昨日は突然ごめんなさい。
もしよければ、今日のお昼休み一緒にご飯を食べませんか?
中庭の
1年E組 鹿目窓花
◇◇◇
「……勝った」
鹿目ちゃんに告白された、翌日の昇降口にて。
俺は登校するなり、下駄箱に鎮座していた彼女からの熱烈なラブレターに1人静かに涙を流していた。
下駄箱の前で天を仰ぎ、目を瞑る。
何に勝ったのかは分からないが、間違いなくこの瞬間、俺は何かに勝利していた。
俺は上履きに履き替えるのも忘れ、夢中で鹿目ちゃんからのお手紙を読み返す。
それはもうほんとに、穴が空きそうなくらい何度も何度も、何十回、何百回と読み返した。
丸っこい女の子らしい文字なのに、綺麗に整えられたソレは、彼女の几帳面な性格をこれでもかと現しているかのようで、もう……好き♪
「ふふっ、ふふふふふっ」
「? なにを笑っているんですか士狼?」
「うぇいっ!? め、芽衣さん!? いつからそこに!?」
「ついさっきですけど……。それと『さん』づけはやめてください」
パッ! と背後に振り返ると、そこには我らが生徒会長さまが、いつの間にやら覗きこむように俺の背後に立っていた。
び、ビックリしたぁ~。
気配消すの上手すぎだろコイツ?
幻の
と内心ツッコんでいると、芽衣の視線が『ジーッ!』と俺の手元に注がれていることに気がついた。
いや正確には、俺の手に握ってある鹿目ちゃんの手紙をぉぉぉぉぉ――っっ!?
「士狼。なんですか、その手紙は?」
「アマゾンからのラブレターだよ」
「なんで三橋くんからラブレターを貰うんですか……」
嘘を吐くコツは、嘘の中に本当のことを混ぜることだ。
これで芽衣は本当に俺がアマゾンからラブレターを貰ったと誤認識したに違いない。
まったく、自分の優秀な頭脳が怖くなるな。
「男の子から貰った手紙にしては、妙に可愛い
「ほらアイツ、可愛いモノ好きだから」
「ふぅぅぅぅぅん」
顔色1つ変えずに、ペラペラと適当なことを口にする俺。
おいおい?
もしかしたら俺、俳優の才能があるんじゃねぇの?
今年のオスカー賞は俺で決まりか?
「さて、と。こんなところで立ち話しているのもアレだし、さっさと教室に行くか!」
「あっ、待ってくださいよ士狼っ!」
なおも何か言いたそうにしていた芽衣に先んじて、早足で教室へと移動する俺。
これで手紙のことは有耶無耶になったに違いない。
俺はポケットに仕舞いこんだ未来の
「アマゾンっ!? しっかりしろアマゾォォォォォォンっ!?」
「誰かっ!? 誰かこの中にお医者様の息子様、もしくはブラ●ク・ジャック全巻読破した方はおられませんかっ!?」
「バカ野郎がっ! だからアレほど直視するなと言っておいたのにっ!」
教室を開けてまず最初に目に入ったのは、涙と鼻水で顔をグシャグシャにして床に倒れているアマゾンの姿であった。
「な、なんですかこの騒ぎは……?」
「さぁ?」
俺の隣りで中々教室へ入ろうとしない芽衣が目を丸くしながら、アマゾンの周りで騒ぎ立てる男子共を見下ろす。
その顔はいつも通り笑みを張りつけてはいるが、瞳は完全にドン引きしていた。
「大神、大変だ! アマゾンが死んだ!」
「いや生きてるけど?」
とりあえず周りの野郎共を鎮めながら、アマゾンのもとまで歩み寄ってみる。
アマゾンは虚ろな瞳で俺の姿を捉えたかと思うと、カッサカサになった唇を動かして「大神か……」と小さく
「どうしたアマゾン、何があった?」
「……あ、アレを見ろ」
息も絶え絶えのアマゾンが、最後の力を振り絞るように黒板の方へとその震える指先を向けた。
そこには、
「もうっ! ダーリンったら、予鈴が鳴っちゃうっすよぉ~♪」
「まだあと5分あるから平気やって。それよりも……ぎゅぅぅぅぅぅっ♪」
「きゃぁぁぁぁぁっ♪」
自分の席で、股の間に座らせた司馬ちゃんを背後から抱きしめている
「ぶはっ!?」
「アマゾンが死んだ!?」
「この人でなしぃぃぃっ!」
2人のラブコメの波動に当てられ、アマゾンがまた床へ熱烈なキスをぶちかます。
いや、今回はアマゾンだけではない。
2人の吐き気を
もしかしたら元気と司馬ちゃんは、大量虐殺の妖精なのかもしれない。
「あいつら、とうとう開き直って教室でテロ行為に手を染めやがった!」
「大神、もう我慢できねぇ! 猿野の野郎をコンクリに詰めて瀬戸内海に沈めてやろうぜ!?」
「そうだそうだ! アイツがいたって、ウチのクラスにとっては百害あって一利なしだ!」
「だな! 今こそ2―A男子が結束するときだ!」
生き残っていたモテない男たちが、砂糖に群がるアリのように俺にすり寄ってくる。
昨日までの俺だったら『了承 → 作戦立案 → 実行 → 抹殺』と、クラスのバカどもを纏め上げて、元気を瀬戸内海の汚いオブジェにしていた所だろう。
だが、残念ながら今日の俺は一味違う。
最愛のマイワイフ(予定)である鹿目ちゃんがいる以上、元気たちを見ても何も感じない。
むしろ「あぁ、朝から盛ってんなぁ」としか思えない。
だって俺には鹿目ちゃんがいるから。
鹿目ちゃんがいるから!(大事なコトなので2回言ったよ♪)
だから元『親友』の恋路を守るべく、俺は殺気だったクラスメイトたちを鎮めるため、
「落ち着けよ、おまえら? 人を憎んでどうなるっていうんだ」
「な、なぜ止めるカス!?」
「あんなモノを見せられて悔しくないのか、このカス!?」
「というかおまえ、なんでまた古羊さんと一緒に登校してんだ? このカス!?」
「だからおまえはカスなんだ、このカス!?」
「落ち着けカスどもっ!」
俺の
まったく。人が下手に出れば、いい気になりやがって。
人をカス呼ばわりするからモテないだぞ?
このカスどもが!
2―A男子のモテなり理由を垣間見て、
「お休み中のところすみません、三橋くん。1つ確認してもよろしいでしょうか?」
「こ、古羊さんっ!? か、確認とは一体!?」
「はい。実は三橋くんが士狼に渡したラブレターについて、ちょっと聞きたいことが――」
「大丈夫かアマゾン!? 意識はあるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
アマゾンに素早く近づき、余計なことを言われる前に
くぺぇっ!? と謎の声を上げながら、夢の世界へ
あ、危なかった……。
あと少しで、俺の完璧なる嘘がバレるところだったわ……。
そう、鹿目ちゃんとの一件は、芽衣にだけはバレてはいけないのだ。
イタズラ好きのコイツのことだ、バレたら絶対に場をかき回してくるに違いない。
なんせこの女には、我が家での『ニセ彼女』事件の前科がある。
絶対にバレるワケにはいかない。
俺と彼女の幸せのためにもっ!
絶対にだっ!
「チクショウ元気め、よくもアマゾンを……許せねぇ!」
「いや、今、確実にトドメを刺したのは士狼ですよね?」
「テメェら! 今こそ2―A男子が立ち上がるときだぁぁぁぁぁっ!」
「……わざと聞いてないですよね、ソレ?」
バカどもを
ジーッ……と何か言いたげな