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第144話

 ルシアナが開拓村に再度訪れて、四日が経過した。

 村の緊張感はとにかく半端ないことになっている。

 まず、一番の問題は寝る場所が不足していることにあった。

 最初は村人たちの家にそれぞれ泊めていたが、さすがに人数が増えるとそうもいかなくなり、結果、数が少ない女性の冒険者は村人の家に泊まり、男性は大聖殿の広間に泊まることになった。

 仕切りもない雑魚寝状態。

 当然、トラブルは耐えない。

 いびき等の騒音トラブルならまだマシで、そこから発展する喧嘩、さらには盗難トラブルまでルシアナのところに舞い込んでくる。

 トラブルが起きるたびに、ルシアナが出向いて解決に乗り出す。

 ちなみに、盗んだものについては、神獣が臭いを辿ってすぐに犯人を特定。捕縛され、縄でグルグル巻きにして個室に監禁した後、後日、物資の調達にいく冒険者パーティによって近くの町まで護送された。

 急いで仮設の住居を建築しているが、それでも十分な数を用意するのは無理だろう。


「まったく、なんで冒険者はこんなに問題ばかり起こすのかしら? 盗難二十七件、暴力事件が二十六件、うち喧嘩十七件、夜這い六件、その他のトラブル……マリア、このその他のトラブルっていうのは?」

「冒険者の顔が怖くて子供が泣いてしまったそうです」

「そんなところまで報告する必要はありません!」

「細かいトラブルまで報告するようにと仰ったのはお嬢様ですよ」


 と言って、マリアが淡々と報告する。

 盗難事件のうち、先ほどのように他人の金目の物を盗む悪質な犯行が三件で、彼らは全て近くの町に罪人として送った。ほとんどは、畑の野菜を勝手に食べたり、作っている炊き出しの料理のうち他の人の分まで食べたりといった小さな物で、彼らは罪人として送らず、むしろ翌日は一番きつい場所に割り当てられて死ぬ気で戦ってもらうことになった。

 喧嘩については、その喧嘩の原因について聞き取りをして、それぞれルシアナと族長の二人で裁定を下した。

 当然、文句も出たが、公爵令嬢の権力の前に無理やり納得させた。

 村民同士の仲裁なら、後に遺恨を残さないためにも双方に納得させる裁定が必要だけれども、今回は緊急事態。このように無理やりにでも解決しないといけないのがもどかしい。


「喧嘩が多すぎるんです」 

「そもそも、お嬢様がこの開拓村に来た理由が喧嘩の仲裁ですからね。ぴったりの仕事じゃないのですか?」

「……あぁ、そうでしたね」


 因果は巡るということでしょうか。

 そう思っていたら、団長が訪れた。


「ルシアナ様、少しいいか?」

「なんですか、団長さん。もうお礼なら必要ないと申したはずですよ」


 ルシアナが村に来た翌日の夕方、青年団たちがルシアナの歓迎会をしたいと言い出した。

 罰金を肩代わりし、釈放に協力してくれたルシアナに感謝をしたかったのだろう。

 だが、それは村が緊急事態だからという理由で断った。


「いえ、そうではなく、これ――」


 団長が置いたのは一本の薬瓶だった。


「こちらは?」

「味覚を変える呪法薬です」

「えっ!?」

「ルシアナ様が去った後も、夜の空いている時間に森の賢者様に教わって勉強したんだ――です。最初は失敗することが多かったが、いまは安定して作れるようになった――あ、なりました」

「いまさら敬語なんて必要ないですよ。それより――」


 とルシアナは薬瓶を見た。


「効果は?」

「抜群だ。これを飲んでから塩を舐めたら酸っぱかったし、蜂蜜を少し舐めたらすごく苦かったから」

「凄いですね。お嬢様でも作れなかったのに」

「別に、私は呪法の専門家というわけではありませんよ」


 必要以上に感心するマリアに、ルシアナが苦笑して言う。


「試してみるか? 蜂蜜と塩なら用意してるぞ」

「ええ、是非一度」


 ルシアナが薬瓶を受け取ると――


「あ、でも、貴族って毒見とか必要なのか?」

「ふふふ、大丈夫ですよ。それに、毒も結構おいしいですし」


 ルシアナはそう言って、呪法薬を飲んだ。

 そして、塩を嘗めてみる。

 酸っぱかった。

 確かに、塩味が酸味に変わっている。

 そして、蜂蜜を舐めると苦い。


「見事です、団長さん! それに、私が知っている味覚改変の呪法薬より、良い香りがしますね。工夫したのですか?」

「え? いえ、特に匂いは工夫していませんが――いい匂いがするんですか?」

「ええ……なんでしょう、作り方が少し違うのでしょうか?」


 まぁ、嫌な臭いがするよりは遥かにいいとルシアナは思った。

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