「……以上が各自の放課後の予定になります。忙しい1日になると思いますが頑張ってください」
「「「はいっ」」」
生徒会室でのお昼のミーティング。
もうすっかり生徒会の雰囲気に慣れた俺は、よこたんや廉太郎先輩と一緒に、元気のいい返事を羽賀先輩に返す。
最初は嫌々で始めた生徒会だが、今となってはほんの少しだけやりがいを感じている。
ほんと「ありがとう」は人生のご褒美だ!
さあ今日の放課後もバリバリ仕事するぞ!
と、やる気に満ち溢れている俺とは対照的に、ボケーとしている人物が1人。
「…………」
「……それと会長には今日中に済ませて欲しい書類があるので、そちらを優先して――会長? 聞いてますか?」
「えっ!? あ、あぁ、ごめんなさい。何でしたっけ?」
「……いえですから書類を……大丈夫ですか会長? 顔色が悪いですよ?」
羽賀先輩が心配そうに古羊の顔を覗きこむ。
すると、もう仕事に取り組んでいた廉太郎先輩が帳簿を見て「んん?」と眉を吊り上げた。
「めぇちゃん。ここの帳簿の計算、また間違ってるよ?」
「えっ!? ほ、ほんとですか!? す、すみません! すぐ直しますから!」
「いや、これくらいなら僕が直しておくよ」
「……本当にすみません」
しゅんっ、と肩を落とす古羊。
星美高校の佐久間が猫を引き取って5日。
どうもあの日以来、古羊の様子がおかしい。
ボーとしていることもあれば、今みたいに小さなミスをすることが増えたのだ。
最初は役員全員、「たまにはこんな日もあるか」と楽観的に捉えていたが、こうも連続してミスが起こると、さすがに看過できなくなってくるわけで。
今まで完璧に仕事をこなしてきただけに、みんな「どこか体調が悪いんじゃないか?」と心配しているようだった。
「なぁ~んか『あの日』以来、古羊の様子がおかしいよなぁ。あっ!? 『あの日』と言っても、別にいやらしい意味じゃないからな!? 勘違いしないでよねっ!」
「今日もししょーは平常運転だね」
ここ最近で俺の扱いにだいぶ慣れたのか、
そんな軽快なやり取りをしている間にも、古羊がまたミスをしたようで、目を通していた書面がビリビリに破れていた。
「だ、大丈夫かなぁメイちゃん?」
「いや大丈夫じゃねぇだろアレ? はやく何とかしないと倒れるぞ……羽賀先輩が」
青い顔を浮かべながら必死に古羊のフォローに回る羽賀先輩を眺めながら、1人しんみりと頷く。
もともと体力が無い人なのか、羽賀先輩の顔は妙に疲れ切っていて、今にも倒れてしまいそうだった。
これは我らが偉大なる先輩の心の
そのためにも、まずは妹分の力を借りることにしよう。
「ところでアイツ、昔、あの佐久間って『元カレ』と何かあったワケ?」
「な、なんで今ソレを聞こうと思ったのかな?」
「いやだって、アイツに会ってから古羊の様子がおかしくなり始めたし。それに2人のやりとりからして、なんだか『ワケあり』って雰囲気がぷんぷんするし」
どうなの? と視線で問うと、よこたんは観念したかのように小さくため息をこぼした。
「ハァ……確かにししょーの言う通り、メイちゃんと佐久間くんには浅からぬ因縁があるよ」
「やっぱり」
「でも――」
姉を
「でも、その件に関してだけは、ボクの口から説明することは出来ないんだよ」
「なんで?」
「メイちゃんの過去に関わる大事な話だから」
「古羊の過去?」
「うん。だから聞くならメイちゃんに、直接聞いてみて」
古羊はまっすぐ俺の瞳を見据えながら、
「でももし、ししょーがその話を聞いて何かを感じたのなら、メイちゃんを……けてあげて? 結局それは、ボクには出来なかったことだから」
「えっ?」
それだけ伝えると、よこたんは苦笑交じりの笑みを溢しながら、古羊のもとへと歩いて行った。
俺は彼女が残した言葉の意味がよく分からず、その場で立ちつくした。
ただ、彼女が置いていった言葉だけがやけに耳に残った。