ティミショアラも転移魔法陣を調べて言う。
「いくら不死者の王であっても、アルラがかけた封印を解くことは難しかろう」
「たしかに、ほころびも入ってないな」
俺も調べたが、特に転移魔法陣の機能は完全に封じられている。
俺が以前かけた封印は完全な形で健在だった。
「そもそも、不死者の王がアルの封印を解けるとは誰も思わなかったから調査自体後回しにしたのじゃ」
「だが、そうなると……。蛇のゾンビがどこから来たのかわからない」
不死者の王との戦闘中、大蛇のゾンビに襲われた。その時エルケーは障壁に覆われていた。
だから、俺は不死者の王が転移魔法陣を通じて、大蛇のゾンビを持ち込んだと考えた。
ヴィヴィが少し考えて言う。
「ふむぅ。あらかじめ伏せておいたのやも知れぬのじゃ」
「エルケーの街の中にか? あんなにでかい大蛇はさすがに伏せられないだろう」
「そういわれたらそうじゃな」
「特別な術式や魔道具があるのやもしれぬなぁ」
ティミも真剣な表情で考えながら言う。
そんな術式も魔道具も俺には心当たりがない。
だが、俺の知らない術式も魔道具もこの世の中にはたくさんあるのだ。
「不死者の王は三百年もの間、研究を続けていたらしいからな、もしかしたらあるのかも」
「そうじゃなー。不死者の王の工房があるのならば見てみたいものじゃ」
研究者系の魔導士は工房を作ることが多い。
不死者の王が拠点兼工房を作っていた可能性は非常に高い。
「今となってはどこにあるかもわからないな」
『悪い奴に利用されたら困るのだ』
フェムは心配しているようだ。
「厳重に封をしているのだろうし、そう簡単に悪用されることはないとは思うのじゃ」
「そうだな。その点はあまり心配はない」
『それならよいのである』
安心したのかフェムが尻尾をゆっくり振った。
一方、俺たちが話している間、
「もっも」「ぴぎぃ」「がぁがぁ」
モーフィとチェルノボクはジールと遊んでいたようだった。
俺たちは転移魔法陣に異常がないことを確認した後、ジールに見送られながら竜舎を後にする。
三角錐の金属像なども調べ異常がないことを確認した後、トムの宿屋へと戻る。
そして、転移魔法陣を通過して、ムルグ村へと戻った。
一緒に戻ったのはティミ、ヴィヴィ、フェム、モーフィ、チェルノボク、シギだ。
「あー、おっしゃん、おかえりー」
転移魔法陣を設置している倉庫を出ると、コレットに出迎えられる。
すごい勢いで飛びついて来た。
俺の肩の上にいたチェルノボクが、コレットの頭の上にぴょんと飛び移る。
「ぴぎぃ」
「チェルちゃんもいい子にしてたー?」
「ぴぎぴぎっ」
チェルノボクもご機嫌にフルフルしている。
「わふわふ!」
コレットと遊んでいたらしい魔狼たちが、俺たちの周りをぐるぐる回る。
魔狼王であるフェムが帰ってきたのでうれしいのだろう。
匂いを嗅ぎあって、ガウガウ吠えながらじゃれついたりしている。
そこにシギも混ざりにいった。自分の体の数倍はある魔狼たちにじゃれついている。
甘噛みしたりされたり、手でパンチしたりされたりしている。
「はわわ」
それを見て慌てるティミの肩に、俺は手を置く。
「安心しろ。大丈夫だ」
「そうであろうか?」
「うむ」
魔狼たちは、シギと同じくらいの大きさの子狼たちの扱いに慣れている。
それに近くにはフェムもいるのだ。
「きゃふきゃふ!」
シギが遊んでいることに気づいた、子魔狼たちが狼小屋から駆け付けた。
「りゃあ!」
シギも嬉しそうに子魔狼たちと遊び始める。
子魔狼たちと遊び始めたので、はらはらしているティミもすぐに安心するだろう。
「おっしゃんおっしゃん、エルケーすごいことになってたの?」
頭の上のチェルノボクを右手で撫でて、左手で俺の右手を握りながらコレットが言う。
「そうだぞー」
「どんなふうだったの?」
「大きな石とか粘土が暴れたりしていた」
興味津々のコレットに、俺は簡単に説明しておく。
「ふえーー、すっごーい」
コレットは大はしゃぎだ。コレットがはしゃぐので、モーフィも楽しくなったのだろう。
俺たちの周りをぐるぐる回ってから、開いている俺の左手を咥えた。
「どうした? モーフィ」
「もっも!」
モーフィは鳴きながら俺の手を引っ張る。どうやら屋内に引っ張っていきたいようだ。
「寒いのか?」
『おんせん』
「ああ、一緒に温泉に入りたいのか」
「もぅ!」
「そういえば、しばらくゆっくり温泉に入ってなかったな」
エルケーのトムの宿屋にも風呂はあるが、ムルグ村の温泉の方が広いのだ。
泉質もムルグ村の方がよい気がする。
だから、モーフィもムルグ村の温泉に入りたいのだろう。
「俺も昨日はかなり働いたからな。温泉に入ってゆっくり疲れをいやそうか」
「もっもぅ!」
『それがいいのだ』
「ぴぎぃ! ぴぎぃ!」
モーフィだけでなく、フェムもチェルノボクも入りたいらしい。
「シギ、お風呂入りに行くけど、どうする? 遊んでてもいいよ」
「りゃあ!」
シギも羽をパタパタさせて俺のところに飛んできた。
一緒に温泉に入ってくれるらしい。
「じゃあ、みんなで入るか」
「わふ!」「もっも」「ぴぎ!」「りゃあ」
そういうことになった。