俺はモコに尋ねる。
「今までの話から判断するに、この奥に居る魔人の不死者はモコの主ということだよな」
「その通りだ」
「勇者が魔人になったのはわかった。だが、なぜ不死者になったんだ?」
それに魔人の不死者となった元勇者が封じられている理由もわからない。
「人族の国を制圧するのは魔人となった我が主でも、難しいことだった。それゆえ不死者になったのだ」
「死なない体を手に入れて、限界を超えて戦うためか?」
「そうだ。儂も、仲間たちも皆止めた。だが、そうでなければ王都を落とすことはできなかっただろう」
「なるほどな。モコの主にはどうしてもそうしなければならない理由があったんだな」
「理解感謝する。フェムの主よ」
そういうと、モコはゆったりと尻尾を揺らした。
魔人となり、不死者となっても、今でもモコにとって三百年前の勇者は大切な主なのだろう。
勇者の気持ちは、俺にも理解できなくはない。
虐げられる魔族を救うためにはそれしか手段が思いつかなかったのだ。
「わからなくはないわ」
ルカがそう言うとクルスとユリーナ、エクスも同じ気持ちだったようで頷いていた。
「勇者が封じられている理由は何だ?」
「うむ。魔人となり不死者になることには代償を伴ったのだ」
「代償か。人で無くなることがすでに大きな代償だとは思うが……」
「それだけではない。我が主は徐々に思考と人格がおかしくなっていった」
「性格まで、人から魔人側にひっぱられるようになったということか?」
「そうだ。温厚で慈悲深かった性格は、冷酷で残忍になっていったのだ」
そういったモコはとても悲しそうに見えた。
豹変した主をみるのが非常につらかったのだろう。
「人族の王族を皆殺しにしたとき、すでに性格はおかしくなっていたのかもしれぬ」
王族の皆殺しも反対はあったものの、それが必要なことなのだろうと皆も納得した。
だが、その後も勇者はますます残酷さをましていった。
そして、その頃には聖神の加護も勇者から失われたという。
「そんなある日、我が主が言ったのだ。私を殺せと」
勇者も自分が変わっていくことに気付いたのだ。
「だが、殺せなかった」
「それは仲間だからか?」
「もちろん、そういう感情はあったことは否定しない。だがそういうことではない。純粋に強すぎたのだ」
いくら殺しても魔人と化し、不死者となった勇者は再生する。
そして傷つけるたびに残酷さが増していく。
肉体が傷つくと同時に、人であった頃の心が壊れていくようだった。
「だから封じたのだ。封じるしかなかった。倒せぬまま完全に人の心を失えば儂らにはなすすべがなくなるゆえな」
封じたのは、勇者の仲間であった魔導士と治癒術士。それに当時の魔王だ。
戦士は魔法について詳しくなかったので、封じる事業には参加しなかったという。
魔導士、治癒術士、魔王はエルケーの地下にあった神代の迷宮を再利用し、総出で改造して封印を施した。
「そして儂は、主の封印を守るため、自ら望んでこの場所にいる」
「金属生物のゾンビと行動を支配する呪いは何のために?」
「あれは魔王と魔導士に頼んだ。数百年数千年と続く生命維持はああするしかない。それに、長いときは儂の性格をも変えるやもしれぬ」
だから、モコは頼んで呪いで拘束してもらったのだ。
性格の変わっていく主を見たことで、自分の性格と意思も永続的ではないと考えたのだろう。
「ちょっと待つのだわ。モコの話に出てくる魔導士って、不死者の王のことよね」
「そうだな。不死者の王からは三百年前の勇者の仲間だったと聞いたな。モコのことも知っていると言っていた」
俺がそう言うと、モコはふうと息を吐いた。
「そうか。魔導士は不死者の王になっていたのか。確かに禁断の魔術にも詳しい奴であったが……」
「不死者の王は、魔人と手を組み勇者の封印を解こうとしていたようだ。……倒したが」
「魔導士はこの迷宮の作成に携わっている。魔人と手を組んだ程度では突破できないことは知っていただろうに」
「ならなぜ不死者の王はダンジョンの突破を目指したんだろうか?」
俺の言葉に、モコは少し考えるそぶりを見せた。
「……勇者の近くで死にたかったのやもしれぬな。もしくは不死者側に意識を引っ張られ、正常な判断力を失っていたかだ」
そしてモコは少し遠い目をしていう。
「儂はあの聡明だった魔導士が正常は判断力を失ったとは思いたくはない。だから勇者の近くで死にたかったのだと思いたい」
「そうか、そうなのかもしれないな」
「フェムの主よ。魔導士を止めてくれたこと、礼を言おう」
「礼には及ばない」
話を聞いていたクルスが尋ねる。
「魔導士は不死者の王になったとして、魔王と治癒術士はどうなったのかな?」
「儂はこの場にずっといたから、その後のことはわからぬ。だが魔王は田舎に行くと言っていた。そこで静かに余生をすごしたのではないか?」
「治癒術士は?」
「治癒術士は人族の王になった。王族というベルダがよく似ているゆえ、今でもその子孫が王なのだろう」
そういうと地面に伏せた状態だったモコは顎まで地面につけて大きく息を吐いた。