午前11時45分。——俺の腹が、限界を迎えた。
「……なあ、陽菜。俺の弁当……見なかった……?」
「その顔で“弁当見なかった?”とか、地味にホラー」
「俺にとっては今がホラーなんだよ! 弁当が! ないの! 昼休み5分前! ノーフード!!」
「は? 朝、自分で作ってたじゃん。カップラーメンにご飯詰めたやつ」
「それは“ラーメンおにぎり弁当”っていう立派な料理名がある!」
「あるかボケ!!」
毎度おなじみ、陽菜との口ゲンカで始まる俺の昼休み。
でも今日は違った。だって——
俺の弁当箱の中に、爆弾が仕込まれてたからだ。
……比喩じゃない。マジであるんだ。
弁当箱のフタを開けたら、そこに入っていたのは——
『この弁当は30分後に爆発します』
——「好きです。付き合ってください」より
「いや告白方法おかしいだろ!!」
全力で机を叩きながら、俺は絶叫した。
陽菜はというと、スプーンを咥えたまま、冷たい目で一言。
「その場で爆破されてどうぞ」
「助けてよ!?」
放課後、ホウソウ部。結局弁当は爆発しなかった。というか中にちゃんとご飯入ってた。
唐揚げ・卵焼き・ハート型のウインナー——完全に“本気のやつ”だった。
「……怖い。怖すぎる。恋が重い」
「好きの伝え方がテロだもんな」
桐島が真顔でメモ帳に“感情爆弾型ラブレター”と記録している。
その名称やめてくれ。名前負けしてないのが怖い。
「で? 依頼は?」
「……これが依頼だ」
「……へ?」
俺が差し出したのは、例の“弁当手紙”だった。
実は、メモの裏にこう書かれていた。
『この想いを受け取ってください。でも、私の正体は明かさないでください。
できれば……お弁当、おいしかったって、言ってもらえたら嬉しいです』
放課後なんでも相談部、まさかの初“告白されました”案件である。
いや、俺が告白されたってわけじゃない……と思いたい。
「じゃあ、なんでこれが相談なんだ?」
「いや、俺、この“依頼人”の正体を突き止めて、“ありがとう”って言ってあげたいんだよ」
「お前……珍しく、イケメン発言」
「心に唐揚げがしみた」
「例えがデブ」
というわけで、ホウソウ部3人、爆弾弁当事件の捜査を開始した。
桐島の推理によると:
弁当は保温性高い容器
おかずは手作り感強め
唐揚げに特製ソース(家庭の味系)
“30分で爆発”の字が、右上がりでクセあり
「この筆跡、家庭科部の1年・
「えっ、七瀬って……例の“家庭科部の鬼才”って呼ばれてる子か!?」
「弁当で人の恋路を操るって噂があるよな……!」
「待て、それ都市伝説だろ!?」
実際に会ってみた七瀬楓は、小柄でふわふわした雰囲気の女の子だった。
しかし、第一声がぶっ飛んでいた。
「わたしの唐揚げが……君の中で爆発したのね!」
「やっぱりこの人が犯人だーーーッ!!」
「ちがうちがう! たまたま“弁当弁当”って騒いでたから、声かけただけなの!」
彼女曰く、あの弁当は彼女の作った“ラブ弁教室”の試作品だったらしい。
希望者に弁当作りを教え、代わりにラブレターを添える——
「秘密の恋弁屋」という秘密活動をしていたのだ。
「それ、校則違反じゃね?」
「隠密活動だからセーフ!」
「アウトです」
七瀬の協力のもと、依頼人が判明した。
2年D組・
クラスでも目立たず、おとなしいタイプ。だが、絵がとてつもなく上手い。
彼女は、七瀬の“ラブ弁教室”に参加し、想いを伝えるために弁当を作った。
「でも……私みたいなのが、告白しても、きっと、気持ち悪がられるだけだから……」
震えた声でそう言う彼女に、俺は言った。
「——気持ち悪くなんて、思うわけないだろ」
あの弁当は、うまかった。ほんとうに、心が温まった。
それが伝えたくて、俺はここまで来たんだ。
「俺、告白されるとか、されないとか、そんなのよくわかんないけどさ。
あの弁当、めっちゃうまかった。唐揚げも卵焼きも、最高だった。ありがとうな」
「……っ……ありがとう、ございます……!」
彼女の目に、涙がにじんでいた。
「……ふーん」
陽菜が口をとがらせながら、カップラーメンにお湯を注いでいる。
「な、なにが“ふーん”だよ」
「なんでもない。……あんた、味覚バカのくせに、他の女の弁当はうまいって言うんだ」
「え、いや……そういう意味じゃ……!」
「……今度、私も作ってやるよ。爆発しないやつな」
「……えっ……それって……」
「ツッコんだら刺す」
「解釈違いだああああ!!」