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第12話 シロウ、ち●ちん切るってよ

 人生とは選択の連続である。


 誰が言ったか忘れたが、俺、大神士狼もそう思う。


 生まれや場所は選べない。


 親兄妹も選べない。


 だからこそ、何を食べ、何を見て、何を感じ、どう生きていくか、自分で選択したい。


 もしかしたら選んだ選択肢が正解じゃないかもしれない。


 後悔するものかもしれない。


 それでも俺は、自分の人生という名の船のかじを誰にも渡したくない。


 周りに流されず、自分の魂に従って、決断し続ける。


 そんな自分でいたいからこそ、俺は――




「ハァ~、近くで見ても馬鹿でかいマンション様だなぁ……」




 ――今日から中間テストに向けて猛勉強を始めることにした。




「外観だけじゃなくて、中も広くて綺麗だよっ!」

「これで家賃が2万円弱って破格過ぎるわよね」

「……ソレ絶対事故物件だろ?」




 芽衣と古羊と共に我が家で鍋をつついて1日経った土曜日の早朝。


 ママンは「それじゃテスト勉強の方、しっかりな」という言葉を残して、出張先の大阪へ戻って行き、姉ちゃんも「さて、アタシもイベントを進めなきゃな」とネットの海に帰って行った午前10時。


 俺は勉強道具一式を持って、芽衣と古羊が下宿している高級マンションへとやって来ていた。


 ニコニコしている爆乳わん娘と、猫を被るのをやめた会長閣下の隣で、高級住宅街にデカデカとそびえ立っているマンション様を見上げる俺。


 う~ん、ここだけ世界観が違いすぎる……。


 誰が住むんだよ、こんな高級マンション?


 天竜人てんりゅうびとか?


 さて、何故俺がこのマンションの前に居るのかと言えば、我らが会長閣下の要望であるからに他ならない。


 最初はマイ☆エンジェルの、




『ししょーの家だとテレビとか誘惑するモノも多いし、図書館で勉強しない?』




 という提案に一も二も無く乗っかった俺だが、古羊が、




『図書館では勉強を教えたくない』




 と駄々をこねた結果、彼女の希望に沿って2人の下宿先であるマンションで勉強することになったのであった。


 説明終わりっ!



「あっ。ちなみにココ男子禁制のマンションだから、バレたらチ●チン切られるわよ?」

「マジで!?」

「冗談よ」



 くすっと頬を緩ませながらたちの悪い冗談を口にする古羊。


 おいおい、洒落にならない冗談はよしてくれ。


 あやうく俺のマサラタ●ンチ●チンにさよならバイバイする所だったじゃないか。




「あっ、でも男子禁制なのは本当だよ? だからあまり騒ぎを起こしちゃダメだからね、ししょー?」

「そういうこと。まぁちょっとリッチな女子寮だと思って行動しなさい?」

「リッチな女子寮か……なるほど。あいわかった」




 俺は持って来ていた筆記用具の中からハサミを取り出した。




「??? なんで今ハサミなんて取り出したの、ししょー?」

「なぁ~に、ココに居るのは男子禁制のそのに住むレディー達なんだろう? なら彼女たちが安心して暮らせるように、古羊の言う通り――」




 人生とは選択の連続である。


 今こそ俺は自分の人生を選択する時なのだ。


 そして俺、大神士狼は今ここで、




「――チ●チン切ります!」




 女の子になる決断をした。




「「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~っ!?」」




 達者で暮らせよ玉三郎! と、俺が息子とさよならバイバイしようとしたその瞬間、


 ――ガシッ!


 古羊姉妹が焦った様子でハサミを持っていた俺の手に飛びついてきた。




「落ち着きなさい、このバカ!?」

「そうだよ、落ち着こう! 一旦落ち着こう!? そんな事したら、ししょーがししょーじゃなくなっちゃうよ!?」

「あぁ、そうさ! 今日からお前の師匠は『シロウ』ではなく『タマコ』だ!」

「そんなの嫌ぁぁぁぁぁぁっ!?」



 マイ☆エンジェルの絶叫が俺のタマタマを揺らした。


 そんな彼女の姿を見るに見かねたのか、珍しくテンパっているらしい古羊が「異議あり!」と口をひらいた。




「タマタマをバイバイするのに、名前が『タマコ』はおかしいわよ!?」

「あっ、それもそうか。――こんにちはマ●コぉぉぉぉぉ~~~~っ!?」

「納得しないで!? 納得しないで、ししょーっ!? メイちゃんも余計な事は言っちゃダメ!」

「ご、ゴメン……つい」




 何故かチ●チンばいばい♪ する俺より切羽詰まった表情を浮かべる2人。


 コチラの想像以上に焦った2人の顔が見れて思いのほか満足できたので、俺は持っていたハサミをゆっくりと下ろして、にやっ♪ と不敵に微笑んでみせた。




「冗談だよ、冗談。そう本気にすんな」

「はっ?」

「じょ、冗談……?」

「そっ、冗談。さっきの冗談のお返し。いやぁ、思いのほか反応が良くてビックリした――って、うぉ!?」




 ほうけた顔を浮かべていた双子姫が、打ち合わせでもしていたかのようにガクッ!? とその場で膝から崩れ落ちた。

 す、すごい!


 流石は双子!


 息がぴったんこカンカンじゃないか!



「はぁぁぁぁ~……もう勘弁してよね? アンタの冗談は質が悪いんだから……」

「なんだか朝からドッと疲れたね、メイちゃん……?」

「その……すいませんでした。まさかココまで良いリアクションが返ってくるとは思っていなかったモノでして……」



 流石に罪悪感が凄まじかったので素直に頭を下げると、2人は『もういい』とばかりに小さく溜め息をこぼした。


 そんな2人の態度に耐え切れず、知的でクールな俺らしくもなく、場の空気を変えるように慌てて口をひらいた。




「ほ、ほらほら! こんな所で立ち話も何だし、そろそろ行こぜ!」 

「誰のせいだと思ってるのよ、誰の……」




 古羊にジロリッ! と下からめ上げられる。ひぇっ!?


 美人の睨みが何気に一番怖いのである。


 そんな実姉を横目に、さっさと機嫌を取り戻したマイ☆エンジェルが「あっ、それもそうだね」といつも通りの笑顔で頷いた。


 可愛い。


 結婚しようかと思った。




「それじゃボクたちの部屋まで案内するよ、ししょーっ!」

「おう。ヤッベ、なんか緊張してきた」

「なになにぃ? もしかして女の子の部屋に入るから緊張しちゃった? なによ、可愛いところもあるじゃなぁ~い♪」

「女の子? ……あぁ、そうか。そういや会長おまえも一応女の子だったな」

「…………」

「あっ!? ちょっ、古羊さん!? ビンタはグーでするものじゃっ!?」

「ダメだよメイちゃんっ!? 死んじゃうっ! ししょーが死んじゃう!?」

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