「ギル、少しいいかい?」
「はい【どうしました? は! 何か新しい書類仕事ですか? 喜んでやりますよ!】」
「アルバの王から手紙が届いたんだ。君にも見てもらいたい」
「アルバの王から?」
「ああ」
そう言って父はギルバートに手紙を渡してくる。手紙を見ると、そこにはとても信じられないような内容が書いてある。
手紙を要約すると、シャーロットが今回こんな事を企てたのには、何か理由があるはずだ。どうか処刑はしないでやってほしい。一度、シャーロットと面会したい。そのような事が書いてあって、ギルバートは思わず手紙を破り捨てそうになった。
「何をぬけぬけと【ふざけるな! こんな言い訳が通ると本気で思っているのか!?】」
ギルバートはすぐに父に進言した。父はお人好しだ。わざわざこの手紙をギルバートに読ませたのは、一瞬でも迷ってしまったからなのだろう。
「父上、この手紙に書かれてある事、嘘だとは思いませんが、信用はしない方がよろしいかと」
「やはりギルもそう思うかい? 私もそう思うよ。ただ、どう返したものかと悩んでしまってね……」
「一つ、提案があります。シャーロットを処刑しましょう」
「え!? も、もう!?」
「はい。いえ、正しくは、処刑したとアルバに伝えましょう。アルバがどう動くか、様子を見るのです」
ギルバートの言葉に父は、少し考えてなるほど、と頷いた。出方次第ではアルバと戦争になるだろう。
しかし、このままではどのみち戦争は避けられない。一国の姫とは言え、協定を破って戦争を仕掛けてきたのだから。それに、ギルバートとしてはどうやってグラウカの牢に居るシャーロットの入れ替えを行うつもりだったのかが気になる。
ここに来てこのアルバからの手紙。そして、アルバの事は信用するなと言ったシャーリーの言葉。どちらが信じられるかは明白だ。
◇◇◇
サイラスとガルドはあちこちの伝手を使って、毎日必死になってシャーロットの母親を探していた。元城勤めのメイドなど、吐いて捨てる程いる。だが、王のお手付きになったメイドはさほど多くはないはずだ。
母親探しを初めて一週間と少しが過ぎた頃、ガルドの元にこんな情報が入った。
「王には昔、恋人が居たらしい」
と。
それは誰だと問い詰めると、子爵家の娘だったという事しか分からないと告げられた。それをギルバートに報告すると、ギルバートは書類から顔も上げず言った。
「【誰かがアルバ王の振りをして手紙を書いたのか? シャーリーをどこに】隠してるんだ。王が【今更あんな手紙を書くとは思えないしな】」
「! なるほど! 失礼します!」
ガルドはそう言って執務室を飛び出した。
そうか! シャーロットの母親はメイドではない。愛人だ。いや、何なら今も王の本命なのではないか!? だとしたら王が隠しているという可能性は大いにある。もしかしたら、何度も正妻によって危ない目に遭ったのかもしれない。
ガルドはすぐに使いを出した。アルバ王の生活のルーティンを詳しく調べ上げ、一つの答えに辿り着く。
「サイラス、俺は少し教会に行ってくる」
「え? なんでまた」
「シャーロットの母親が見つかったかもしれない。王子の勘が正しければ、シャーロットの母親は間違いなく、あそこに居るんだ。ついでに双子かどうかも探ってくる」
「どういう事?」
訝し気なサイラスにガルドはすぐに事情を説明した。全て聞き終えたサイラスは頷いて、すぐに馬車を手配する。
「気をつけて」
「ああ。あと、ついでに入った情報だが、アルバの者達がシャーロットを取り返そうと運動を起こしているらしい。シャーロットはアルバでは、もしかしたら悪役令嬢ではなかったのかもしれないな」
「えぇ!?」
だったらなんであんな噂が流れたのだ? そう思いつつ、サイラスはすぐにシャーロットの牢の警備を増やした。
もうすぐ処刑されるかもしれないと言うのに、シャーロットは少しも怯えた様子は無かった。取り乱しもしない。気味が悪いぐらいに。時折、ロタは無事なのかと聞いてくるぐらいで、他には何も話さなかった。
ガルドは馬車を走らせ教会に急いだ。やがて見えてきた教会に飛び込み、アルバの騎士団の者だと偽り年老いたシスターにアルバの王からの使いだと伝えると、案外シスターはすぐにある部屋に案内してくれた。
「ここは?」
「ここがシャーリーン様のお部屋です。今は眠っておられます。もう、何年も……」
そう言って視線を伏せたシスターを見て、ガルドは頷き部屋の中に足を踏み入れた。
そしてシャーリーンを見て驚く。それは、本当にただ眠っているようだったからだ。まるで魔法にでもかけられたかのように眠っている。顔立ちは愛らしく、やはりシャーロットと似ている。痩せ細る事もなく、辛そうに顔を歪めるでもない。