復興するエルケーを眺めながら、俺たちはゆっくりとジールの竜舎の方へと歩いていく。
竜舎はエルケーの中でも立派で大きな建物なので、離れた場所からも目に入る。
「特にどうもなってないように見えるな」
「うむ。結構近くで戦闘があったのじゃが、無事で何よりなのじゃ」
「ヴィヴィのおかげだろう」
そういうと、ヴィヴィは顔を赤くして照れていた。
竜舎はヴィヴィの魔法陣のおかげで、びくともしていない。
シギショアラが、俺の懐から顔を出す。
「りゃっりゃっりゃっりゃ」
リズミカルに鳴いている。
その鳴き声はとてもかわいらしく、そして威厳が漂っている。
竜大公としての威厳を身に着け始めたのかもしれない。
「シギは……本当に立派になったなぁ」
「りゃあ?」
俺はシギを優しく撫でる。
その近くでは壊れた建物の再建が行われていた。
そこで振るわれている職人のハンマーのリズミカルな音が楽しいようだ。
楽し気に鳴いているシギの頭を撫でながら、竜舎に向かって歩いて行った。
「がぁ」
まだ竜舎と距離があるというのに、ジールの声が聞こえた。
吠えるというより、静かに鳴くという感じだ。
「ジールは竜舎にいるみたいだな。なにかお土産になるものあったかな」
俺は魔法の鞄の中身をがさごそ探る。
「そうであるな。我もなにかあっただろうか」
ティミショアラも自分の鞄を探り始めた。
「この前は怯えさせてしまったゆえな。おいしい食べ物で機嫌を取っておかねばなるまい」
そういったティミの表情は真剣だった。
足を止めてそんなことをしていたら、
「がぁ?」
竜舎の入り口からジールが顔だけ出してこっちを見ていた。
俺たちが近づいてきていることに気が付いたらしい。
「りゃっりゃー」
シギもジールに気が付いて、元気に嬉しそうに鳴く。
ジールは竜舎の建物から出ると、敷地の境界まで来て姿勢を正してきちんと立った。
敷地の外に出るのはベルダに禁じられているのか、敷地の内側、ギリギリのところにいる。
ジールが出迎えてくれているのならば待たせるのは悪い。少し足早に竜舎に向かう。
「ジール。出迎えてくれてありがとう」
「がぁ……」
ジールはしっかり立っているが、ティミから目を離してはいない。
尻尾は股の間に挟まってはいないが、下に垂れ下がって細かく震えていた。
少しティミに怯えているのかもしれない。
「りゃああ」「もっもー」
シギは飛んで、モーフィは走って、ジールに寄っていった。
「がぁあ」
ジールは右手でモーフィの頭を撫でる。シギはジールの胸に飛び込んだ。
「が?」
ジールはシギを間近でみると、目を見開いた。
「りゃあ?」
「が、がぁ、がががぁ」
ジールは少し震えている。
「ジール。どうした?」
「がぁ……」
「シギの成長に驚いたのであろうな! ジール。見る目があるな!」
「がががぁ」
ティミは近づいて、ジールの頭を撫でた。ジールは細かくブルブル震えていた。
だが、漏らしてはいない。少し慣れたに違いない。
「ジール。体調はよさそうであるな」
「……がぁ」
「怯えなくてよいのだ。これでも食べるとよい」
「があ」
ティミはジールに何かの肉の塊を差し出した。ジールは、シギを見て遠慮するそぶりを見せた。
「大丈夫だ、ジール。シギショアラはお昼ご飯を食べたばかりであるからな」
「りゃあ!」
「がぁ」
ティミに優しくうながされて、やっとジールはお肉を食べ始める。
「ジール、まだあるからな」
俺もジールに肉をあげる。俺の差し出した肉もジールはパクパク食べていく。
見事な食べっぷりだ。
「りゃぁ」
シギが小さく鳴いて、ジールの方から俺の方に飛んできた。
俺はシギを胸のまえで抱き留める。
「む? シギもお肉を食べたくなったのか?」
「りゃあ」
ジールがあまりに食べっぷりが良いので、シギも食べたくなったのだろう。
俺は鞄から出してシギにお肉を食べさせることにした。
赤ちゃんだから、食べたいときに食べさせたらいいと思う。
「たくさん食べて大きくなるんだぞ」
「りゃむりゃむ」
シギがご飯を食べているのを見るのは好きだ。
俺がおいしそうに肉を食べるシギを眺めていると、ティミがジールに言う。
「今日来たのは他でもなくてだな。そこの魔法陣を調べさせてほしいのである」
「がぁ」
「おお、構わぬか。ありがとう」
「がぁがあ」
ティミがジールから、竜舎の中にある魔法陣について調査する了承を得たようだ。
会話できるとは驚きである。さすが竜属同士だ。
俺はお肉を食べるシギを撫でながら言う。
「ティミ。ジールの言葉がわかるのか?」
「わからぬが?」
「え? 明らかに話していたような気がしたのだが」
「そうじゃ。ジールから許可を得ていたのじゃ。わかっていたのではないのかや?」
「言葉はわからぬが、なんとなくわかるであろう。顔を見れば」
「そんなものか……」
「うむ」
どや顔のティミを放置して、俺はジールを見る。
「がぁ?」
ジールはお肉を食べてご機嫌なようだ。
転移魔法陣のことは特に気にしていないように見える。
「ジール。竜舎の中にお邪魔させてもらうな」
「があ」
ジールはとことこ歩き出し、竜舎の中へと案内してくれる。
ジールの言葉はわからないが、ジールは俺たちの言葉を理解しているようだ。
「がぁ?」
転移魔法陣のところまできて、ジールは首をかしげている。
ジールは「これがどうしたの?」まるで、そう言っているようだ。
「封印は破られてはいないのじゃ」
転移魔法陣を調べたヴィヴィがそう言った。