目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第3話 失礼だな――変態だよ

 世の中、本物の恐怖を前にすると言葉が出なくなるモノだ。


 例えばそう、俺、大神士狼が小学5年生の冬に体験した【あの出来事】なんかイイ例だろう。


 あの日は確か、1日中雨が降っていた。


 おかげで身も心も冷たくなった俺は、早急に身体を温めるべく、学校から帰宅してすぐ電気ストーブの電源を入れたのだけれど、何故か電源が入らない。


 あれ、なんでだ? と不思議に思いストーブの背後を確認すると、どうやらコンセントが抜けかかっていたらしく、俺は『やれやれだぜ』と某奇妙な冒険に出てくる主人公のようなことを口ずさみながら、濡れた手でコンセントに触り、




 ――バチィッ!




 という炸裂音と共に、交流100Vの電流が俺を襲った。


 結果、俺はその場でハイスピード・テクニカルダンスッ!


 ぬるい人生なんてお呼びじゃねぇ!


 花火のように鮮やかで、ドブネズミのように美しい、おとこの生き様、せてやる! と言わんばかりの、ハード&ロックだ。


 それを当時中学2年生だった大神家が誇る不良ふりょう債権さいけんである我が姉上が発見。


 姉は俺のダンスを一通り見て爆笑した後、弟を助けるべく自称IQ53万の頭脳を高速回転させた。


 正直、感電する弟を放置して、しばらく爆笑する姉もどうかと思うが、問題はここからだった。


 弟を助けるべく卓抜たくばつなる頭脳で導き出された姉の結論は、




『そうだっ! 弟をドロップキックで蹴り飛ばそう』




 というモノだった。


 なんでも『外部から強い衝撃を与えれば、意識の有無に関わらず、コンセントを手放すに違いない!』と考えたらしい。


 しかもドロップキックならば、俺に接触した瞬間、姉も感電してしまうかもしれないが、空中に居る以上、慣性の法則が働き、意識の有無に関わらず俺を蹴飛ばし、コンセントを手放させることが出来る。


 まさに神の1手だ!


 そう1人納得した姉は、弟に渾身のドロップキックをお見舞いするべく、助走距離を取った。


 そしてクラウチング・スタートからのパンツ丸出しドロップキックにより、無事愚弟ぐていの救出に成功したのであった。


 ……ということを、自慢げに自分の友人たちに語っていた。


 さも武勇伝のように語る姉の隣で、この事件の全容を全て知っている俺は……姉のあまりのおぞましさに恐怖で何も言えなくなっていた。


 いやね? 姉の話だと『弟を蹴り飛ばして、無事救出したっ!』って所で終わってるんだけどさ? ……実はこの話には、続きがあるんだよね。


 当時の姉は戦闘民族である母の血を色濃く受け継いだせいか、ちまたで『喧嘩最強』と不良共に恐れられるほどの、名うての喧嘩師だったのよね。


 そんな姉の本気の一撃を顔面で受け止めた俺は、さぁ大変!


 俺の身体はものの見事にリビングの窓をブチ破って、お外でダイブッ!


 しかもそこへ『トドメだ!』と言わんばかりに、仕事から帰宅してきたママンのト●タ・カローラが息子を跳ね飛ばし、怒涛どとうの追撃。


 そしてロケットのごとく吹き飛んで行く俺の身体ボディは、最後のしめと言わんばかりに、大神家の斜め前のお宅の窓ガラスを、スタイリッシュにブチ破って停止した。


 騒ぎ出すご近所さん。


 わめき散らす人妻。


 血みどろの俺。


 爆笑する姉。


 車の心配をする母。



① プラグをコンセントに

    ↓

② 感電してロックンロール

    ↓

③ 姉、爆笑からのドロップキック

    ↓

④ 窓をクラッシュ

    ↓

⑤ お外へダイブッ! からの母のカローラでワントラップ

   ↓

⑥ 俺氏、キリモミ飛行からのフライング・ヒューマン

   ↓

⑦ からの相手民家ゴールリビングにシュート

    ↓

⑧ 再び窓クラッシュ

   ↓

⑨ 超エキサイティングッッ!

   ↓

⑩ そして伝説へ……。



 まさにピタゴラスイッチも真っ青な完成度である。


『まったく、軟弱な弟を持つと姉は苦労するわ。アイツ結局、指先を火傷して3日間病院へ通ったんだぞ? それにしても、電気って怖ぇよな。お前らも気をつけろよ?』


 まるで悪いのは『全て弟っ!』と言わんばかりに、喜々として友人たちに蛮勇ばんゆうを語る姉を前に、俺は己の血筋に畏怖いふを覚えずにはいられなかった。


 そして何気にそれだけの事がありながら、指先を火傷した程度で済む自分のタフネスさにも恐怖を覚えた。


 俺の身体にも、この蛮族どもの血が半分流れているのかと思うと……考えるだけで恐ろしい。




「いや、何の話をしてんのよアンタは?」

古羊おまえが『ヒマだから怖い話でもしろ』って言うから、怖い話をしてやってんだろうが。どうだ、怖いだろう? ウチの姉ちゃんの厚顔無恥こうがんむちさが」

「今のはどう考えても怖い話じゃない……いや、もういいわ。もう黙ってて。大神くんの話を聞いているとコッチの頭が変になりそうで怖いし」

「頑張ったのに酷い言われようだ……」




 夜空に浮かぶ三日月が、淡く俺達を照らし始めて1時間。


 一向いっこうに目的の変態が現れず、だんだんと集中力を切らし始めていた中、ちょっとした事件が発生した。




「ね、ねぇ、ししょー……」

「うん?」




 チマッと俺の制服の裾を握り締め、言いづらそうに口をモゴモゴさせる、よこたん。




「えっと、そのぉ」

「……あぁ、なるほど。おい古羊」

「なに? どうしたのよ?」




 膝をゴシゴシと擦り合わせる妹ちゃんの様子に合点がいった俺は、右隣の姉の方に声をかけた。




「よこたんがトイレに行きたいみたいだからさ、ちょっと持ち場を離れてもいいか? ってよ」

「す、ストレートに言わないでよぉ! ししょーのえっち!」

「……相変わらずデリカシーの欠片もない男ね。一体どこに落としてきたのかしら」




 よこたんからは羞恥しゅうちこもった瞳で、古羊からは生ゴミを見下ろすような視線で睨まれた。


 お、おかしい……俺なりに気を使ったのに。


 内心納得がいかないまま、改めてよこたんの様子を眺める。


 どうやら限界が近いようで、お股をせわしなく擦り合わせていた。


 気のせいか若干吐息が熱く、妙に色っぽい。




「悪いんだけど洋子、あと3時間我慢できる?」

「むむむむ、無理だよ漏れちゃうよぉ~っ!?」

「でも、もしかしたらもう変態はすぐ近くまで来ているかもしれないのよ。だから、もう少しだけ我慢してくれないかしら?」

「うぅぅぅ……ほんとに無理だよぅ。はやくトイレに行かないと漏れちゃうよぉ~」




 本当に切羽詰まっているのか、よこたんは今にも泣き出しそうだ。


 うーん、ちょっと可哀想になってきたなぁ。




「うぅ、助けて……ししょー……」




 上目使いの涙声でトイレに行きたいと懇願こんがんする、よこたん。


 もはや何振り構っていられない状態だ。


 ……でも神様、本当にすみません。


 このシチュエーション、何気に興奮するのは俺が変態だからですか?


 胸に芽生えた特殊性癖の目覚めにドギマギしながら、近くに放り投げていたバックを拾い上げる。




「ちょっと待ってな、すぐ用意するから」

「よ、用意?」




 困惑しているよこたんの声を無視して、俺はバックの中から飲みかけのペットボトルを発掘。


 そして中に入っていた液体を一気に飲み干し、空になったペットボトルを今にもダムが決壊しそうなラブリー☆マイエンジェルに差し出した。




「プハァッ! ……よし、準備完了。コレにおまえのロイヤル☆ストレートフラッシュを注ぎ込め!」

「えっ? ……えぇっ!? な、何言ってるのししょー!? これペットボトルだよ!?」

「安心しろ、よこたん。現代ではペットボトルに用を足す人間をボトラーと言ってだな――」

「いやいや、聞いてないからね!? というか無理だよ! ペットボトルにオシッコなんて、出来るわけないよぉ!」




 ブンブンと首を横に振り弱音を吐く、よこたん。


 俺はそんな爆乳わんの肩に手を置き、安心させるように言ってやった。




「大丈夫だ、よこたん」

「し、ししょー……」

「――上手く狙えば問題ない!」

「もう! もうもう! 変態っ! 変態、変態、へんたぁぁぁぁいっ!」




 ポカポカ、と空いたばかりのペットボトルで攻撃される俺。


 よほどペットボトルで用を足すのが嫌らしい。……まぁ嫌だわなぁ。


 しょうがない、もう1つの代替案だいたいあんでいくか。




「わかった、わかった。なら俺がよこたんのトイレに……」

「そういうボケは今はいらないよ!」




 彼女は知らない。


 世の中には特殊な性癖を持つ方々が楽しむアダルトビデオに、そんなシチュエーション・プレイがあることを。




「アンタたち、いつまで漫才を続けて――」




 古羊が呆れたように声を出そうとした。


 そのときだった。




 ――アーッハッハッハッハッハッハッ!




「「「ッ!?」」」




 突然、闇を切り裂くように、中年男性の脂ぎった声が中庭を駆け抜けた。


 なんだ!?


 なんの笑い声だ、コレは!?




「っ! ふ、2人とも! あそこの木の上に誰かいるよ!?」




 よこたんの声音に弾かれたように、マンションをいろどる木々の方へと視線を向ける俺と古羊。


 そこには……なんかライトピンクのパンティで顔を隠した変なオジさんがいた。




「天が呼ぶ、地が呼ぶ、乙女が呼ぶ! パンツを盗めと我を呼ぶ! 聞け、乙女どもよ! 我の名前は変態仮面! パンツに誘われただいま参上!」

「し、ししょーっ! 変態だよ! 度し難い変態がでたよ!?」

「なんか想像していたよりも100倍やべぇヤツが出てきたな……」




 卑猥極まる桃色のパンティを頭に被り、赤色のマフラー、そしてホットパンツに上半身裸のサスペンダーと、まるで変態のお手本のような奴がマンションの脇に立つ木の上で高笑いしながら俺達を見下ろしていた。


 アッハッハッハッハ! と、近所迷惑をかえりみることなく豪快に笑う変態紳士もとい変態仮面。


 ひ、酷い絵面だ……。


 お茶の間の良い子たちには見せられない光景だわ。




「……待っていたわよド変態がぁ。アンタの血を吸いたくて右手がウズウズしていたところよぉ!」




 ただこっちもこっちで酷い絵面だった。


 瞳に怪しい光を宿し、気持ちの悪い笑みを浮かべながらボキボキと拳を鳴らす我らが狂戦士古羊


 ヤバさの度合いでいったら変態仮面とどっこいどっこいだ。負けちゃいない。




「皆の者、出迎えごくろう! これより我は、その香ばしいパンツを夢の国へと連れて行こう!」

「夢の国……? アンタが行くのは黄泉の国よ!」

「や、ヤバいよししょーっ!? メイちゃんが! メイちゃんが!?」

「シッ、見ちゃいけません」




 よこたんが味方のあまりの恐ろしさに腰を抜かした。はやくも戦力が半分になった。


 わかる。わかるぞ、その気持ち。


 ぶっちゃけ俺も今の古羊は超怖い。


 気を抜くとションベンがチビりそうだっ!




「アッハッハッハッハ!」

「ケケケケケケケケッ!」




 まるで魂が共鳴するかの如く、声を張り上げる変態たち。


 俺もヤベェ奴を友達ダチにもったもんだ。




「まったく威勢のいいお嬢ちゃんだ。……ふむ。どうやら匂いからして、そのおパンツはそこの涙目のお嬢ちゃんのモノらしい。これはこれは――興奮してくるじゃないか❤」

「ひぃぃぃっ!? アッチもアッチで怖いよぉぉぉぉっ!?」




 あまりの怖さに半ベソをかきながらギュッ! と俺の腕に抱き着いてくるよこたん。


 あぁ、確かに怖い。


 このままだと人としての道を踏み外すどころか、よこたんルートを完全制覇するべく、この場でとんでもねぇ性犯罪を犯しそうで怖い。自分が怖い。


 むにむに♪ と俺の腕に押し当てられたBIGパイパイが変幻自在に形を変える。


 そのたびに俺の理性がギチギチときしんだ音を立て続ける。


 くぅっ!? ダメです、おっぱいの進撃が止められませんっ!


 これが噂に聞く進撃の巨乳かっ!?


 変態仮面の登場に、色んな意味でビビり散らす俺とよこたん。


 唯一ビビっていないのは、同じ穴のムジナであるバーサーカー古羊のみ。 




れるモノなら盗ってみなさい。ただし、その頃にはアンタは八つ裂きになっているでしょうけどね!」

「フッ、抜かしおる……ん? なっ!?」




 古羊に向かってニヒルな笑みを浮かべていた変態仮面が、突然驚いたように目を見開いた。


 そのパンティ越しの瞳はまっすぐ俺だけを捉えていて……えっ?


 な、なに?




「ら、裸王らおうっ!? 裸王ではないかっ!? どうしてここに裸王が居るんだ!?」

「……なに? アンタの知り合い?」

「し、知らない、知らないっ! あんな変態、全然知らないっ!」

「でもあのオジさん、ししょーをずっと見てるけど?」




『仲間なの? ならアンタも殺すけどいい? 答えは聞いてないっ!』と視線で語りかけてくる古羊に、ブンブンと慌てて首を横に振る俺。


 なにあの目?


 仮にも協力者に向ける瞳じゃないよ?


 完全にサイコパスの目だったよ?




「おいおい裸王、知らないとかそんな寂しいことを言わんでくれよ。我と貴君きくんはともにパンティーを交わしあった義兄弟ブラジャーじゃないかっ!」

「洋子、そのまま大神くんを押さえといてね?」

「待て待てっ!? 俺は無罪だ、冤罪だ! とりあえずバッドは下ろせ、古羊っ!?」

「わわわっ!? お、落ち着いてよ、メイちゃんっ!? おじさんの言葉はきっと、ボクたちのチームワークを乱すための妄言だよぉっ!」




 一体どこから取り出したのか、俺にむかって大きくバッドを振りかぶる古羊。


 その瞳にはためらいの光は一切なく、はっは~ん?


 さては俺、ここで死んじゃうな?




「おいオッサン! 適当なこと言うんじゃねぇよ!? というか裸王ってなんだ!? それ俺のことか!?」




 死にたくない俺の唇が、歌うように変態仮面をののしりにかかる。


 すると変態仮面は何かに気がついたかのようにハッ!? とした表情になると、申し訳なさそうに肩を竦めてみせた。




「いやはや、これは失敬。そういえば裸王は未成年ということが考慮され、我々のつどいには参加していなかったな」

「集い? なにそれ? 変態の集い? というか、なんで俺を知ってんだよ!?」

「貴君を知らない者など、我々の業界には居らんよ。居たとしたら、それはモグリに違いない」




 一体どこの業界か問い質したいこと山の如しだったが、それよりも先に変態仮面は自慢するように口をひらいた。




「その身のうちに秘めた変態的ポテンシャル。警察をあざ笑うかのごとき大胆不敵な露出ぶり。そして堂々とシャバを歩くその厚かましさ。貴君は期待の新人として、我々にニュージェネレーションの到来を予感させたよ」

「まぁ確かに、こんなに鮮やかにオウンゴールを量産できるエースストライカーも昨今中々居ないわよね」

「ねぇ古羊、それは遠回しに『バカ』って言ってない?」

「だ、大丈夫だよ、ししょーっ! おバカな子ほど可愛いってことわざもあるんだし、気にすることないよっ!」




 よく分からんフォローを入れてくるマイ☆エンジェルに、思わず涙がちょちょぎれそうになる。


 よこたん、おまえは本当にイイ奴だなぁ。


 あとでお菓子を買ってあげよう。


 なんて思っていると、古羊が「そうね」と妹の言葉を首肯した。




「確かに洋子の言う通りだわ。大神くんは世界で1番可愛いから、安心しなさい」

「ねぇ? それって俺が世界1のバカだって言いたいの?」

「ぼ、ボクだって、ししょーよりおバカな男の子はこの世に居ないと思ってるもんっ!」

「ねぇ? 2人は俺を遠回しの殺そうしている刺客だったりするの?」




 にっこり笑う古羊と、そんな彼女に張り合うように必死に俺を罵倒するよこたん。


 あのさ? これって『大神士狼をつるし上げようっ!』とか、そういうもよおしだったっけ?




「気を抜いたな? その乙女心に隙アリっ!」

「ッ!? しま――っ!?」




 双子姫の意識が俺に向いた一瞬の隙間を縫うように、変態仮面の肉厚ボディが宙を舞った。


 キラキラと月夜に照らされながら、その脂ぎった肉体がキレイな弧を描く。


 ……今、俺は何を見せられているんだ?


 あぁ、出来ることなら脳みそを取り外してガンジス川で洗濯したい!


 そして今しがたの出来事を丸々綺麗さっぱり忘れたい!




「フハハハハハハハハッ! そのパンツ……もらったバババババババババッ!?」




 変態仮面はパンツの手前で綺麗に着地し、そのままラブリー☆マイエンジェルのパンツを躊躇ためらいなく手にとった。





 瞬間――交流100Vの電流が彼を襲った。





 どうやらここに来る前に元気に借りた『スタンガン型洗濯物干し』、通称『とある科学の超電磁棒レーヴァテイン』はキチンと作動したらしい。


 そのふざけた幻想イマジンぶち殺ブレイクされた変態仮面が「アババババッ!?」と声を震わせながら、狂ったようにその場で小刻みに踊りだした。


 身体の奥から溢れ出るパッションに身を任せ、ファンキーに踊りだす変態仮面。


 まるで世界の中心はここだ! と言わんばかりの、ハード&ロックなダンスだ。




「キタッ! バカが罠にかかったわよ! いくわよ2人とも!」

「「えぇ~……」」




 俺とよこたんの不満気な声をサラリと聞き流し、古羊は上機嫌で変態仮面の方へと駆け寄って行く。


 しょうがないので俺と爆乳わんもしぶしぶ後をついて行くことに。




「アバ、アバババババババッ!?」

「ふふふっ、さてこの変態をどう料理してあげようかしら」




 ペロリと舌舐めずりをしながら、肉食獣のような瞳で変態仮面を見つめる。


 きっと今の古羊の頭の中には、何百通りもの拷問の手段が浮かび上がっていることだろう。


 変態仮面も厄介なヤツを敵に回してしまったものだ。




「で、でもメイちゃん? 罠に嵌めたまではいいけどさ、このまま変態さんに触ったらボクたちまで感電しちゃうよ?」

「そうだぞ古羊。元気の話だと、1度起動したら電池が切れるまで電流は流れっぱなしらしいぞ」

「大丈夫よ、問題ないわ。ようはパンツとこの変態クソ野郎を分離させればいい話なのよね?」




 そう言って古羊は、いまだジッちゃんの形見の如く大切によこたんのパンツを握り締めて震えている変態仮面から視線を切った。


 そして満面の笑みを浮かべたまま、俺に向けて親指を立て、




「さぁ、出番よ喧嘩けんかおおかみ! その自慢の右足で、このド変態を蹴っ飛ばしちゃいなさい!」

「爽やかな笑顔で怖いこと言うなぁコイツ……」




 マジで猫被っている時との性格の落差が激し過ぎる……。


 アバババババッ! と感電する脂ぎったおっさんの隣で、勝利の高笑いを浮かべる現役女子校生。


 さらにその隣でオロオロしている、子犬系美少女。


 間違いなく、今この瞬間、世界で1番カオスな現場はココだった。




「ごめんな変態仮面……? まぁこの悪魔に目をつけられたのが運の尽きということで」




 俺はこのカオスな現場に終止符を打つべく、かつて我が偉大なる姉上から受けた一子相伝のドロップキック(零式)をお見舞いするべく、クラウチングスタートの体勢をとった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?