何故だろうと思いつつ拾おうとしてかがむと、ベッドの下に何やらよく分からない模様が描かれた紙きれが落ちていた。
【こんな所にゴミが】
ギルバートはすかさずそれを拾って破いて捨てておいた。誰かが落としたメモかもしれないが、ギルバートに見られたと知ったら、もしかしたら恥ずか死してしまうかもしれない。ギルバートならする。間違いなく。
それから昼には、ロタから貰った栞を自室に取りに行く時に、マントの裾を引っかけて転びそうになった。慌てて足を前に出したので事なきを得たが、すぐ後ろで何かが割れる音がして振り返ると、そこには粉々になった花瓶が落ちていたのだ。
しかもよく見たらそれは母が大変大事にしていた花瓶で、咄嗟にギルバートは母の怒り狂う姿が容易に想像出来てしまった。一瞬隠そうかとも思ったが、王子が隠し事をするなど言語道断だ。大人しく母に謝りに行ったが、案外怒られなかったのでホッとした。
そしてさっきの石事件である。全く、今日はどうなっているんだ! 星の巡りでも悪いのか?
【まぁ、こんな日もあるか】
深く気にしていたらまた胃が痛くなってしまうからな。忘れよう、そうしよう。
ギルバートは大きく伸びをして執務室の椅子に座ると、明日に回そうかと思っていた仕事に手をつけはじめたのだった。
◇◇◇
話を聞きつけたサイラスが執務室に飛び込むと、そこにはいつもと同じように仕事をしているギルバートが居た。あまりにもいつも通りなので、思わず先程の爆発など夢だったのではないかと思ったが、ふと窓の外に視線をやると、森の一部がごっそりと抉れているのが見えた。
【やっぱり夢じゃない……】
気を取り直したサイラスがギルバートに向き直り言う。
「王子、お怪我は?」
「大丈夫だ、問題ない」
「そうですか。なぜ打ち返されたんです?」
あれが爆弾だと気付いたにしても、よく打ち返そうなんて発想が出て来るな。
サイラスが感心したように問うと、ギルバートは書類から顔を上げて言う。
「当然だろう?【当たったら危ないじゃないか! 真っすぐ僕に向かってきたんだぞ!】」
「……失礼しました」
やはり、ギルバートの判断力は計り知れない。瞬時に爆弾だと判断し、なおかつ的確に打ち返すなど、咄嗟には出来ない。せいぜい出来るのは当たらないように避けるぐらいだろう。
感心して頷いたサイラスに納得したのか、ギルバートはまた仕事に戻ってしまった。
サイラスはそれ以上仕事の邪魔をしないようにそっと執務室を後にすると、ギルバートに何もなくて良かった、と胸を撫で下ろすのだった。
◇◇◇