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スクール・リクエスト!〜放課後なんでも相談部〜
スクール・リクエスト!〜放課後なんでも相談部〜
マカロー
現実世界青春学園
2025年06月07日
公開日
7,337字
完結済
進英高校には、生徒たちのどんな悩みも受け付ける非公式の部活「放課後相談部(通称:ホウソウ部)」が存在する。 依頼の内容は「好きな子の誕生日プレゼント選び」から「部活の助っ人」果ては「幽霊退治」まで何でもアリ。 でも最近来るのは恋愛の依頼ばかりで!? 部のモットーは「どんな悩みも本気で向き合う」。 今日も3人のメンバーが、型破りな方法と時々シリアスな心の対話で、依頼人の心を軽くしていく――。

第1話 奇妙な依頼「落とし物を拾ってほしい」

「なぁ、玲……この部、もうちょっと名前、どうにかなんねぇかな?」


「無理。どうせお前、“バリバリ!青春なんでも解決隊!”とかつけたいんだろ。頭が小学生。」


「なっ、か、カッコいいだろ!? この響き! “隊”ってとこが特に!」


「逆に中二病。」


「ウッ……」


 これが、俺たち「放課後なんでも相談部」の日常である。


 ……って紹介したところで、誰が俺たちのこと知ってるんだって話だけどな。放課後なんでも相談部、略してホウソウ部。表向きは正式な部活じゃない。生徒会には“雑用集団”とか“校内の便利屋”とか呼ばれてる始末だ。こっちは真面目に活動してんだけどな。


 今、俺――花村空はなむらそらは、部室にあるこたつにもぐって、ラムネ片手に全力でごろ寝中である。


「……なんでこんな暑いのに、こたつなんて出してんのよ」


 呆れた声で、陽菜が俺の額にアイスを押しつけてきた。


「んほぁっっ!? つっめたぁっ!?」


「顔、だらしなさすぎてムカついた。ていうか、真夏にこたつってお前、マゾなの?」


「違う、違う、俺はピュア!」


「その否定の仕方が意味不明」


 彼女の名前は川原陽菜かわはらひな。元ヤン。口が悪い。身長150センチで見た目は人形みたいにかわいいのに、話すと毒舌しか出てこない。あとめっちゃ腕力ある。


 実は料理が趣味だったり、裁縫得意だったりするギャップ女子だけど、本人はそれを絶対に人前で見せない。ツンデレというより、“ガチ隠れ乙女”タイプである。ちなみに俺は何度かそれを偶然目撃しているが、毎回「見たら殺す」の一言で黙秘を強いられている。裁縫針が飛んでくる世界。


 一方、毒舌眼鏡の彼はというと――


「陽菜、あんまり本気で殴ると、空の残り少ない脳細胞が滅びるよ」


「お前も敵かっ!? てか俺の脳細胞返して!」


 桐島玲きりしまれい。IQ高めのクール男子。いつも冷静で、文系理系問わずなんでもできるが、運動音痴。走ると5秒で足が攣る。あと、心の奥が割と闇。


 彼がいないと、このホウソウ部はただのカオス集団になる。


 ……つまり俺と陽菜の言い争いが永遠に続く。


「で、今日は依頼あるの?」


 俺がようやくこたつから這い出て、ホワイトボードを見上げると、ひとつのメモがマグネットで留められていた。


「“落とし物を拾ってほしいです。校庭の隅の木の下にあります”……?」


「は?」


「……それ、警備員に言えや」


「いや、たぶん、そういう“物”じゃないってことだろ」


 玲が腕を組みながら立ち上がる。顔は真顔。でも口元だけ微妙に笑ってる。たぶんこういうの好きなんだ、コイツ。


「よしっ、現地捜査といこう!」


「お前、刑事ドラマ見すぎ」


 校庭の片隅、午後四時半。校舎の裏にある小さな木の下。陽が傾き、夕焼けが淡いオレンジを広げる中、俺たちは“それ”を見つけた。


「……封筒?」


「便箋入り。手紙、だな」


 桐島が中身を抜き取り、内容を読み上げる。


『好きな人に、この手紙を届けてください。

でも私の名前は出さないでください。

ただ、想いだけが届けばいいんです。』


「……まじかよ」


「こ、これは……」


「わぁー、青春だねぇ〜〜〜!!」


 俺はその場で手紙を抱きしめ、空を仰いだ。


「いや、キモいわ。何その演出」


「キモいし、うるさい」


 陽菜と玲の冷たい視線が痛い。


「……でも、これ、ガチだな」


 玲が静かに言った。視線は便箋の筆跡に向けられている。


「めちゃくちゃ丁寧な字だけど……震えてる。書いたとき、たぶん手が」


「……怖かったんだろうな。名前も出さない、でも、伝えたい……って」


「うん。だから、届けよう。想いだけ」


「おぉっ、玲が燃えてる! 珍しい!」


「うるさい」


 依頼主は、誰だ?問題はここからだった。宛先はあった。2年B組・佐々木遥ささきはるか


 ……でも、差出人は書かれていない。名前どころか、ヒントすらない。


 だが、その後俺たちは校内で聞き込みを始め、筆跡をもとに美術部の誰かかもしれない、というところまで絞り込んだ。


「……なんか探偵っぽい……!」


 とテンションが上がる俺を、陽菜が背後から地味に蹴る。


「静かにして、今から大事なシーンだから」


「おま、どんなジャンル感覚でこの状況見てんの!?」


 やがて、放課後の美術室で、俺たちは手紙を書いた本人と出会った。


 美術部の1年生、藤原紗良ふじわらさら


 小柄でおとなしくて、ずっと絵を描いていた。話しかけても小さな声で、目もあまり合わない。


 でも、俺たちがあの手紙を見せると、彼女は泣きそうな顔でうなずいた。


「……でも、私なんかが、好きだなんて、言ったら迷惑だと思って……」


 泣くのをこらえる彼女の姿に、俺は不思議と胸がぎゅっとなった。


「――なぁ、紗良ちゃん」


「は、はい……」


「想いってのは、言わなきゃ届かないこともあるけど、

言わなくても伝わることも、あるんだぜ」


 俺の言葉に、彼女は少しだけ笑った。


 その日、俺たちは“差出人不明の手紙”として、彼女の手紙を、佐々木の机に置いた。


翌日。

「……昨日、佐々木が、校庭の木の下に花を置いてったって」


 陽菜の言葉に、俺は笑った。


 多分、本人には伝わったんだろう。想いのカタチはそれぞれだ。


「なぁ、陽菜」


「……なに」


「もし俺が、手紙書いたら、読む?」


「読まない」


「は、速攻すぎない!?」


「読む前に“破く”って意味。物理的に」


「ひどっ!」


「でもまあ……」


「……ん?」


「私が好きになる相手は、バカじゃないといいな」


「……それ、希望持っていいの? それともディスられてんの?」


「……さぁね?」


 彼女は、いつもの毒舌に、ほんの少し笑みを混ぜていた。



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