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第22話 メイちゃんを助けてあげて?

「……以上が各自の放課後の予定になります。忙しい1日になると思いますが頑張ってください」

「「「はいっ」」」




 生徒会室でのお昼のミーティング。


 もうすっかり生徒会の雰囲気に慣れた俺は、よこたんや廉太郎先輩と一緒に、元気のいい返事を羽賀先輩に返す。


 最初は嫌々で始めた生徒会だが、今となってはほんの少しだけやりがいを感じている。


 ほんと「ありがとう」は人生のご褒美だ!


 さあ今日の放課後もバリバリ仕事するぞ!


 と、やる気に満ち溢れている俺とは対照的に、ボケーとしている人物が1人。




「…………」

「……それと会長には今日中に済ませて欲しい書類があるので、そちらを優先して――会長? 聞いてますか?」

「えっ!? あ、あぁ、ごめんなさい。何でしたっけ?」

「……いえですから書類を……大丈夫ですか会長? 顔色が悪いですよ?」




 羽賀先輩が心配そうに古羊の顔を覗きこむ。


 すると、もう仕事に取り組んでいた廉太郎先輩が帳簿を見て「んん?」と眉を吊り上げた。




「めぇちゃん。ここの帳簿の計算、また間違ってるよ?」

「えっ!? ほ、ほんとですか!? す、すみません! すぐ直しますから!」

「いや、これくらいなら僕が直しておくよ」

「……本当にすみません」




 しゅんっ、と肩を落とす古羊。


 星美高校の佐久間が猫を引き取って5日。


 どうもあの日以来、古羊の様子がおかしい。


 ボーとしていることもあれば、今みたいに小さなミスをすることが増えたのだ。


 最初は役員全員、「たまにはこんな日もあるか」と楽観的に捉えていたが、こうも連続してミスが起こると、さすがに看過できなくなってくるわけで。


 今まで完璧に仕事をこなしてきただけに、みんな「どこか体調が悪いんじゃないか?」と心配しているようだった。




「なぁ~んか『あの日』以来、古羊の様子がおかしいよなぁ。あっ!? 『あの日』と言っても、別にいやらしい意味じゃないからな!? 勘違いしないでよねっ!」

「今日もししょーは平常運転だね」




 ここ最近で俺の扱いにだいぶ慣れたのか、倦怠期けんたいきの人妻並みにフラットな口調でそうつぶやく妹ちゃん。


 そんな軽快なやり取りをしている間にも、古羊がまたミスをしたようで、目を通していた書面がビリビリに破れていた。




「だ、大丈夫かなぁメイちゃん?」

「いや大丈夫じゃねぇだろアレ? はやく何とかしないと倒れるぞ……羽賀先輩が」




 青い顔を浮かべながら必死に古羊のフォローに回る羽賀先輩を眺めながら、1人しんみりと頷く。


 もともと体力が無い人なのか、羽賀先輩の顔は妙に疲れ切っていて、今にも倒れてしまいそうだった。


 これは我らが偉大なる先輩の心の安寧あんねいのためにも、古羊には早くもとに戻って貰わなくては。


 そのためにも、まずは妹分の力を借りることにしよう。




「ところでアイツ、昔、あの佐久間って『元カレ』と何かあったワケ?」

「な、なんで今ソレを聞こうと思ったのかな?」

「いやだって、アイツに会ってから古羊の様子がおかしくなり始めたし。それに2人のやりとりからして、なんだか『ワケあり』って雰囲気がぷんぷんするし」




 どうなの? と視線で問うと、よこたんは観念したかのように小さくため息をこぼした。




「ハァ……確かにししょーの言う通り、メイちゃんと佐久間くんには浅からぬ因縁があるよ」

「やっぱり」

「でも――」




 姉を一瞥いちべつしたよこたんが、少し逡巡しゅんじゅんした様子を見せながら、意を決したように口をひらいた。




「でも、その件に関してだけは、ボクの口から説明することは出来ないんだよ」

「なんで?」

「メイちゃんの過去に関わる大事な話だから」

「古羊の過去?」

「うん。だから聞くならメイちゃんに、直接聞いてみて」




 古羊はまっすぐ俺の瞳を見据えながら、




「でももし、ししょーがその話を聞いて何かを感じたのなら、メイちゃんを……けてあげて? 結局それは、ボクには出来なかったことだから」

「えっ?」




 それだけ伝えると、よこたんは苦笑交じりの笑みを溢しながら、古羊のもとへと歩いて行った。


 俺は彼女が残した言葉の意味がよく分からず、その場で立ちつくした。


 ただ、彼女が置いていった言葉だけがやけに耳に残った。

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