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408 昨夜の報告

 ティミショアラもパクパク昼ご飯を食べ始める。


「うむ。とてもおいしいのである。シギショアラも食べるがよい」

「りゃあ」

「この肉もうまいのである」

「りゃむりゃむ」


 ティミは胸に抱いているシギにお昼ご飯を食べさせている。

 シギもおいしそうにパクパク食べている。


 俺はそんなシギを見て思わず尋ねた。

「みんな。シギが昨日より立派になった気がしないか?」

「………………立派とは何のことじゃ?」

「言葉通りの意味だが」

「いつも通りにみえるのじゃが……」


 ヴィヴィは見る目がないらしい。

 ヴィヴィはまだ若いので仕方のないことなのかもしれない。


「どれどれー?」

「立派ってどういうことかしら?」

「立派ねぇ」

「クルスとユリーナ、ルカも見てやってくれ」


 クルス、ユリーナとルカは撫でたりしながら、シギのことをしっかり見る。

 シギはその間もずっとご飯を両手でパクパク食べていた。

 そのシギの姿は、威厳があり、そして可愛い。


「たしかに立派に見える」

「そうかしら? 相変わらず可愛いけど……」

「体重もほとんど変わってないし……変化はないかも」

「……シギが立派になったことに気付けたのはクルスだけか。流石だな」

「えへへ」


 照れるクルスに、ルカが言う。


「またクルスは適当なことを言って」

「適当じゃないよ! なんかビャってかんじがするでしょ!」

「ビャってなによ……」


 ふと、俺はベルダの方を見ると、両手でお菓子を食べるシギのことを凝視していた。

「ふへへ」

 ベルダは顔をふにゃあとさせている。


 一方、フェムたちはシギが立派になった話をあまり気にしていないようだ。

 フェムとモーフィ、チェルノボクは、おいしそうにそれぞれ自分の皿から食べている。


『うまいのだ』「もっも!」『うまい』

 獣たちも満足しているようだ。


 子供たちも嬉しそうにご飯を食べている。作るのを手伝った料理は格別だろう。


「そうだな、うまいな」

 俺がそういうと、シギにデレデレしていたベルダが言う。


「アルラさんのお口に合ったのなら、幸いです」

 なぜか頬が赤い。シギをみて興奮して赤くなったのだろう。


「とてもおいしいですよ、閣下」

「閣下なんて、そんな堅苦しい呼び方をしないでくださいまし」

「ですが、立場というものがありますので……」

「ここにはそのようなことを言うものはおりませんわ」

「そうは申されましても……」

「アルラさま。どうか、わたくしのことは、ただ、ベルダとお呼びくださいまし」


 とても困る要望だ。

 王族であり、国王の代理人たる代官閣下を呼び捨てにするのは、すごく抵抗がある。


 俺が困っていると、シギにご飯を食べさせていたティミが首をかしげた。


「ベルダよ。そなた……口調がいつもと違うのではないか?」

「そのようなことはないと思うが? ティミショアラはそう思うのか?」

「自覚なしか? ……いや、違うな。アルラに対してだけ、口調が違うのである。なぜだ?」

「え? そんなことはないと思うのですが……」


 ティミの言う通り、ベルダの口調がブレブレだ。なにやら代官閣下は混乱しているようだ。

 昨日からいろいろあったので、疲れているのだろう。

 時間が経てば、元に戻るに違いない。とりあえずスルーしておこう。


「代官閣下、食事をしながらですが、昨日の事態についてご説明させて——」

「アルラさま。私のことはベルダとだけお呼びくださいまし」

「……わかりました」

「ベルダ。昨日の事情をご説明いたしますね」

「はい、お願いいたします」


 そして、俺はステフやルカ、クルスたちと協力して説明していく。

 ルカ、ステフ、ユリーナとヴィヴィ、クルスそれぞれ持っている情報が違う。


 ルカは鉱山での戦闘、動く粘土との戦闘、そして俺と共闘した魔人戦の情報を持っている。

 ステフは、俺たちがエルケーに到着するまで動く石像と戦っていた。

 ユリーナは、ヴィヴィと一緒にエルケーを守るためにずっと戦っていた。

 加えてユリーナは、怪我人の治療をしていたおかげで、被害状況を最も的確に把握している。

 そして、クルスは俺と一緒に不死者の王ノーライフ・キングと戦った。

 それらの情報共有を、しっかりしなくてはならない。


 昨夜の騒動のすべてに参加していないティミは、特に興味をもって聞いていた。


「ベルダ。何か質問はありますか?」

「アルラさま。ベルダには敬語は使わなくてよいのです」

「いえ、そういうわけには」

「お願いいたします」


 ベルダに頭を下げられた。


「アルラ。ベルダ本人がそういっているのだから、敬語を使わなくてもよいのではないか?」


 ベルダは王族で騎士団の副団長。そして王の代理人たる代官だ。

 敬語を使われすぎて、疲れているのかもしれない。


「わかった。ベルダ。何か質問はあるか?」

「はい!」


 ベルダは嬉しそうにほほ笑む。そして、笑顔のまま尋ねてくる。


「つまり昨日の鉱山襲撃も不死者の王の策謀だったということでしょうか?」

 笑顔だが、仕事はきっちりこなすようだ。


「その可能性は高いわ。クルスもアルラもユリーナも、正体を隠していたから」

「そうなのだわ。身分を明かして行動してたのはルカだけだもの」

「つまり、どういうことなのだ?」


 ベルダが首をかしげる。だから俺が説明した。


 もし俺やクルス、ユリーナが居ると知っていれば、陽動は鉱山襲撃だけでは足りない。

 だが、不死者の王が認識していたエルケーの強力な戦力は剣聖ルカだけだ。

 俺もクルスもユリーナも正体を隠していたので、エルケーにいたことを知らなかったからだ。

 脅威をルカしか知らないならば、鉱山襲撃だけで陽動は充分だ。

 ルカをエルケーから切り離せば防衛戦力は無力になる。

 そう不死者の王は考えたのだろう。


「勘違いしてくれたのは、エルケーにとっては幸運でしたね」

 ベルダがそうつぶやくと、真面目な顔で考えていたヴィヴィが言う。


「つまり、今回の強敵は不死者の王と魔人だけだったということじゃな?」

「そうなる。それ以外はそいつらに操られていた敵と考えていいだろう」

「謎の粘土の塊も動く石像も、鉱山を襲った魔物たちもなのじゃな?」

「そう俺は考えている」


 ヴィヴィが食事の手を止めて、腕を組んだ。


「ふむぅ」

「なにか納得できない点があるのか?」

「そういうわけではないのじゃが……。鉱山の方はゾンビではなかったのであろう?」


 そういってヴィヴィはルカを見る。ルカはパンを食べていた手をとめてうなずいた。

 エルケーに現れた魔物はゾンビだったが、鉱山を襲ったのはゾンビではなかった。


「ゾンビは不死者の王の手によるもので、ゾンビではないやつは魔人の手によるものだろうな」

「それは、そうだとおもうのじゃが……」


 俺の答えはヴィヴィの求める答えとは違ったようだ。


「そうね。ヴィヴィの疑問はわかるわ。どうやって、魔物を操ったのかってことよね?」

「そうじゃ」

「考えられるのは魅了の類かしらね。ちなみに一般的に魅了はゾンビ化より簡単なの」

「そうなのかや?」

「そう。その代わり支配力がゾンビ化に比べるとだいぶ落ちるわ」


 ルカはゾンビ化と魅了の違いを説明してくれた。

 ゾンビ化は永続的に完全に行動を支配できるが、魅了は一時的に行動を操られるだけである。

 ヴィヴィが知らなくても仕方ない。

 ゾンビ化だけでなく、魅了も犯罪に使われやすいため許可のない使用は違法とされている。

 合法的に使えるのは、尋問を行う諜報機関や犯罪者を裁く司法省などだけだからだ。


「なるほどなのじゃ。勉強不足だったのじゃ」

 ヴィヴィは納得したようだった。

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