俺は努めて冷静に言うことにした。こういうことは恥ずかしがると余計恥ずかしい。
「本当にどっちも好きなんだがな」
「どちらかと言えばどうなのであるか?」
ティミショアラが真剣な表情で尋ねてくる。
「うーん……。そうだなぁ……。本当に大きいのも小さいのも好きではあるのだが……」
「ふむふむ?」
「りゃありゃ」
なぜかティミが前のめりだ。そんなティミの頭の上にシギショアラが乗っている。
「どちらかというと大きい方が好きかなぁ」
「よっし!」
ミレットが小さく胸の前で両手を握ってそんなことを言う。
不満げにクルスが頬を膨らませた。
「えー。小さいのはダメなんですか?」
「だからダメじゃない。あくまでもどちらかと言えばだ」
「どちらかと言えば、ですね。小さいのも好きってことですね」
「さっきからそう言っているはずだ」
「ならよかったです」
クルスはにこりと笑うと、湯船の方へと歩いて行った。
いつの間にか体を洗い終えていたようだ。
「よし! ミレット、背中でかゆいところあるか?」
「はい! 大丈夫です!」
「それなら良かった。これで背中洗うのは終わりだ」
「ありがとうございます! 気持ちよかったです」
そして、俺はミレットの背中の泡を流すと、湯船に向かう。
湯船にはミレット以外のみんなが入っている。
「モーフィ、はしゃがないの」
「もっも!」
やはり、いつものようにクルスは獣たちに大人気だ。
特にモーフィはクルスに甘えるようにぴったりとくっついている。
フェムはさりげなくクルスの周囲をゆっくりと泳いでいた。
チェルノボクもクルスのすぐ近くに浮いている。
フェムもチェルノボクも、きっとクルス周りのお湯を飲んでいるに違いない。
そんな獣たちを見ながら俺も湯船に入る。
「ふう」
とても心地が良い。ひざに染み渡るようだ。
「りゃあ」
シギが羽をパタパタ動かして、俺のもとに飛んでくる。
「シギも飛ぶのがうまくなったな」
「シギショアラは成長が早いのである」
そういいながら、シギを追いかける形でティミが俺の隣にやってきた。
「そういえば、シギは魔力弾も出せたもんな」
「そうであるな」
少し前、シギはフェムたちと一緒に口から魔力弾を出す練習をして成功していた。
それは古代竜の常識に即して考えてみても早熟とのことだった。
「アルラが弟子のミレットとコレットに魔法体操というのを教えているであろう?」
「ああ、そうだな。体内の魔力を育てるのに効果があると思ってな」
「うむ。どうやら、それをシギショアラは真似しているようである」
「ほう?」
「それで成長が早いのかもしれぬな」
「魔法体操って古代竜にも効果あるのか?」
「あるのではないか? まあ、シギショアラは天才ゆえ成長が早いというのもあるのだが」
魔法体操の効果についてはティミも確信を持っているわけではないようだ。
だが、俺もティミもシギが天才だということには異論はない。
「人も古代竜も手足があるわけだし、魔法体操の効果があってもおかしくはないだろう?」
「ティミに言われると、そんな気がしてくるな」
そんなことを話していると、コレットが寄ってきた。
「シギちゃん、これっとが魔法体操しているとよく真似してるよ!」
「そうか」「りゃあ?」
シギが首をかしげた。尻尾が元気に揺れているので機嫌はいいらしい。
そんなシギにコレットが抱き着く。
「これからはシギちゃんも、これっとと一緒に魔法体操やろうね!」
「りゃっりゃ!」
シギは嬉しそうにコレットの髪の毛の中に顔をうずめていた。
「シギが立派になったのは、魔法体操のおかげだろうか?」
「りゃあ?」
「可能性はあるかもしれぬな。コレットはどう思うのだ?」
「うーん? わかんない」
「そうか、わからぬか」
そこに体を洗い終えたミレットが湯船に入ってきた。
湯船は広いのに、ミレットはすぐ近くに入ってくる。
「ミレット近くないか?」
「え? そんなことないですよ?」
「それならいいんだが……」
そんなことないらしい。俺の気のせいならそれでいい。
「アルさん。ぼくにも魔法体操おしえてくださいよー」
「クルスはしなくても強いからいいだろ」
「えー」
そんなこと言いながら、クルスも近くに寄ってくる。
クルスが寄ってくると、同時にモーフィとフェム、チェルノボクも一緒に来る。
「せっかく広い湯船なのに、人口密度が高いな」
「気のせいでは?」
クルスが首を傾げた。
「いやいや、さすがに気のせいではないだろう」
「気のせい気のせい。気のせいですよ」
「もっも!」
クルスに同意するようにモーフィが鳴いた。
それからモーフィは俺にくっついてきた。俺の太ももに前足をのせて、顎を右肩にのせてきた。
「どうした、モーフィ?」
「もぅ」
甘えたいのかもしれない。モーフィは甘えん坊なところがあるのだ。
俺はモーフィを撫でまくる。シギもモーフィの頭の上に乗ってモーフィを撫で始めた。
「わふ」「ぴぎぃ」
モーフィに触発されたのか、フェムまで寄ってきて顔をなめてくる。
チェルノボクも俺の左肩に乗ってふるふるし始める。
獣たちはみんな甘えたいのかもしれない。とりあえず順番に撫でてやった。