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第26話 そして『終わり』が始まった

 我が家で歓迎会という名の慰労会を開催して、2日後の週明けの月曜日。


 なんとなく古羊の様子を気になった俺は彼女の席へと視線を寄越すのだが、




「なんだ、まだ来てねぇのか」




 時刻は朝の8時15分ちょうど。


 いつもはこの時間には登校している会長閣下には珍しく、今日は遅い出勤らしい。


 なんて事を考えていると、




「ししょーっ!?」

「うわっ、びっくりした!」




 自分の席へと移動しようとした矢先、突然、至近距離から力強く名前を呼ばれ、らしくもなくビクッ!? と身体を震わせてしまう。


 な、なんだ、なんだ!?


 何事だ!?


 街中で女子大生のパンチラに遭遇したときのように心臓をバクバク!? させながら振り返ると、そこには亜麻色の髪をした弾丸、もとい双子姫の片割れ(妹ちゃん)が息を切らして縋るような瞳で俺を見上げていた。




「なんだ、よこたんか。おはよっぴ~♪ ――って、うぉ!? どうした、おまえ!? 目の下が凄いぞ!?」




 徹夜でもしたのか、目の下がパンダのように黒くなっている。


 瞳も赤く充血し、体もフラフラしていて危なっかしい。




「だ、大丈夫かよ? 保健室で休んだ方が――」

「ど、どうしよう、ししょーっ!? め、メイちゃんが……メイちゃんが家に帰ってこないの!?」

「……はっ?」




 ――そのとき、間違いなく俺の時間は一瞬止まった。




「い、家に帰ってこない?」




 よこたんの言葉に数秒間、思考が停止する。


 が、切羽詰った様子のマイ☆エンジェルの声に、再び思考が回り始める。




「お、おい? それ、どういう意味だ?」

「その!? だから!? メイちゃんが家に帰ってこなくて!? ボク、ボク……ッ!?」

「落ち着け、よこたん。大丈夫、ちゃんと聞くから。ゆっくり、自分のペースで喋るんだ」

「う、うん」




 乱れていた呼吸を整える爆乳わん娘。


 よほど焦っていたのか、体中、汗でびっしょりである。


 そこはかとないエロスを感じると共に規則正しい彼女の呼吸音を耳にしながら、ほんの少しだけ顔色がよくなったマイ☆エンジェルに俺の方から質問をぶつけてみた。




「落ち着いたか? それじゃ話してくれ」

「う、うん。その一昨日の土曜日ね、ししょーの家で歓迎会を開いたでしょ? その帰りにね、明日の朝ごはんを買いにスーパーへ寄ったら『あの人』と会ったの」

「あの人?」

「う、うん。佐久間くん」




 ドクンッ! と心臓が跳ね上がった。


 俺は呼吸を乱さないように気をつけながら続きを促す。




「さ、最初は『久しぶり』とか『元気だった』とか、他愛もない会話をして別れたんだけどね……。ボクがスーパーで少し目を離している間に……ッ!」

「気がついたら、姉がいなくなっていたと?」




 涙の膜が出来た瞳で小さく頷く。


 おそらく目のクマや疲れた表情からして、よこたんは一晩中、いや1日中姉を探し回っていたのだろう。


 それでも見つからないとなると、もうこの町には居ないと考えた方がいい。


 だとしたら、最後に古羊が頼る場所はどこか。


 そんなの、ひとつしかない。




「それで、よこたんよ? ちゃんと家には電話したのか?」

「だ、だから家には帰ってなくて!?」

「下宿先のマンションじゃなくて、実家の方だよ。もしかしたらアッチの方に帰っているかもしれないだろ?」

「ッ!? で、電話してみる!」




 ポケットからスマホを取り出し、実家へと電話をかける。


 ワンコールで連絡がついたらしく、マイ☆エンジェルが一言二言会話を交わすとあからさまに『ほっ』とした顔になった。




「――うん、うん。わかった。ありがとう、お母さん。……ししょーっ! メイちゃん、やっぱり実家の方に帰って来てるって!」

「そうか。よし、なら行くぞ」

「えっ? ど、どこに?」




 机の横にかけていたカバンを持ち上げ、昇降口に向けて歩いて行く。


 どこに行くかだと? 


 そんなの決まっているだろうが。




「おまえの姉ちゃんを迎えに行くんだよ」

「ッ! う、うんっ!」




 この日、俺たちは初めて学校をサボった。

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