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425 剣聖対破王

 地面に頭をつけて懇願するエクスを見てルカは困った様子で言う。


「認めるのは悔しいけど……。私よりクルスの方が強いわよ?」

「うん。ぼくの方が強いよ? そしてぼくよりアルラさんの方がずっと強いし」

「クルスは余計なことを言わないように」


 矛先が俺に向いたら困るので、そう釘を刺す。


「たとえそうであっても、私は剣士です。剣聖さまとの手合わせを望みます!」

「まあ、いいけど……」

「あ、ありがとうございます!」


 エクスは目に涙を浮かべている。

 そこまでルカとの手合わせを切望していたとは。

 剣士にとって、ルカは特別な存在なのかもしれない。


「やるとしても、いつどこでやるのかしら?」

「剣聖さまが、よろしければ、今すぐ、ここでお願いします」

「そう、それなら……いつでもいいわよ?」

「はい」

「破壊神の力とやらも使っていいわ」

「それは使いません」

「どうして? 私を舐めているのかしら?」

「あくまでも私は剣士。剣聖さまとは剣士として戦いたいからです」

「……ふーん。まあいいわ」


 ルカは剣の柄を掴むでもなく、所在なさげに立っていた。

 そんなルカに、エクスはおずおずと言う。


「あの、剣聖さま」

「ん?」

「はじめても、よいのでしょうか?」


 そのエクスの言葉に、ルカは少し首をかしげる。

 ルカとしては「いつでもいいわよ?」と言った瞬間に手合わせははじまっていたのだ。

 ルカからは「いつまで待たせるの」と言う雰囲気すら漂っていた。


「もう、はじまってるわよ?」

「…………」


 その瞬間、エクスがルカに襲い掛かる。身のこなしも剣の速さも申し分ない。

 だが、ルカは剣を抜かずに身体をわずかにずらして剣をかわす。

 完全に剣閃を見切っているようだ。


 エクスは凄腕の剣士だがルカの方が上のようだ。

 そう俺すらも思った瞬間、エクスの剣が一瞬ぶれたように見えた。

 完全に見切って躱したはずの剣が、ルカを捉えかける。


 ——キィン

 ルカは剣で斬撃を防ぐと同時に後方へ大きく飛んだ。

 ルカの表情から余裕が消えた。


 そんなルカにエクスが言う。

「私は剣聖さまの対戦相手にふさわしいでしょうか?」

「……そうね。ごめんなさい。完全に舐めてたわ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、本当の意味ではじめましょうか」


 ルカの雰囲気が変わる。エクスを強者と認めて本気になったのだ。

 エクスは嬉しそうに笑うと、一気にルカへと斬り込んだ。

 ルカは、エクスの剣をかわし、自分の剣で受けながら、隙を見て攻撃を仕掛けている。


 二人の激しい試合を見ていたクルが、嬉しそうに近寄ってきた。

「アルさんアルさん」

「どうした?」

「エクス、強いですね」

「そうだな。ドラゴンゾンビや魔人を倒したのも納得だ」

「Aランクの中でも相当上位かもしれないのだわ」


 ユリーナまで、近寄ってきてうんうんと頷いている。

 ベルダも近寄って来た。 


「エクスが押しているように見えるが……」

「そうともいえないかな。エクスは押し切るつもりなんだよ」

 クルスがニコニコと楽しそうにベルダに答えた。


「それはエクスが押しているということではないのか?」

「ちょっと違うかな。ルカにはまだ余裕がある。凌いでから反攻するつもりなんだよ」


 クルスにしてはわかりやすい説明だ。

 だが、ベルダはまだよくわかっていなさそうなので俺は補足することにした。


「エクスは押し切らないと負けると考えているし、実際そうだろう」

「アルラさま。つまりエクスは攻め続けなければ負けると言うことですか?」

「そういうことだ。押しているようには見えるが、どちらが勝ちに近いかの判断は難しい」


 俺は難しいと言ったが、客観的に見てより勝ちに近いのはルカの方だろう。


「まあ、七対三でルカが優勢かな。あ、八対二になったよ」

 クルスが笑顔で言う。


「そうか。エクスは努力家で才能があると思うのだが……それでも……」

 ベルダは少し寂しそうに言う。


「ルカが強すぎるだけで、エクスは凄いよ。びっくりだよ」

 そう言ってクルスは腕を組んでうんうんと頷いていた。


「破壊神の権能がどういうものかわからないが、それ次第ではルカに勝てるかもな」

「アルラさま、本当ですか?」

「ああ。流石はベルダの副官だな」

「ありがとうございます。とても嬉しいですわ」


 俺たちが話している間も試合は続く。

 エクスの攻撃を凌ぎきったルカが攻勢に転じる。

 ルカの攻撃が鋭く苛烈で、エクスは防戦一方に追い込まれる。

 そしてついには剣を落とした。


 するとルカは距離をとる。


「そろそろ、破壊神の力を使ってもいいんじゃない?」

「……私は剣士として」

「それはわかるけど……。持てる力を全部つかうのも大事なんじゃないかしら?」


 剣士としての勝負は、剣を落とした時点でエクスはルカに負けた。

 才能と努力はエクスもルカに負けていない。だが、経験の差が大きかったのだ。


「先にお願いを聞いたのだから、私のお願いも聞いてほしいかも」


 剣士として戦いたいという願いを聞いたのだから、次はこちらの願いを聞いてほしい。

 そうルカは言っているのだ。


「わかりました」

 そう言ってエクスは落とした剣を拾った。


「ありがとう」

「ですが、……私に破壊神の力を使わせたこと、後悔しても知りませんよ?」

「後悔させて見せなさい」


 そうルカが言った瞬間、エクスは剣で斬りかかる。

 そしてルカがその剣をかわすと、エクスはルカの方に手をかざした。


「ちぃ!」

 同時にルカは何もない空中を斬った。


 ——ガチン!


「恐ろしい技を使うのね」

「……まさか破壊神の力を斬られるとは思いませんでしたよ」

「へー。これが噂の破壊神の力。凄いわね」


 どうやら、ルカは不可視の攻撃を斬り落としたらしい。


 ——ガチンガチンガチン


 その後もエクスは剣を振るい、破壊神の力を撃ち込む。

 そしてルカはエクスの剣をかわし、破壊神の力を斬り落としていった。


「……いやいや、おかしいだろ。破壊神の力って斬れるものなのか?」

 俺がそう言うと、クルスが首を傾げた。


「そりゃ斬れると思いますけど、どこらへんがおかしいんですか?」

「まあ、物理的に何かを破壊する能力なら、物理的に斬られてもおかしくないのだわ」


 クルスとユリーナにとっては、壊せるのは自然なことらしい。


「…………俺はおかしいと思うがな」


 もしエクスと戦った時、俺もどうするか考えねばなるまい。

 俺はルカとエクスの試合を観察する。

 ふと横を見ると、ベルダがハラハラした様子でエクスを見守っていた。

 戦況はルカがギリギリ勝ちそうだ。


「さすがはルカだな。破壊神の力があっても勝つか」


 じっと試合の様子を見ていると、俺もなんとなく破壊神の権能を迎撃できる気がしてきた。

 なぜかは、俺にも明確にはわからない。

 見えないし、聞こえないし、匂いもない。それに魔力とも違う。

 だが、破壊神の力というものを感じるのだ。


「……ふむ」


 俺もエクスと戦って勝てる気がしてきた。

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