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第43話

「安心しろ。シャーロットは既に釈放済みだ。【嘘だが】」


 嘘は苦手だが、これからこのグラウカを背負って立つのだ。芝居ぐらい出来ないでどうする!


 そんなギルバートの言葉に、明らかにロタの顔つきが変わった。


「……は?」

「どうした? 嬉しいだろう? お前の言った通り、シャーロットは助けてやったぞ」

「ど……して」

「どうして? おかしな事を言う。お前が自ら証言したんじゃないか。シャーロットは巻き込まれただけだ、と。それとも、あれは嘘だったのか?」

「そ、それは……私は、姫にそう言えって言われただけで、グラウカは絶対にそんな事しないからって……私は逃がす算段しておくって……そんな、酷い……姫様は、私に全部擦り付けるつもりで……?」

「どちらにせよ、僕達は戦争に勝った。捕虜のお前ともう一人の男の首を刎ねて、この戦争は終わりだ」

「い、嫌よ! どうして私があんな女の身代わりで死ななきゃならないのよ!」

「身代わりとは、そういう役目だからだ。お前の最後の仕事だ」

「私は身代わりなんかじゃない! あんな女のメイドでもないわ! 早くアルバに帰してよ!」

「それは出来ない。こちらにも面子がある。幸いな事に悪役令嬢はいつも仮面をつけていた。顔は誰も知らない。お前でも問題ない」


 内心ビクビクしているギルバートは、心を鬼にする事の辛さを思い知った。こんな仕事、本当に嫌だ……はぁ、書類仕事がしたい。


「嘘よ、だって、計画と違う。悪役令嬢に仕立て上げるって姫様が言ってたのに、何でここに来てこんな……嘘よ!」

「嘘じゃない。お前がどこで誰とどんな話になっていたとしても、グラウカには関係ない。アルバとモリスが手を組んで攻めてきた。例え姫の独断であったとしても、その事実は変わらない。よって、お前達を処刑する。以上だ。恨むのなら、お前をシャーロットにつけた者を恨むんだな」


 ギルバートはそう言って拷問室を出た。用心深く、表の入り口からは出入りせず、王族しか知らない通路を使う。何故こんな事をするのか。それは、ギルバートはとても用心深いからだ!  


 何なら城の中の人間が全員ネズミかもしれないと思う程度には、今は誰も信用出来ない。根がチキンで素直なギルバートは、こうやって無理やりにでも心に鬼を住まわせないとすぐに皆の言う事を信用してしまう。それではいけない! そう!


『秘密を持つって、悪い事じゃないと思うの。秘密にしてたおかげで助かった~って事、意外と多いもんなのよ』


 と、キャンディハートさんは言っていた! これはまさにそれだ。今もポコポコ増え続けるネズミたち。それを撹乱してこちらからおびき出す! もうこれしか方法はない!


 少なくとも、シャーロットは利用されているのだろう。それだけはロタの証言で分かった。では、誰に利用されているのか、それが問題だ。


 それにしても秘密の抜け道は相変わらず暗くて狭い。もう少し広めにとっておくべきだろう。よし、後でガルドにそれとなく相談しておこう。


 ギルバートはその足でシャーロットの牢に向かった。


「シャーロット」


 牢に入り声を掛けると、シャーロットはゆるゆると顔を上げる。


「……ギルバート様」

「ギルでいい。何か足りないものはないか?」

「何も。ロタが……逃げたって……」

「ああ。そのようだ。今探しているが、足取りは掴めない。何か知らないか?」


 ギルバートの声にシャーロットは一瞬考える素振りを見せたが、すぐに首を振った。


「分からない。私は、ロタとしか会話するのを許されてなかったから」

「……そうか」


 いったいどういう扱いを受けてきたのだ? 本気で分からないんだが。


 ギルバートは椅子をシャーロットの前まで持ってきて、視線を合わせるように腰かける。


「ギルは、私を怒ってないんですか?」

「怒る? 何故」

「だって、私は悪役令嬢で、嘘をついてギルに会っていたし……」

「君は僕をギルバートだと知らなかったんだろ?」

「ええ。替え玉だって聞いて、乗っかっちゃえって思って……ごめんなさい」


 こういう、馬鹿正直な所が可愛いのだ。こういう所が気に入ったのだと、ギルバートは改めて思う。こんな事なら、婚約破棄などしなければ良かったかもしれない……いや、待てよ? そうか! シャーロットをアルバの姫ではなく、ただのシャーロットにすれば問題ないんじゃないか!?


「僕は、天才かもしれない……【こんな事を思いつくなんて!】」

「? ギルは頭いいと思いますよ?」

「ん? ああ、口に出ていたか。どうやらシャーロットの前では本音をつい言ってしまうようだ。多分だが、黒幕は僕がギルバートだと気付いていたと思うんだ。もう随分前から。だから、あの教会でシャーロットと僕の繋がりを作ろうと思ったんじゃないだろうか」

「えぇ? で、でもそんな事一言も……」

「シャーロット、思い出してくれ。キャンディハートさんの詩集『秘密』の8ページ目を」

「8ページ目『誰かを騙すなら、まず身内から。鉄則よ!』」

「そうだ。黒幕は僕があの教会に出入りしているのを予め知っていたに違いない。シャーロット、キャンディハートさんの本は、誰かに勧められたのか?」


 ギルバートの言葉にシャーロットは顔を歪めた。

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