エクスはまっすぐな目をして言う。
「結論から言わせていただきますと、破壊神を完全に信用しているわけではありません」
「え? そうなの?」
「はい、クルスさん。そうなのです。ですが破壊神に感謝しているのは確かです」
そしてエクスは破壊神の使徒になった経緯を語る。
エクスの実家、ヘイルウッド侯爵家は剣で名をなした武人の家系。
だが、エクスはうまく剣を使えなかったため、実家の侯爵家を廃嫡されて追い出されてしまった。
「その日の晩に破壊神が神託と同時に力を授けてくれたのです。性格が気に入ったとかそのようなことを言ってました」
「ちょ、ちょっとまって」
話しを遮ったのはルカである。
「その剣の腕で追い出されるとか、ありえないでしょう?」
「実は私は呪われていまして……」
ヘイルウッド侯爵家をエクスの弟にに継がせたかった継母が呪いをかけて体を自由に動かせなくしていたのだ。
日常生活には支障がない程度の不自由さだったが剣士としては致命的。
そのせいでエクスは血のにじむような鍛錬を重ねても剣を思うように振るえなかった。
「破壊神が力を授けてくれると同時に呪いも解除してくれて……」
「呪いをとかれたら、真の実力を発揮できるようになったということ?」
「はい、そうなります」
「…………そうだったのね。私はエクスと、その剣の鍛錬を尊敬するわ」
「こ、光栄です。剣聖様にそう言っていたけるなんて」
「エクスの剣と対峙したら、どれだけ鍛錬を重ねたのかはわかる」
「そだね、それは見てたぼくもそう思った」
「自由に体を動かせず、上達もしない中、鍛錬を続けるというのがどれだけ大変かわかるもの」
鍛錬を続ければ剣の腕前が上がっていく。だから剣を振ることが楽しくなる。
上達していることがわかるからこそ、人は頑張れるのだ。
「私は破壊神を信用するわ」
「え? ルカ、それはなんで? エクスを信用するならわかるけど」
「クルス。考えてみなさい。成果が出ないのに、ひたすらに努力できる人間はそういない。尊敬できる」
「そうだね」
「そのエクスを性格が気に入ったからと選ぶ破壊神もきっといい奴よ」
「そっかー。そうかもね」
クルスも納得したようだった。
そしてルカはエクスの手を掴むと目をじっと見つめた。
「エクス、本当にすごいと思う。感動したわ」
「……ありがとうございます」
エクスはポロポロと涙をこぼした。
尊敬する剣聖ルカから認めてもらって、感極まったのだろう。
気持ちは非常にわかるので、俺たちは皆黙ってエクスが落ち着くのを見守った。
ルカやクルスは破壊神の神託の通りに動いてもいいのではないかと考え始めたようだ。
俺も元々ダンジョンに潜るつもりだったこともあり、奥の不死者を倒しに行くことに異論はない。
だが、他のメンバーの意見も聞くべきだろう。
「ベルダはどう思う?」
「私はエクスを信用しておりますゆえ……」
「そうか、ユリーナは?」
「クルスがいいと思うのなら、私もいいと思うのだわ」
ユリーナはクルスの勘に信をおいているらしい。
俺もクルスの勘は、ある程度信用している。
「で、ティミはどう思う?」
「うむ。我は神を信用できるかどうかなどはどうでも良い」
「えー。どうでもいいの?」
「うむ。クルスよ。そもそも神について、人や竜の思考で捉えることが無理なのだ」
「そっかー」
「神の真意を推し量ることも我らには到底無理なこと。わからぬことは考えるだけ無駄である」
ティミはいつも神の真意はわからないと言っているので、予想できた答えだ。
「どうでわからないなら、当初の予定通りいけばいいということか?」
「うむ。アルラの言うとおりではあるのだが、竜神様が使徒を選んだタイミングがな……」
「りゃあ?」
俺に抱かれていた竜神の使徒シギショアラが首をかしげる。
そんなシギをティミは優しく撫でた。
「神の真意を推測すること自体が不敬にして傲慢ではあるのだが……」
「タイミングが良すぎるということか」
「そうだ。アルラそう思うであろう?」
破壊神が神託で、神々の使徒が集まると告げる。
そして、それに合わせるかのように竜神がシギを使徒と定めたのだ。
「真意を推量してはいけないのだが……。どうしてもな」
「確かに竜神も破壊神の神託の通り、動くことを望んでいると考えた方が自然やもしれないな」
「アルラの言うとおりである」
「やはり、シギも一緒に行くべきだよな」
「りゃ!」
シギは任せろと言わんばかりに胸を張っていた。
破壊神の神託は、神の使徒たちは力を合わせて迷宮の奥に居るものを倒せというものだ。
ならば、竜神の使徒であるシギも破壊神の神託に含まれるだろう。
ということで、みんなで明日ダンジョンに入ることになった。
ダンジョン攻略メンバーは神の使徒である俺、クルス、エクス、シギショアラ、チェルノボク。
それに王族であるベルダに、ルカ、ユリーナ、ティミショアラにフェム、モーフィとなった。