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第41話

 中には後から聞いて、そんな指示を出した覚えはないのだが!? と焦ることもあるほどだ。


「では、お嬢様と同じタイプ……という事なんでしょうか……」


 口元に手を当てて考え込んだロタに、ギルバートは自信満々に頷く。そういう事にしておこうと思う。ギルバートはシャーロット程ドジではないが。


「話を戻そう。誰に今回の事を仕組まれた? 何故シャーロットはあの時、さよならと言ったんだ?」

「それは、黒幕が誰かは私には分かりませんが、お嬢様を一番に悪役令嬢だと言い出したのは、王です」

「王が? 何故」

「はい。ユエラ様とセシル様は同腹のご姉妹ですがお嬢様だけはその、いわゆる腹違いというやつで……姫様の母親は私と同じメイドでした。ですが、王のお手付きになり妊娠した事で城から追い出されたのです。王を誑かした罪に問われて。ですが、姫様を産んだ母親は恐らく、生活に困ったのだと思います。何を思ったのか、月に一度の謁見の日にシャーロット様を抱いて現れ、王に認知しろと言い出したのです。髪の色も目の色も王そのものです。紫の瞳は王族の証。誰にも疑いようがありませんでした」

「……」


 まだ続くのか? そろそろ僕は胃が痛いんだが? やっぱりここを一番に選んで正解だった。まさかこんな話を聞かされるとは思ってもみなかった。


「そして、王も王妃も渋々それを受け入れ、姫様を引き取り、母親には多額のお金を渡して追放したそうです。それから王妃は姫様を可愛がろうとしましたが、王の方は姫様に目をかけようとはしない。後は……ご想像の通りです。運悪くお嬢様は立ち回りがびっくりするぐらいヘタクソでドジな為、気がつけば今のあだなが知れ渡ってしまっていました……」

「……」


 それは……何と言うか、不幸すぎやしないか!? というか、どうしてそんな話をギルバートにしちゃうの! お腹が痛くなってきたでしょうが!


 こう見えて繊細系王子である。こういう話は本当に苦手だ。シャーロットが可哀相とはもちろん思うが、ちょっと運が悪すぎないか? まるで作り話のようだな! 


 ……ん? 作り話?


「なるほどな。【もうこうなったら誰も彼も信用出来なくなってきたぞ。あのシャーロットでさえもだ! そもそも自分もロタと偽って僕と毎週会っていた。それは本当にたまたまか? わざと捕まったという事も考えられるのではないか?】何が目的だ?」

「え?」

「お前たちの目的だ。シャーロットは僕に言った。アルバは信用するな、と。その話を僕に話せと言ったのは誰だ、と聞いている」

「ひ、姫様です……」

「そうか。分かった」


 そう言ってギルバートは牢を出た。廊下に出ると、ガルドが既に敵将の尋問を終えていた。手には血がついているので、相当キツイ尋問だったのだろう。


「どうだった?」

「黒幕はやはり、悪役令嬢のようです。そちらは?」

「いや、何も話さなかった。【聞いてもいないシャーロットの生い立ちはべらべらと話していたがな!】」

「そうですか、やはり。では、シャーロットへの尋問は――」

「僕が行く。一応、あれでも婚約者だ。【まだ今の所は、だが】」

「はい」


 そう言ってガルドはシャーロットの牢の鍵を寄越して来た。それを受け取ったギルバートは、小さく頷いて深呼吸をすると、シャーロットの居る牢に足を踏み入れた。


「……ロタ」


 ポツリと言うと、シャーロットは驚いたように振り向いた。仮面をつけていても分かる。ああ、ロタだ。本当にシャーロットはロタだったんだ。


 ギルバートが牢に近づくと、ロタは寂し気に微笑んだ。


「騙していて、ごめんなさい」

「いいや、僕もだ。僕の名前はギルバート・グラウカ。君が会いたくないと言ったあのギルバートだ」

「え……?」


 シャーロットは目をまん丸にしてゴクリと息を飲んだ。そして項垂れる。


「知らなかったか?」

「ええ。本当に、本当にギルバート王子なんですか?」

「ああ。騙していて済まなかった」

「それは……お互い様ですから」


 そう言って花のように綻んだシャーロットは、あの舞踏会のロタだ。


 ギルバートは椅子を持ってきて牢の前に腰を下ろすと、シャーロットと向い合せに座った。


 途端にシャーロットは視線を伏せる。


「僕は、君と婚約を破棄する」

「……はい」

「誰に言われた? 君は、本当は誰なんだ?」

「シャーロット、です」

「本当に?」

「はい。それは間違いありません」


 毅然として言い切ったシャーロットは、それ以上は語らなさそうだ。ギルバートは一つ頷いて椅子から立ち上がった。


 牢を出て行こうとして、ふと思い出して立ち止まる。


「キャンディハートさんの新刊の中で、どれが一番好きだった?」


 ギルバートの言葉に、それまでずっと俯いていたシャーロットがようやく顔を上げた。


「『価値観を変えてしまう程の秘密を聞いても好きでいられたら、それは愛よ』」

「……僕もだ。やっぱり、君とは趣味が合うようだ。また来る」


 それだけ言って、今度はもう振り返らなかった。とりあえず、念願のシャーロットとの婚約破棄は出来た。

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