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第6話 距離感がおかしい

 圭との仲は、ゆっくりとだったが進展していった。それにつれて、かいとの距離感が普通のきょうだいにしては、おかしいのではないかとわたしは悩むようになった。だから、何とかこの距離感をにしようと努力したが、全て徒労に終わった。


「ねえ、海、わたしのベッドで寝るの、やめてよ。狭いよ」

「じゃあさ、僕が縮こまって寝るからいいでしょ?」

「そういう問題じゃないの! わたし達、もう中学3年だから、一緒に寝てたらおかしいでしょ!」

「どうして? 僕達、双子だからずっと一緒にいるの、当たり前だよ」

「双子だからってずっと一緒にいたら、息が詰まるよ!」

「息が詰まる?! 空は僕と一緒だと息が詰まるの?!」


 わたしは、海の切羽詰まった表情を見て言葉の選択肢を誤ったことに気付いた。海の茶色がかった大きな瞳は不安そうに揺れており、ウルウルと涙がこぼれそうになっていて長いまつ毛は濡れていた。


「そ、そんなことないよ」

「そっか、よかった! じゃあ、仲直りに一緒に寝ようね」


 さっきの悲しそうな表情とは打って変わり、海は嬉しそうにさっさと私のベッドに入った。


 ――しまった、また騙されてしまった!


 うちの家族は4人で2DKのボロアパートにずっと住んでいたから、わたしは物心ついた頃には既に海と2人部屋だった。しかも子供部屋には、なぜかシングルベッドが1台しかなかった。だが父の仕事がいつも不安定で収入が少なかったから、我慢するしかなかった。


 でも、小学校高学年の頃にはわたしの胸は成人女性並みに大きくなっており、海の前で着替えたり同じベッドで寝起きしたりするのが恥ずかしくなってきた。そのうえ、わたしが中学生になってからもそうしているのをふとしたことで同級生に知られてしまい、おかしいとからかわれて我慢の限界に来た。


 それでやっと6畳間の真ん中をカーテンで仕切ってもらい、ベッドの下に机が付いている家具も買ってもらえた。海はお金がないからいいと遠慮してわたし達がずっと使っていたベッドをもらったが、結局海がそのベッドで寝たのは、海に彼女ができるまで数えるほどしかなかった。


 中学3年のいつ頃からだったか、わたしが朝起きると乳首が張って股が濡れているようになった。圭と手を繋いだり、キスをしたりした次の日の朝にそうなっていることが多かったから、わたしは自分が欲求不満で寝ている間に身体がそういう反応をしてしまったのだと恥ずかしくなった。


 もちろん、そんなことを海に知られたくないので、違うベッドで寝てとしつこく頼んだ。でも全然聞いてくれないので、身体の異変を海に知られないようにパジャマの下にもブラジャーとスパッツを着込んだら、海に速攻、身体に悪いとなじられた。


「ねえ、空。なんで寝る時にもブラジャーするの? 寝てる時には身体を締め付けないほうがいいよ」

「ちょ、ちょ、ちょっと! いくら弟でも男性だよ! 女性の身体のことは黙っててよ!」


 そうすると、またあのウルウルお目目で悲しそうにわたしを見てきた。いつも騙されているのにチョロいなと自分でも思うけど、こういう顔をされるとついつい許してしまう。


「分かったよ。脱ぐよ。だからちょっと部屋から出て」

「どうして? 僕達、双子だし、お風呂だって一緒に入ってるじゃん」

「だからそれがおかしいんだって!」

「そんなこと言わないで、空……」


 それでまたお目目ウルウルが発動して……結局、わたしが折れることになった。


 でも、中学生になった異性のきょうだいが一緒にお風呂に入るのは、やはりおかしかったと今になって思う。わたしがすごく嫌だと抵抗しても、海は『双子なんだから普通』と押し通すので、わたしの感覚がおかしいのかと時々錯覚しそうになった。


 先にお風呂に入って海が来ないうちにさっさと出ようと思っても、海は後からちゃっかり入ってきた。しかも股間も隠さず堂々としていてそろそろ目のやり場に困るようになっていた。そのうえ、わたしにも隠すなといちいち無理難題を主張してきて恥ずかしくて困った。


 お風呂に鍵があれば簡単に解決できたのだろうけど、うちはかなり古いアパートの一室で鍵が壊れていた。大家さんは取り壊し前提の格安家賃で貸していたので、余程の故障で生活に支障がない限り、修繕に応じてくれなかった。


 それで親から海をたしなめてもらおうとしても、父は『きょうだいが仲良いのはいいことだ』と的外れなことしか言わないし、母は父の言いなりで違う意見を出すことは絶対なかった。


 中学3年になっても、わたしが弟と一緒にお風呂に入っていると圭が知ったら、どう思うだろうかとわたしは悩んだ。気持ち悪いと思われるかもしれない。だけど、断ると海を悲しがらせてしまう。私は葛藤した。

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