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第14話 婚約パーティ*

 元父の葬儀からしばらくしてかいが本橋コンツェルンをいずれ継ぐことが公にされた。香織さんは海に尚更固執するようになり、海が嫌がっても何かと付きまとった。彼女は学生結婚しようとすら言ってきたらしいが、海は就職してある程度自分の生活基盤を確立してからじゃないと結婚なんて考えられないと言って拒絶した。


 そんな海の態度に業を煮やしたのか、香織さんと彼女の両親は婚約パーティを開くと言ってきた。2人が婚約してからもう何年も経っているから今更の感があったが、香織さん達は大々的に2人の婚約を世間に披露したいようだった。


 婚約パーティにはわたしと母とパパ、祖父母も招待された。でも高齢で妊娠中の母の具合はあまりよくなく、祖父母は本橋家の面々を香織さんの家と積極的にかかわらせたくないので、わたしにも欠席しろと伝えてきた。でも海の立場も考えてせめてわたしだけでも思い、出席を押し通した。


 婚約パーティは、都内でも最高級のホテルで行われた。


 海は、そばを離れるな、酒は飲むなとわたしに言い含めたけど、パーティの間中ずっと海のそばについているのは無理だった。海とわたしが会場に入るなり、香織さん一家と彼らの会社の役員達が海を取り囲み、わたしは彼らの輪から押し出されたからだ。しかも、香織さんの両親の会社の男性社員達がわたしに近づいて来て飲め飲めとしきりに勧めて困った。


 ふと気が付くと、香織さんと海の姿が会場から消えていた。わたしは、香織さんの両親の会社の人達にトイレに行くと言って、会場の外に出た。廊下で海と同じ服装の男性の後ろ姿を見かけたので、声をかけると全く違う人だったが、どこかで見た覚えがあった。


 モヤモヤしながらも会場に戻ると、また男性達がしつこく話しかけてお酒を勧めてきた。わたしはそれを一生懸命かわしながら、パーティをやり過ごした。


 ポツポツと帰る人が増えて次第に会場に残っている人が少なくなっていったが、海はそれでも帰って来なかった。わたしは、居心地が悪くてもずっと待っていたが、とうとう香織さん一家と彼らの会社の人達だけしか会場にいなくなり、香織さんの両親がパーティはお開きだとわたしに伝えてきた。


「海がどこにいるかご存知ですか?」

「彼は香織のところにいるから、心配ないわよ」

「でも一緒に帰ると約束したんです」

「あなたねぇ、ただの従姉なんでしょう? うちの娘は彼の婚約者なの。従姉にウロチョロされたら、迷惑なのよ。とっとと帰ってちょうだい」


 それでもわたしは待とうとしたが、香織さんの両親が雇ったらしき警備員に会場から追い出されてしまった。


 仕方なく1人で帰ろうとトボトボとホテルのロビーを歩いていると、海が赤い顔をして息せき切ってやって来た。


「海! 今までどこにいたの?! 香織さんのところ?」

「うん、でも強引に帰ってきた」


 わたしは、海が香織さんと2人きりでホテルの部屋にいるところを想像してしまい、胸がチクリと痛んだ。


 海は熱が出ているように見えたので、ホテルの前から直接タクシーで帰宅し、すぐにベッドに寝かせた。


「海、大丈夫? 熱があるよね?」

「空が助けてくれれば大丈夫」

「わたし、大した看病できないよ」

「違うよ。僕の欲を放出させてくれれば、熱が下がるよ」

「え? 欲?」


 海は、わたしの手を硬くなって盛り上がった股間に導いた。


「か、海?!」

「あいつら、僕に媚薬を盛ったんだ。でも香織とはもちろん、しなかったよ」

「媚薬?! 嘘?!」

「本当だよ。卑怯だよね。それでもあの女とはしなかった。いや、できなかったよ。褒めてくれる?」

「えらかったよ、海。これでいい? でも香織さんは、海の婚約者だから、しても当然……」

「本当にそう思ってる? 僕の性器が香織のあそこに入っているところを想像してよ。本当にそうなってもいいの?」

「い、い、いや……!」

「そうでしょう? それじゃ、ご褒美ちょうだい」


 赤い顔をした海は、満足そうに微笑み、パジャマのズボンを下げて濡れたアレをわたしに直接握らせた。


「はぁ……そう、いつもみたいに扱いて……ああ、空……大好きだよ……うううっ!」


 限界だった海はすぐに達した。


「僕ばかり気持ちよくなってごめんね。ちょっと寝かせてもらったら、空も気持ちよくしてあげるから、待ってて」

「い、いいよ、そんなの!」

「遠慮しないで」


 1時間ほど寝てから海は本当にわたしを愛撫してイかせてくれた。


 婚約パーティの翌月、海は香織さんと彼女の両親に家族会議と称して香織さん達の家に呼び出された。祖父母とパパ、母は来なかったが、わたしは海に同行した。


 わたし達が通された応接室には、金のシャチホコや裸婦像、金色の額縁の絵画などがゴテゴテと飾られており、香織さん一家らしい成金趣味に溢れていた。


 香織さんは、わたしが海の隣にいるのを見ると、顔を顰めてすぐに文句をつけてきた。


「ちょっと、どうしてあなたも来ているの? わたし達は海だけ呼んだのよ」

「僕の従姉をそんな風に邪見にするとは、随分な性格をしてますね。大体、そちらはご両親が同席しているんだから、僕だって家族を同席させていいはずです」

「ひどいわ、そんな言い方。わたしこそ、あなたの子供を産んで家族を作ってあげられるのに」

「ああ、そのことですか」

「娘を婚前に妊娠させておいてその態度は何だ!」


 わたしは、海が香織さんを妊娠させたと聞いて目の前が真っ暗になった。


「え?! 海、香織さんが妊娠って?!」

「空、僕はその相手じゃないから安心して」

「部外者は黙ってろ!」

「部外者じゃありませんよ。僕の愛する従姉です」

「散々うちの援助を受けた癖に本橋の御曹司になったら、うちの娘を捨ててその女とくっつくのか?! 人でなしじゃないか!」

「望まない結婚をしないで済むなら、人でなしで結構ですよ。援助は利子をつけてお返ししますから、僕はまだ紳士なほうだと思いますが」

「何を言う!」

「望まない結婚って嘘よね? 嘘と言って、海!!」


 応接室の中がカオスに陥ったその時、ドアがノックされた。


「おい、今は取り込み中だ! 後にしろ!」

「いえ、僕が呼んだんです」


 海が呼び出したのは、香織さんが小学校の頃から送り迎えをしている30代後半ぐらいの運転手だった。彼はおどおどしながら、応接室の中に入って来た。


「香織さんの子供の父親は君だよね。正直に言ってごらん」

「は、はい……恐れながらそうです」

「何嘘を言っているのよ! わたしはこんな男と寝た覚えはないわ! 海、婚約パーティの後、わたしとホテルの部屋でセックスしたじゃない! 覚えがないとは言わせないわよ!」

「僕はあなたとセックスなんてしてませんよ。僕は会場を出た空と一緒にすぐにタクシーで帰宅しました。香織さん、あなたはあの時、酔い過ぎていて記憶が確かではないでしょう?」

「そ、そんなわけ……!」

「信じられないなら、羊水検査してみればいいですよ」


 海がそこまで言うので、香織さんの父は驚いて運転手に食って掛かった。


「ま、まさかお前、本当に娘を手籠めにしたのか!」

「て、手籠めだなんてとんでもありません! 私はお嬢様に呼び出されたと聞かされてホテルの部屋へ伺ったらお嬢様に抱き着かれたんです。想いが通じて喜んでいたんです!」

「そんなわけないだろう! お前ごときに! だいたいお前、自分がいくつだと思っているんだ!」


 応接室の中は怒号が飛び交い、香織さんの父は運転手の男性を足蹴にし、殴りかかった。もう家族会議どころではなくなり、話はそこで中断した。


 その後も香織さんが子供の父親は海だと頑なに主張したので、妊娠20週になった頃、羊水検査で親子関係を確認した。海の言う通り、運転手が子供の父親だった。


 海は香織さんとの婚約を破棄し、約束通りに今までの援助に利子をつけて香織さんの両親に返済した。


 香織さんは中絶を希望したそうだが、彼女の両親は孫を望み、出産させた。だが、運転手とは結婚させなかった。彼は家族会議の直後に解雇され、羊水検査の後、行方不明となった。


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