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第42話

 けれど、心は晴れない。それどころか、どんどん憂鬱になってくる。


 ああもう! どうして政というのは、こんなにもまだるっこしいんだ! 誰も彼もが嘘を吐き欺こうとする。


「ガルド、シャーロットの牢に毛布を入れてやれ【あそこは寒すぎる。あれではシャーロットが冷えて風邪を引いてしまうではないか!】」

「はい」


 ガルドはそれだけ言って下がった。ギルバートはそのまま自室へ戻り、サイラスが用意してくれたご褒美レモネードを飲む。そこに、またあの鳥がやってきた。


「お前か【もう豆はない……ん? こ、これは!】」


 ギルバートは机の上に置いてある綺麗なトウモロコシ人形を手に取った。そこにはひよこ豆が相変わらずぎっしりと詰まっている。ギルバートはその中から少しだけひよこ豆を取り出すと、いつものように鳥にやった。


「またリボンか。お前の飼い主はマメだな」


 そう言って鳥の足からリボンを取ると、中を開いてみた。そこにはこんな事が書かれている。


『シャーロット、処刑は必須。ロタ回収、入れ替えせよ』

「……なるほど?」


 どうやらロタはシャーロットのメイドではないようだ。そして、あちらの目的はシャーロットの処刑か。何故? 悪役令嬢だからか? それとも、シャーロットを殺す事で誰かが得をする? では何故ロタは姫様を助けてくれなどと言ったのだ? 分からん。しかし入れ替えとは何のことだ? 


 とりあえず、リボンの内容は変えておこう。何となく、その方がいい気がする。


『ロタ、解放。入れ替えを待つ』


 ギルバートはそっと取り換えたリボンを鳥の足に戻すと、鳥はどこかへ飛んで行ってしまった。さて、あの鳥は誰が使役しているのか、だな。


              ◇◇◇


 ガルドは執務室の机でずっと書き物をしていた。どうにも今回の戦争はおかしな事ばかりだ。敵将もシャーロットもいやに簡単に捕まったし、シャーロットに至っては噂に聞いていた悪役令嬢とは程遠いほど大人しくしている。何か目的があるのか、それとも既に諦めているのか。


 小さなため息を落としたガルドは、ノック音に顔を上げた。


「ガルド【こんな時間にすまないな】」

「お、王子!?」


 何故こんな時間にギルバートが自ら!? ガルドは勢いよく立ち上がり、深々と頭を下げた。


「頼みたい事がある。話していたあの鳥がまたリボンをつけてやってきた。向こうの目的はシャーロットの処刑のようだ。メイドの方は回収するとあった。鳥の飼い主を探せ」


 珍しく的確な指示を出してきたギルバートに、ガルドは目を見張った。そして、またあの鳥が来ただって!?


「か、畏まりました! その鳥はもう飛んで行きましたか?」

「ああ、南の方角へ」

「探します」

「頼んだ。【すまないな、無理を言って。次に来た時には捕まえておこう】」


 それだけ言ってギルバートは部屋を後にした。              


         ◇◇◇


 ギルバートは深夜、こっそりと王族だけが知っている通路を使い、ロタの牢に侵入した。一応、ロタが抜け出したかのように見せかける為、牢の鍵を壊しておく。


 そして、眠っているロタを無理やり袋に詰めて、ある部屋へと移動した。ギルバートの大っ嫌いな部屋、そう、拷問部屋である。


 そこに薬で眠らせたロタを中央の椅子に固定して、拷問部屋を出た。


 そして翌日、城中が騒いでいた。メイドが何らかの方法で鍵を壊して逃走した、と。


 それを確認したギルバートは秘密の通路を抜けて何食わぬ顔で拷問室に足を運んだ。


 この部屋は本気で嫌いだ。処刑場も嫌だが、ここも同じぐらい嫌な雰囲気なのだ。薄暗く、数々並ぶ拷問器具。これだけで眩暈がしそうだ。絶対に夜は何か出る。


 ロタは中央の椅子に、しっかりと固定された状態で座っていた。ギルバートを見て、昨日の人とは同じ人とは思えないような目で睨んでくる。


「何故ですか!? 助けたい、と仰ったのに!」

「シャーロットをな。お前じゃない」

「!」

「当然だろう? 僕を誰だと思ってるんだ?【というか、お前、まだ嘘ついてるしな!】」


 キラリと光った拷問器具が怖くて顔を顰めたギルバートに、ロタはゴクリと息を飲んだ。


「やっぱり……グラウカの噂は本当だったんですね。これじゃあ姫様は……」


 そう言って表情を歪めたロタを見て、ギルバートの良心は痛む。痛むが、ここは心を鬼にせねばなるまい。そう、キャンディハートさんも言っている。


『時には心を鬼にして! いつも甘い顔してたらナメられるゾ!』


 と。


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