ダンジョン攻略に向かうことが決まると、ルカとエクスは装備を調えるために出かけていった。
旅とダンジョン攻略では、装備が変わるのだ。
エクスは冒険の経験が少ないので、アドバイス係としてルカが同行することにしたのだ。
そして、ベルダを代官所に残して、俺たちはトムの宿屋にひとまず戻る。
「アルさん、アルさん! 竜がすごかったね」
トムが嬉しそうにかけてきた。
古代竜の大公六柱の来訪はエルケーにいる者が全員が気付いただろう。
今頃ベルダもエルケーの混乱を収拾するために動いているに違いない。
「うむ。あの竜たちはシギのお友達なのかや?」
子供たちに囲まれたヴィヴィがやってきた。
ヴィヴィは子供たちの面倒を見ていたようだ。
そんなヴィヴィにティミショアラが胸を張って返答する。
「シギショアラの友達ではない。臣下である」
「臣下? 臣下ってなにー?」
子供たちが無邪気な笑顔で尋ねてきた。
「臣下とは家来なのである」
「え、シギちゃんの家来なの? すげー」
「りゃぁ!」
そんなことを話していると、準備を終えたルカとエクスが帰ってきた。
装備を整えたエクスは、どこかわくわくしているように見えた。
ダンジョンを攻略が楽しみなのかもしれない。
エクスは動きやすい鎧や換えの剣。
たいまつやローブに非常食などをしっかりそろえていた。
経験豊富なルカがしっかり指導したようなので安心だ。
エクスのことを子供たちやステフなどにも紹介した後、みんなでおやつを食べることになった。
その席でルカがエクスに尋ねる。
「エクス、例の神託ってどんな感じでくだされるの?」
「ちなみにチェルの場合は、言葉が降ってきたらしい。チェルと司祭に同時にな」
『そうだよ! ぴぎい!』
俺の言葉に、チェルノボクがふるふるしながら同意してくれる。
「ぼくは神託とか受けたことはないよ!」
「俺も受けたことはない。古代竜の魔導具がなければ自分が使徒だと言うことすら気付かなかっただろう」
「そういう使徒もいるんですね……」
エクスは少し驚いたようだった。
「で、エクスはどんな感じだったの? チェルみたいに言葉が降ってくる感じ?」
クルスに促されて、エクスは語り始める。
「破壊神の神託は夢の中でくだされます」
「夢なのね。文字通り夢だったってことはないの?」
ルカがじっとエクスの目を見て尋ねる。
夢ならば何でもありだ。
夢を通して神託を下したのか、神託を受ける夢を見ただけなのかは判断がつきにくい。
そうルカは考えたのだろう。
エクスは過去にうけた神託について語ってくれる。
どうやら、エクスは何度も受けているらしい。そのすべてが夢だったらしい。
使徒となったことも夢の中の神託で教えてもらったとのことだ。
そして能力を新たに使えるようになったときも教えてくれたという。
「破壊神は面倒見がいいんだね〜」
クルスはうんうんと頷いている。
「確かに夢なのですが、これは神託だというはっきりとした確信があります」
「なるほど?」
ルカが首をかしげる。ルカは確信と言うところがわからないのだ。
そんなルカに説明するようにエクスが続ける。
「能力を使えるようになったときも、突然できると理解しました」
「理解ねぇ」
「言葉では説明できないのですが、見た瞬間に『壊せる』と理解できるのです」
「……そういうことならわかるかも。私も見た瞬間斬れるとわかるときがあるから」
ルカはうんうんと頷いている。
だが、ルカのそれは剣士としての鍛錬の果てにたどり着いた境地で、神託とは別だ。
そう思ったのは俺だけでなく、ティミも一緒だったようだ。
「多分、ルカのそれはまた別であろう」
「ティミの言うとおりだが、理屈ではなく理解できたという点では同じだな」
「アルラが言うならそうかもしれぬ」
ティミはうんうんと頷いた。なにやら納得したようだった。
その日はダンジョン探索の前日と言うこともあり、特に仕事もせずにゆっくりと過ごした。
エクスも子供たちやフェムやモーフィ、シギショアラやチェルノボクと交流して楽しそうだった。
夕方になるとベルダもトムの宿屋に来たので、皆で夜ご飯を食べて鋭気を養った。