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第47話

「病気か? いつから眠っている?」

「もう3年になります。医者はどこも悪くないというのです。ですが、目を覚まさない。……私達もどうすればいいのか分からないのです。やはり、忌子を産んだからです! おまけに王妃に命まで狙われて! 王の血筋はシャーロット様しか居ないのに! ああ、シャーリーン様!」

「あなたはシャーリーン様の侍女なのですか?」

「ええ、ええ、そうです! あの女がしゃしゃり出て来なければ、シャーリーン様が王妃になるはずだったのに! どうして……どうしてこんな事に!」


 なるほど。ガルドはアルバの王からだと言って買ってきた花束を侍女に渡した。


「忌子の一人は、今どこへ?」


 ガルドの言葉に侍女は真顔で言った。


「もちろん、殺しました。忌子はそうするのが習わしです。あなた、本当にアルバの騎士ですか?」


 マズイ。ガルドは咄嗟に嘘を考えた。騎士道一本でやってきたガルドである。嘘は限りなく苦手だ。


「実は、最近になってシャーロット姫が二人居るという噂が流れだしたのです。ですから、確認に来たんですよ。本当に、確実に殺しましたか?」


 鋭いガルドの視線に、侍女の手が震えた。どうやらビンゴのようだ。ギルバートにシャーロットが双子かもしれないという話を聞いておいて、本当に良かった。


「殺していませんね? もう一人のシャーロットは今、どこに?」

「そ、それは……」


 言い淀んだ侍女を、ガルドはそれ以上問い詰めはしなかった。


「……言えませんか。大丈夫です。私がここに来た事は王しか知りません。そして、私は今聞いた話を王にも伝えないと約束しましょう。王は、もう一人のシャーロットが生きている事を、知らないのですね?」

「は、はい。知っているのは……私と王妃と双子のシャーロット様、それから数人のメイド達だけです。私は、シャーリーン様の娘がたとえ忌子だとしても殺す事など出来なくて……。本当に、申し訳ありませんでした」


 そう言って涙を流しながら床に頭を擦り付ける侍女を見て、ガルドは侍女の肩に手を置いて言った。


「これは私の個人的な意見ですが、あなたの判断は正しかったと思います。忌子など、この世には居ない。少なくとも私は、そう思います」


 ガルドの言葉に侍女はハッとして顔を上げた。


「あぁ……神よ……」

「それでは、失礼します。シャーリーン様によろしくお伝えください」

「は、はい!」


 ガルドはそう言って教会を出た。城に戻り、すぐさまギルバートとサイラスに報告すると、ギルバートは深く頷いただけだった――。


           ◇◇◇


 やはりな。ギルバートは頷いてお茶を飲んだ。


【やはりシャーロットは双子だった! 真の悪役令嬢は、今牢に居る方だ。双子の片割れを処刑して、どうしようというのだ!?】


 よくよく考えればおかしな話である。双子だという事は分かったが、どうして今更片割れを殺す必要があるのだろう? 考えられるのは一つだ。


「姫を辞めたいのか」

「え!?」

「双子の片割れをシャーロットとして殺してしまえば、シャーロットの存在はこの世から消える」

「で、でもそれは……何故?」


 ガルドの声は、ギルバートには届いていなかった。考えるのはシャーリーの事ばかりだ。今頃ギルバートの愛しい白パンはどこで何をしているのか。辛い思いをしていなければいいが。


「アルバとモリス【のどちらかにシャーリーは居る筈なんだ。どこに? シャーリー】を手に入れる為【に僕はもう、この際なんでもするぞ!】」

「ま、まさか反乱でも起こす気ですか!?」

「アルバでそういう【隠し場所があるとしたら、やはり城か。こうなってくると、アルバがシャーリーの存在を知らないというのも胡散臭いな。シャーロットの今までの】動きがある【場所を探すか】」

「! シャーロットを取り返すという動き……もう知ってらしたんですか?」

「ああ【……白パン……待っていろ。必ず助けてやるからな!】」


 ギルバートがため息を落とすと、ガルドが息をのんだ。それに気づいたギルバートは、全く話を聞いて居なかった自分を恥じて、小さな咳払いをして言った。


「シャーロットが懇意にしていた店や人、場所をくまなく探せ。双子の片割れを探し出す。【そうだ! ロタに聞けばいいんじゃないか? 】アルバに【は詳しいだろうし。ロタと言えば、あの】抜け見を早急に【どうにかしないと。毎度通るたびに服が蜘蛛の巣だらけになるんだ。そのうち蜘蛛の巣で服が】作れ【るかもしれん】」

「はい!」


 ガルドはそれを聞いて慌てて部屋を飛び出した。


 ギルバートはガルドを見送ると、リドルとモンクを部屋に呼びつけてずっと気になっていた事を聞いた。


「忌子を産んだら、呪いを受けると思うか?」


 もしも本当に呪いなどというものがあって、それがシャーリーにまで及んだら敵わない。


 突然のギルバートの問いに、二人はすぐさま首を振った。


「いいえ、ありません」

「ないですね。そんなのは迷信にすぎません」

「そうか【やはりな! はぁ、良かった……これでシャーリーは謂れのない呪いを受ける事はないな!】」


 それだけ聞けたのでギルバートは今度はロタの元へ向かった。

 慎重に秘密の通路を歩く。蜘蛛の巣がびっしりでおまけに苔まで生えているから、相当慎重に歩かなければならないのが、この通路だ。

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