「なぁ、玲……この部、もうちょっと名前、どうにかなんねぇかな?」
「無理。どうせお前、“バリバリ!青春なんでも解決隊!”とかつけたいんだろ。頭が小学生。」
「なっ、か、カッコいいだろ!? この響き! “隊”ってとこが特に!」
「逆に中二病。」
「ウッ……」
これが、俺たち「放課後なんでも相談部」の日常である。
……って紹介したところで、誰が俺たちのこと知ってるんだって話だけどな。放課後なんでも相談部、略してホウソウ部。表向きは正式な部活じゃない。生徒会には“雑用集団”とか“校内の便利屋”とか呼ばれてる始末だ。こっちは真面目に活動してんだけどな。
今、俺――
「……なんでこんな暑いのに、こたつなんて出してんのよ」
呆れた声で、陽菜が俺の額にアイスを押しつけてきた。
「んほぁっっ!? つっめたぁっ!?」
「顔、だらしなさすぎてムカついた。ていうか、真夏にこたつってお前、マゾなの?」
「違う、違う、俺はピュア!」
「その否定の仕方が意味不明」
彼女の名前は
実は料理が趣味だったり、裁縫得意だったりするギャップ女子だけど、本人はそれを絶対に人前で見せない。ツンデレというより、“ガチ隠れ乙女”タイプである。ちなみに俺は何度かそれを偶然目撃しているが、毎回「見たら殺す」の一言で黙秘を強いられている。裁縫針が飛んでくる世界。
一方、毒舌眼鏡の彼はというと――
「陽菜、あんまり本気で殴ると、空の残り少ない脳細胞が滅びるよ」
「お前も敵かっ!? てか俺の脳細胞返して!」
彼がいないと、このホウソウ部はただのカオス集団になる。
……つまり俺と陽菜の言い争いが永遠に続く。
「で、今日は依頼あるの?」
俺がようやくこたつから這い出て、ホワイトボードを見上げると、ひとつのメモがマグネットで留められていた。
「“落とし物を拾ってほしいです。校庭の隅の木の下にあります”……?」
「は?」
「……それ、警備員に言えや」
「いや、たぶん、そういう“物”じゃないってことだろ」
玲が腕を組みながら立ち上がる。顔は真顔。でも口元だけ微妙に笑ってる。たぶんこういうの好きなんだ、コイツ。
「よしっ、現地捜査といこう!」
「お前、刑事ドラマ見すぎ」
校庭の片隅、午後四時半。校舎の裏にある小さな木の下。陽が傾き、夕焼けが淡いオレンジを広げる中、俺たちは“それ”を見つけた。
「……封筒?」
「便箋入り。手紙、だな」
桐島が中身を抜き取り、内容を読み上げる。
『好きな人に、この手紙を届けてください。
でも私の名前は出さないでください。
ただ、想いだけが届けばいいんです。』
「……まじかよ」
「こ、これは……」
「わぁー、青春だねぇ〜〜〜!!」
俺はその場で手紙を抱きしめ、空を仰いだ。
「いや、キモいわ。何その演出」
「キモいし、うるさい」
陽菜と玲の冷たい視線が痛い。
「……でも、これ、ガチだな」
玲が静かに言った。視線は便箋の筆跡に向けられている。
「めちゃくちゃ丁寧な字だけど……震えてる。書いたとき、たぶん手が」
「……怖かったんだろうな。名前も出さない、でも、伝えたい……って」
「うん。だから、届けよう。想いだけ」
「おぉっ、玲が燃えてる! 珍しい!」
「うるさい」
依頼主は、誰だ?問題はここからだった。宛先はあった。2年B組・佐々
……でも、差出人は書かれていない。名前どころか、ヒントすらない。
だが、その後俺たちは校内で聞き込みを始め、筆跡をもとに美術部の誰かかもしれない、というところまで絞り込んだ。
「……なんか探偵っぽい……!」
とテンションが上がる俺を、陽菜が背後から地味に蹴る。
「静かにして、今から大事なシーンだから」
「おま、どんなジャンル感覚でこの状況見てんの!?」
やがて、放課後の美術室で、俺たちは手紙を書いた本人と出会った。
美術部の1年生、
小柄でおとなしくて、ずっと絵を描いていた。話しかけても小さな声で、目もあまり合わない。
でも、俺たちがあの手紙を見せると、彼女は泣きそうな顔でうなずいた。
「……でも、私なんかが、好きだなんて、言ったら迷惑だと思って……」
泣くのをこらえる彼女の姿に、俺は不思議と胸がぎゅっとなった。
「――なぁ、紗良ちゃん」
「は、はい……」
「想いってのは、言わなきゃ届かないこともあるけど、
言わなくても伝わることも、あるんだぜ」
俺の言葉に、彼女は少しだけ笑った。
その日、俺たちは“差出人不明の手紙”として、彼女の手紙を、佐々木の机に置いた。
翌日。
「……昨日、佐々木が、校庭の木の下に花を置いてったって」
陽菜の言葉に、俺は笑った。
多分、本人には伝わったんだろう。想いのカタチはそれぞれだ。
「なぁ、陽菜」
「……なに」
「もし俺が、手紙書いたら、読む?」
「読まない」
「は、速攻すぎない!?」
「読む前に“破く”って意味。物理的に」
「ひどっ!」
「でもまあ……」
「……ん?」
「私が好きになる相手は、バカじゃないといいな」
「……それ、希望持っていいの? それともディスられてんの?」
「……さぁね?」
彼女は、いつもの毒舌に、ほんの少し笑みを混ぜていた。