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第24話 セッ●●しないと出られない部屋

 別室にて、鹿目ちゃんとの話し合いを終えた5分後。


 俺はふわふわした足取りで、よこたんの待つ2年C組へと続く扉をゆっくりと開けた。


 1人でテスト勉強していたマイ☆エンジェルは、俺の姿を見つけるなり、架空のシッポをブンブンと振り回しパァッ! と花が咲いたような笑みを頬にたたえた。




「おかえり、ししょーっ! どうだった?」

「告白された」

「……そ、そっか」




 よこたんは一瞬、苦痛にもだえるかのような表情を浮かべたが、すぐさま頬をピクピク痙攣けいれんさせながら下手くそな笑みを作った。


 そのまま何事もなかったかの如く、古文の教科書を開いて。




「じゃ、じゃあさっそくテスト勉強を始め――」

「付き合おうと思う」

「ふぁあっ!?」




 アホっぽい声が教室中に木霊した。


 瞬間、間髪入れずに爆乳わんが剣幕な表情で俺に詰め寄ってきた。




「だ、だだだっ!? ダメだよ、ししょーっ!? ダメだからねっ!?」

「……そんなにダメかな?」

「ダメに決まってるよっ! 何を言っているの!? 自分が今、どういう立場に居るか分かっているよね!? 次の中間テストで赤点を回避しながら100位以内に入らなきゃいけないんだよ!? そんな色恋にうつつを抜かしている時間も余裕もナイよね? ねっ!?」

「すっごい圧を感じる……」




 もはや『反論は許さんっ!』と言わんばかりの物凄い剣幕さで、俺に言いつのってくるマイ☆エンジェル。


 確かにラブリー☆マイエンジェルの言うことは正しい。


 次のテストで赤点を回避して100位以内に入らないと、あの我が家のビッグ・マムが森実の町に帰ってきてしまう。


 それだけは何としてでも阻止しなければならんっ!


 ……阻止しなければならんのだが、どうしても俺の『男』としての部分が、本体にささやきかけてくるのだ。




 ――この千載一遇のチャンスを逃してもいいのか? と。




「よこたんの言い分は、もっともだ。でもさ? 俺、おまえらみたいにモテないし……。このチャンスを逃したら、もう一生縁が無いかもしれないし……」

「縁ならあるから大丈夫だよぉ! それよりも、はやく古典の教科書を開いて! テスト勉強するよ!」

「うぅ……」




 よこたんに言われるがまま、古典の教科書を開く。


 そ、そうだよな。


 せっかく双子姫が協力してくれているんだから、真面目にテスト勉強しなくちゃなっ!


 よぉしっ、頑張るぞいっ!


 ……でも、鹿目ちゃん可愛かったよなぁ。




「はいっ、あの子のことを思いださない!」

「なんで分かるんだよ……。エスパーかよ、おまえ?」

「ししょーが分かりやすい顔をしているからだよぉ!」




 ジロリッ! と眉をしかめながら睨みつけられる。


 なんだろう、この気持ちは?


 まるで飼い犬に手を噛まれた気分だ。




「教科書68ページを開いて! 開いた? それじゃあテスト範囲の枕草子の朗読から、スタートッ!」

「うぅ……えっと『パパはあげぽよ』」

「春はあけぼのっ!」

「『少々酷く落ち込むヤマンバ』」

「やうやう白くなりゆくやまぎはっ!」

「『すごく甘いね?』」

「すこしあかりてっ!」

「『色めきだちたるババァの如く』」

「むらさきだちたる雲のほそくっ!」

「……フォーリンラブ」

「はい集中っ! 集中して、ししょーっ!」




 パンパンと両手を叩く乾いた音が教室に鳴り響く。


 俺は荒ぶるラブリー☆マイエンジェルに「まぁ、落ち着け」と言わんばかりに軽く右手のひらを彼女に見せた。




「まぁ待て、よこたん。ちょっと待ってくれ。まずは俺の話を聞いてくれないか?」

「……ナニさ、ししょー? お話っていうのは?」




 何故か『ジトッ……』とした瞳を浮かべる爆乳わんに、俺は長年胸の中に秘めていた『ある想い』を素直に吐露とろしていた。




「さっき女の子――あっ、鹿目ちゃんって言うんだけどさ? 俺らの1個下なんだよ」

「う、うん。それがどうしたの?」

「俺さ、後輩の女の子に『先輩しぇんぱい♪』って呼ばれるのが夢だったんだ……」

「ハハッ」




 コラコラ?


 人の夢を鼻で笑うんじゃありません。




「よかったね、ししょー。夢が叶って。それじゃ勉強の続きをやろっか?」

「待て待て、よこたん。本題はここからだ」




 俺は「この想い、君に届け!」と言わんばかりに、まっすぐマイ☆エンジェルの目を見て言った。




「どうだろう? 今日はもうお勉強はお休みにして、明日に備えて解散というのは?」

「ダメ。絶対ダメ! 許さない!」




 想い、届かず。


 しかし、俺もこんなところで引くわけにはいかない。


 なんせ俺の輝かしい未来がかかっているのだから!


 なおも言いつのろうと口をひらきかけるが、それよりもはやく爆乳わん娘が、




「どうせこのあと、シカメさんと一緒に帰るつもりなんでしょ?」

「いかにも、その通りだ」

「『その通りだ』じゃないよ! そんなことになったら、ししょー、絶対に勉強しないでしょ? だからダメ。許さないっ!」

「ぜ、絶対に帰ってからも勉強するからぁ! お願ぁぁぁぁい!?」

「ダメなモノはダメ!」




 くそぅ!?


 いつもなら、このあたりで「しょがないなぁ」って笑って折れてくれるハズなのに……。今日は中々どうして、ネバるじゃないか?


 マズイな、このままでは『告白からのホテルへ直行→ビッグダディ・シロウ爆☆誕』という黄金コンボが崩れてしまう。


 な、なんとかして爆乳わん娘を言い含めないとっ!




「ほらっ! 続きするよ、続き!」

「くぅぅっ!?」

「ししょーっ!」




 絶対に帰らせないっ! と、全身で威圧感を放つマイ☆エンジェル。


 マジで帰らしてくれる気はないらしい……。


 絶対に帰りたい男VS絶対に帰らせたくない女。


 現代に新たな矛盾が……生まれてねぇなコレ。




「それじゃ枕草子朗読から、もう1回っ!」

「マジかよ……」

「マジですっ!」




 むふぅーっ! と鼻息を荒くしながら、俺を監視するかのように鋭く睨みつけるマイ☆エンジェル。


 結局、よこたんのヤツは本当に俺を帰らせる気がなかったらしく、その日、俺たちは学校が閉まるギリギリまでテスト勉強にはげんだのであった。

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