「……悪くないわね。シャーロットがこちらに連れて来られた事を知ったら、モリスは恐らく入れ替えが成功したと考えるわ。後は私が戻ればいい」
「ああ」
ギルバートが頷くと、シャーリーはハッとしてギルバートを見た。
「もしかしてギル、最初からこうする為に娼館を焼いたの!? なるほど……そっか、そうしたら何もしなくてもモリスの人達もアルバの人達も私がグラウカに運ばれたと思うものね……ついでに娼館の人達も口封じに始末したんだろうと思うって事か……はぁ、なるほど」
「ん?」
ギルバートが首を傾げると、何故かシャーリーは感心したようにギルバートを見ている。別に娼館に火を放った理由は、自分達がやってきた痕跡を消す為だったのだが、それが返って良い方に向かったようだ。
「とりあえずシャーリー、母親の呪術を解いてやってくれ。いつまでも眠らせていたら、床ずれをおこしてしまうぞ」
「床ずれ……そ、そうね。姉さまちょっと行ってくるわね」
「ええ。ちょっとギルバート」
「なんだ」
シャーロットに呼ばれてギルバートが牢に近寄ると、すかさず思い切り足を踏みつけられた。
「いっ! な、なんだ一体!?」
「あんた、あの子に手を出したらタダじゃおかないわよ!?」
「だ、出す訳ないだろう!?」
正しくは出したくても出せない、である。それを聞いてシャーロットは満足したように頷いてようやくギルバートの足の上から足をどけてくれた。
【シャーロットはやっぱり悪役令嬢だ!】
◇◇◇
宮廷医師のモンクと賢者リドルに見守られながらシャーリーはシャーリーンの呪術を解いた。
「へぇ、変わった呪術を使うんだね」
リドルが言うと、シャーリーは人好きのする笑顔で頷く。
「アルバに伝わる呪術だって昔父さまに教わったんです。その頃はまだ私も姉と入れ替わってお城の中をウロウロしていたので」
「ああ、そっか。アルバ王は君は死んでると思ってるんだっけ?」
「……はい。アルバでは忌子は殺すのが常識なので……」
その時、ずっと眠っていたシャーリーンの口から吐息が漏れた。それを聞いて思わず全員で顔を見合わせる。
「起きたようですね……」
モンクがシャーリーンの脈拍を測りながら言うと、シャーリーが感極まったようにシャーリーンに泣きながら抱き着いた。
「母さま!」
「……シャー……ロ……ット……」
掠れた声を聞いて、シャーリーは何度も頷きながらシャーリーンの手を握りしめている。
ギルバートはリドルとモンクに目配せをして部屋から出るよう指示すると、リドルに小声で言った。
「牢の方のシャーロットとレイリーを連れて来てやってくれ。【やはりこういう場面は全員が集まってこそだ。】恩を【仇で返すわけにはいかんからな。何だかんだ言いつつ、シャーロットはシャーリーを守ってくれていたんだ。あの手紙を出して喧嘩を】売ろう【としなくて本当に良かった……まさかこんな事になるとは思ってもいなかった……】」
ギルバートの言葉にリドルは頭を一つ下げてその場を立ち去った。地下牢に向かう際中、サイラスと会った。サイラスは部屋を出て来たリドルを見て首を傾げている。
「あれ? リドルさん、もう終わったんですか?」
どうやらサイラスは今からまだ一仕事あるようで、胸に大量の書類を抱えていた。そんなサイラスの言葉にリドルは首を振って笑顔で答える。
「いや、今から悪役令嬢とレイリーを迎えに行く」
「え!? な、なんでまた」
「もう逃げられないようにするためだろうね。母親と娘との感動の再会すら、あの方はどうやら武器にしてしまうらしい」
「……流石ですね」
「ああ、全くだよ。怖いね、うちの銀狼は。僕にも筋書きがもう見えないよ」
何やら意味深な事を呟いてリドルは笑みを浮かべながら意気揚々と牢に向かった。