モコの言葉を聞いて、ティミが満足げに頷いた。
「うむ。やはり魔人の不死者であるか。ならばよし! 倒し害があるというものだ」
「………………ティミショアラ殿。あなたが比類なき力の持ち主だと言うことはわかる」
「そうか。偉大なる魔狼の王にそう言ってもらえると嬉しいものだ」
「だが、魔人の不死者は倒せる者ではない。倒せないからこそ封じたのだから」
「ふぅむ?」
「悪いことは言わぬ。ここで引き返すが良かろう」
モコは俺たちのことを心配しているという感じでもない。
どちらかというと、討伐失敗することにより魔人の不死者を解き放すことを恐れているようだ。
「魔人の不死者はそれほど恐ろしいのか?」
「……強力である。人の身で倒せる相手ではない」
「どうして? そんなにつよいの?」
そう尋ねたのはクルスだ。
クルスは、どうやらわくわくし始めているように見える。
クルスの悪い癖だ。
「圧倒的な魔力と身体能力は言うまでもなく、再生能力がすさまじい。そして戦闘経験の量が尋常ではない」
「そっかー。再生能力は面倒だけど、ほかは普通の強敵とあまり変わらないようなきもするかな」
「それは、クルス殿が実際に見ていないからそう思うのだ」
「じゃあ、モコちゃんは誰なら倒せると思うの?」
「……モコちゃん?」
クルスにモコちゃんと急に呼ばれて、モコはピクリとしてクルスを見た。
怒っているという感じではなく。戸惑っていた。
「…………ああ、そうだな。不死者の魔人を倒せる者か」
気を取り直したモコは真剣な表情で考える。
「……魔王と勇者が、力を合わせてもまだ足りぬであろう」
「加えて竜王と破王と死王がいたらどうかな?」
「…………荒唐無稽なことを尋ねるのだな。あまりに突拍子のないことであるが、もしそれだけ居れば倒せるかもしれぬ」
「じゃあ、大丈夫だね!」
「クルス殿。どういうことか?」
「ぼく、勇者だからね! そしてアルラさんが魔王で——」
クルスがそれぞれの神の使徒をモコに教える。
「……そうだったのか。よくそれほど集まったものだ」
「破壊神が神託を下したし、タイミング良くシギちゃんが竜王になったし、神たちも望んでいるのかもしれないね」
クルスがそう言うと、シギショアラが「りゃあ」と鳴いた。
俺の懐の中で、シギも話を聞いていたようだ。
「そうか。神々が……。そうか。やっとか」
どこかモコは遠い目をして言う。
そんな様子を見て、俺は少し気になったことがあった。
「モコ。聞きたいことがある」
「どうしたのだ? フェムの主よ」
「モコは呪いをかけられ行動を支配され、全身を金属生物のゾンビで覆われ死ねないようにされていた。そうだな?」
「そのとおりだ」
「俺はモコはこのダンジョンを作った者に、無理矢理そうされたのだと思っていたのだが……」
俺がそう言うと、モコはゆっくりと尻尾を動かした。
「フェムの主よ。推測の通りだ。儂は自ら望んでこの場にいる」
「どういうことだ?」
「それを理解してもらうためには、魔人の不死者と我が主についての話しを聞いてもらわなければならぬ。長くなるが……」
「かまわない。聞かせてくれ」
「わかった。ところで、儂のことはどのくらい知っているのだ?」
「ほとんど知らない。三百年ほど前にムルグ村周辺の魔狼王で、当時の勇者に従ったと聞いたな」
三百年前の勇者は、魔王を討伐した後、冷遇されて辺境の地にムルグ村を作ったのだ。
その際、周辺を支配していた魔狼王を
「そのとおりだ」
「あとは魔天狼で、勇者の死後ムルグ村を去った。そのぐらいか」
魔天狼とは魔狼の上位種である。
フェムは勇者であるクルスに撫でられまくった結果、魔天狼になった。
モコも恐らく三百年前に勇者に撫でられまくって魔天狼になったのだろう。
「そうか。現代にはそう伝わっているのだな」
「本当は違うのか?」
「フェムの主よ。勇者の墓は見たことはあるか?」
「そういえばないな」
「おかしいと思わぬか? 勇者は村を作った立役者である。その墓がないわけがないだろう」
モコにそう言われて、ユリーナが言う
「そう言われたらそうなのだわ」
「村人の墓地に一緒に埋葬されているものだと思っていたけど」
ルカの言葉に同意するようにヴィヴィがうんうんと頷いている。
俺もルカと同じように考えていた。
死んでまで目立ちたくなかったのだろうと勝手に推察していた。
「……我が主は確かにそのような謙虚な人物であったが、そうではない」
「というと?」
「勇者はムルグ村では死んでいない。我と一緒にムルグ村を去ったのだ」
「ムルグ村で嫌なことがあったのか?」
「そうではない。ムルグ村の生活が安定したゆえな。主はより必要とされる場所へと向かったのだ」
「その必要とされる場所というのはエルケーか?」
「うむ。魔王を倒された後、魔族たちはひどく虐げられていたのだ。それをどうにかしようと我が主は考えたのだ」
現代と同じようなことが三百年前にもあったのだろう。