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第51話

「処刑人は変更なし。ロタは『アウル』に潜伏中と書いておいた。二度も鳥の誘導に引っかかってくれるかどうかは分からんが、一応見張っておいてくれ。あと、これを飛ばしたのはコックだったぞ」

「わ、分かりました! スパイの方も調べておきます」

「ああ、頼む。【すまないな、次から次へと。全て片付いたらお前達にも休暇をやるからな】」

「はい! あ、もし来たら捕まえますか?」

「いや【待てよ。もしかしたら金一封の方がいいか? キャンディハートさんも言っている。相手の事を】調べて泳がせろ【ってな! コミュ障の僕は人の心の機微に少々疎い所があるから気をつけなければならないな】」


 ガルドの話を聞いているようで聞いていないギルバートである。こういう所が大きな欠点なのだが、ガルドにしてもサイラスにしても、ギルバートの言葉を上手い具合に汲んでくれる。ギルバートは本当に優秀な部下を持った。


「そうか! 確かに泳がせておけば双子に辿り着く可能性もありますね! 分かりました。現れた者に見張りをつけます」

「ああ、【全て片付いたら必ず何か用意するからな!】」


 多少のすれ違いは生じるものの、それでも上手く会話は出来るものだ。本当にギルバートは――以下同文。


                    ◇◇◇


 ガルドはギルバートの言う通り、すぐさまスパイのコックを調べ上げて捕えた。


 そして城下町の『アウル』に行き、ロタという女を探しに来た連中が来たらすぐに知らせてくれと店主に金を握らせて部屋の一室で待っていた。


 張り込みを開始して二日目の夜、血相を変えた店主が部屋に飛び込んできて震える声で言う。


「き、来ました! 男三人です!」

「そうか。まだ帰ってはいないな?」

「は、はい! 嘘をついて引き留めています!」

「ありがとう。突然悪かったな」

「と、とんでもない! ギルバート様のお力になれるなら、喜んで手を貸します!」

「そうか。王子の代わりに礼を言っておく。ありがとう」


 ガルドはそう言って部屋を出てカウンターに向かった。


「あんた達がロタを迎えに来たのか?」


 いかにも柄が悪そうな男三人にガルドは気後れする事もなく話しかけた。すると、男たちはガルドの顔を見るなり顔を顰める。


「お前は?」

「俺は情勢が悪くなってきたから昨日付けで城を止めてきたんだ。ロタから手紙を預かってる」

「なに? ロタはここに居ないのか?」

「ああ。ロタが逃げてすぐにレイリーが処刑された。城では次々に仲間が捕まってる」

「レイリーが……処刑、だと?」

「そうだ。連絡が入ってないか? 城ではその話で持ち切りだ。俺もいい加減ヤバそうだから辞めてきたんだ。レイリーの事をロタに伝えて、ここから逃げろと言ったのも俺だ。その時、手紙を預かった。王子は姫が双子だって気付いてる。そして、隠し場所にもあてがあるみたいだ。もしかしたら、こっちの情報も漏れてるかもしれない」


 ガルドの言葉に男たちは顔色を変えた。


「お前、どこに勤めてたんだ?」

「調理場だ。鳥を使ってたが、王子があの鳥を怪しいと踏んだ。もう使えない」

「確かに……調理場にも仲間が居たな」

「ああ。お前達もすぐにグラウカを出た方がいい。逃げたロタを探して近々城下まで兵士が下りて来るみたいだ。あと、双子の方の隠し場所も変えた方がいい」


 その言葉に納得したように男たちは顔を見合わせて頷く。


「なるほどな。分かった。手紙はとりあえず受け取っておく。ロタは他に何か言ってたか?」

「いや……レイリーの事がやはり相当ショックだったようだ……」


 そう言って視線を伏せたガルドを見て、男たちは黙り込んだ。


「まぁ、そうだろうな……年の差なんて気にならないほど仲良かったからな、あいつら」

「ああ」


 何だかしんみりとした男達を見てガルドも何とか頷いたが、内心では未だに信じられないのだ。あのレイリーとロタが? という思いで一杯である。


「お前もグラウカを出るんだろ?」


 聞かれて、ガルドは頷いた。


「あと少しの我慢だ。最後まで捕まるなよ」

「お前達もな」


 ガルドはそう言って片手を上げると、男達が宿から出て行くのを見送り、すぐさまカウンターの奥に隠れていた騎士達にめくばせする。


「頼んだぞ」

「はい」


 そう言って騎士たちは、さも今宿から出て来たかのように男達の後を追った。


 城に戻ったガルドはすぐさまそれをギルバートに報告する。


「そうか。ご苦労だった。【これですぐさまシャーリーの元へ向かってくれればいいが】」


              ◇◇◇

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