ。出てきても良いぞ」
「りゃ」
シギが俺の懐から顔だけ出す。首をかしげていた。
「シギショアラ。叔母さんのところにおいで」
「りゃあ」
シギはもぞもぞ這い出ると、ティミのところまで机の上を走っていった。
そしてティミの腕に抱かれる。
それを見て、ベルダは固まった。
「な、なんと! なんと……。なんという……」
急にベルダは語彙力が乏しくなったようだ。
「なんという、あ、愛らしさだ……」
ベルダは、シギ以外目に入っていない様子だ。
シギは可愛いので、そうなっても仕方がない。
「シギショアラ。お菓子を食べさせてやろう」
「りゃむりゃむ」
ティミがお菓子を口元に持っていくと、シギはおいしそうに食べた。
お話をしている間、ずっと我慢していたのだろう。パクパク食べている。
「シギショアラ、お茶も飲むか?」
「りゃあ」
ティミがシギの前に自分のカップを置いた。
シギは嬉しそうにカップを両手で抱えるようにして飲む。
「ほら、こぼれているぞ」
「りゃあ」
シギの口の端から少しだけこぼれたお茶を、ティミが嬉しそうに拭いた。
代官ベルダは、そんなティミとシギをじっと見つめながら言う。
「ティミショアラ子爵閣下、こ、この方は……竜の赤ちゃんでございますか?」
「うむ。我が姪、シギショアラであるぞ」
「なんと……古代竜の雛でございましたか……」
ベルダの口は少し開けたまま、シギをじっと見つめ続けている。
ベルダの口からよだれがこぼれて、慌てて拭った。
そんなシギにティミはお菓子を食べさせる。
「りゃむりゃむ」
「シギショアラうまいか?」
「りゃぁ」
その様子を見ていたベルダが言う。
「ティ、ティミショアラ子爵閣下!」
「む? どうしたのであるか?」
「その、姪御どのを私にも触らせてはいただけないでしょうか」
「ふむ。アルラ、どう思う?」
「シギショアラがよいというのなら」
そういうと、ベルダは一瞬だけ俺の方を見た。
ティミは気にする様子もなく、シギに優しく語り掛ける。
「シギショアラ。どうであるか?」
「りゃあ」
シギは機嫌よく鳴いた。羽を数回バタバタさせる。
「シギショアラは良いと言っておるぞ」
「あ、ありがとうございます」
恐る恐るといった感じで、ベルダはシギに手を伸ばす。
そして、優しく背中を撫でた。
「ふわぁ。あったかいです」
「りゃあ」
シギは背中を撫でられながらもお菓子を食べていた。
ごくりとお菓子を飲み込むと、ベルダの指をひしっとつかんだ。
「ふぁっ」
「りゃあ?」
そして、シギはベルダに向かってお菓子を差し出す。
「くれるのですか?」
「りゃあ」
「あ、ありがとうございます」
ベルダはまるで高価な宝物かのように、お菓子を受け取る。
このままでは、一生宝物として保管しそうな勢いだった。