基本的に俺は魔法を日常生活で使うのは控えめにすることにしている。
魔法を使えば、ベッドから一歩も動かずに日常生活を過ごすことができるからだ。
頼りすぎては筋力が衰えてしまう。
筋力を鍛えることすら魔法を使ってできるが、それもあまり健全ではない気がする。
だから、手でできることはなるべく手でやることにしているのだ。
しかし、今日ぐらいはいいだろう。
俺が魔法で桶を操り、頭からお湯をかぶると、
「あー、ずるい」
クルスが文句を言ってくる。ずるいも何もない。
「もー、アルさん、お湯で洗い流すところも私に任せてくれていいのにー」
「そうはいうが……」
何度も催促したのに、洗い流してくれなかったのだ。仕方がない。
あのままではあまりの気持ちよさに、眠ってしまい大変なことになっていただろう。
俺は泡を洗い流して、久しぶりに目を開けた。
「クルスもミレットもありがとう。クルスたちの背中も流させてくれ」
そういって、俺が振り返ると、
「きゃっ」
ミレットが恥ずかしそうに悲鳴を上げる。
大きなタオルを巻いているので何が見えるというわけではないが恥ずかしいらしい。
「えぇ……」
勝手に風呂場に入ってきて、今更「きゃっ」もないものである。
「お返しに背中を流そう。後ろを向いてくれ」
本来であれば、お返しに二人の髪の毛も洗うべきなのかもしれない。
だが、俺には女性の髪の洗い方はよくわからない。
クルスの髪の毛は短めなので洗ってもいいかもしれないが、クルスだけ洗うとなると不公平だ。
だから、二人の背中を流すのがいいだろう。
「そんな!悪いですよ」
ミレットが遠慮する。だが、
「え、アルさん、いいんですか!」
クルスは目を輝かせた。
「じゃあ、お願いします! えへへ」
そういって、クルスは椅子に座って俺の方へと背中を向けた。
「あ、ずるい!」
ミレットがそんなことを言う。やはり遠慮していただけで、本当は洗ってほしいのだろう。
「前は自分で洗えよー」
そういいながら、俺はクルスの背中を洗いはじめた。
『前は恥ずかしがっていたのに。大胆になったものである』
フェムの声が聞こえてきた。
「そ、そんなことないよ!」
『ライバル意識を燃やしておるのだなー』
「ち、ちがうよ!」
フェムとクルスがそんなこと言っている。
何のことかわからないので、俺は気にせずクルスの背中を洗い流していった。
ミレットがしたように首や肩も洗っていく。
「ふええ」
クルスが気持ちがいいよさそうな声をあげる。
ミレットの洗う技術をまねただけなのだが、効果があったようだ。
クルスを洗い終えると、ミレットが言う。
「あ、あの、私も……」
「ああ、もちろん洗わせてもらおう。背中を向けて座ってくれ」
ミレットの背中も洗い流していく。
「ミレット、肩凝っているみたいだな」
「……はい、どうしても……」
若いのに大変なことだ。クルスは全く凝っていなかったのだが。
運動して体を鍛えているクルスと、そうじゃないミレットの違いだろうか。
そんなことを考えていると、ティミがつぶやくように言った。
「人族は大きいと肩が凝るというのは本当であったか」
「そ、そんなことは……」
ミレットは少し照れているようだった。
何が大きいと肩が凝るというのだろうか。俺が不思議に思っているとクルスが言う。
「エルフなのにおっぱい大きいのって珍しいんだよね」
「そうだよ! おねーちゃんはすごくおおきいんだよ!」
湯船でバチャバチャ遊んでいたコレットが嬉しそうに言う。
「だから、これっとも大きくなるんだよ! おっしゃんは大きいの好き?」
「え? なにが?」
何が大きいのが好きか聞かれているのか、わかっているのについ問い返してしまった。
幼女は侮れない。普通は聞きにくいことを直球で聞いてくる。
「なにって、おっぱいだよ!」
コレットの方を見ると、屈託のない笑みを浮かべていた。
「そ、そうだな……」
いつもはこういうとき、ミレットが助け舟を出してくれる。
だから、救援を待ったのだが、ミレットはなにも言わない。
俺に背を向けたまま、耳がどんどん赤くなっていく。
こうなったらクルスに助けを求めよう。
「ク、クルスは……」
「………………」
クルスはずっと無言なままだ。真剣な表情で俺をじっと見つめている。
クルスも助けてくれないらしい。
「そ、そうだな……」
「おっしゃん、どっちが好き? おっきいのと小さいの! どっち?」
コレットから容赦のない追及が飛んでくる。
逃れられそうにもない。答えるほかないだろう。
「おっきいのも、小さいのも、どっちも好きだぞ」
「えー」
コレットは俺の答えに不満なようだった。
「偉大なるアルラらしくもない優柔不断な答えであるな! ごまかさずにはっきり答えぬか!」
「りゃっりゃ!」
「ほら、シギショアラもはっきりしろと言っておるぞ!」
「りゃあ」
シギはそんなこと言わないと思う。
シギが鳴いているのは楽しいからはしゃいでいるだけに違いない。
だが、全員の追求からは逃げられそうにない。答えるしかないだろう
「そうだな……」
俺は観念して答えることにした。