目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第4話 文化祭目前!「告白イベント代行業」始めます!?

「……で? 誰だ、“告白イベント”とかいう地獄の企画を通したのは?」


 放課後、ホウソウ部の部室——例によって狭い上にうるさい空間——にて。

陽菜は机に額を押しつけて、絶望の呻きを漏らしていた。


「は〜い! この天才副会長、陽咲れんで〜す☆」


 パーン、と効果音がつきそうなほど元気な声で手を挙げたのは、生徒会のトラブルメーカー・陽咲ひさきれん。

金髪ツインテ、三白眼、しかもハイテンション系。外見はギャル100%、中身はIQ300のトリックスター(自称)。


「告白イベントって……文化祭の目玉としてアリじゃない!? 甘酸っぱい青春! 恋のドキドキ! 観客はキャーキャー!」


「いや! キャーキャーどころか、観客が地蔵になる予感しかしない!」


「ふふふ。そこで、あなたたちの出番ですの! ホウソウ部、文化祭臨時イベント担当に任命しまーす!」


「任命!? え、我々に拒否権は……」


「なーい☆」


「ぐわああああああああ!!」


 数日後、校内掲示板に貼られたひときわ目立つポスター。


文化祭特別企画!

【恋のスピーカーズ・ラブフェス】

〜告白代行、承ります!〜

by 放課後なんでも相談部(通称:ホウソウ部)

 そう、ホウソウ部がやることになったのは——


「“告白を代わりに届ける”イベントだ。」


 と、桐島がスチャッとメガネを押し上げながら解説する。


「告白したいけど勇気がない。言葉に詰まる。失敗が怖い。

そんな人たちの気持ちを、俺たちが“代弁”する。それがこの企画の趣旨だ」


「わー、なにその良い声のプレゼン。ギャップで死にそうなんだけど」


 陽菜が棒アイスをかじりながら、ぽやっと口を開ける。


「……ただ、問題がひとつある」


「問題?」


「応募が——殺到してる。」


【依頼内容その1】— ラップで告白したい!?

 まず最初に来た依頼は——


「Yo、Yo! オレは韻を踏みながら愛を伝えたい男子!

だけど直接言うのはムリ!Yo! だからラップで代わりに言ってくれYo!」


「……うん、無理。」


「いや、陽菜、挑戦しよう? 新境地かもしれないし……?」


「桐島、お前もノリすぎィ!!」


 陽菜が泣きそうになりながら、リリック作成ソフトを立ち上げる。

(なお、完成したラップはなぜか大受けして、文化祭初日のトレンド1位に)


【依頼内容その2】— “お面”をつけて告白して!

 次の依頼は……


「どうしても顔を見られたくない! だから“馬のお面”をかぶって告白したい!」


「やめて!? それ、笑い取るためのコントじゃん!? 告白じゃないの!」


 結局、部員の一人・風間(無駄にイケボ)が馬面をつけて告白する映像を作成。

なぜか感動した相手から「Yes」の返事が届く。世の中、分からない。


【依頼内容その3】— “伝えたいのはごめんなさい”?

 だが、文化祭前日。

ひとつの特別な依頼が届く。


「好きだった人に……“ごめんなさい”って伝えてほしい。

告白じゃなくて、謝罪です。

ちゃんと好きだった。でも……傷つけてしまった」

 依頼人:匿名。

内容:文化祭イベントの最後に、音声で流してほしいとのこと。


「これ……やるの?」


「もちろんだよ」


 陽菜が、真顔でうなずいた。


「だってこれ、ちゃんと“想い”だもん。ちゃんと受け止めなきゃ、ね」


 文化祭当日。最後の演目。

ホウソウ部が届けた“恋のスピーカーズ・ラブフェス”は、爆笑と感動の連続だった。


 ラップ告白、演劇風プロポーズ、女装男子の涙の訴え。

会場は笑いに包まれ、そして——


 最後、あの「ごめんなさい」の音声が流れた。


「好きでした。本当に、大好きでした。

でも、私は不器用で……あなたを悲しませてしまった。

今さらだけど、ごめんなさい。

本当は、ちゃんと伝えたかった。ありがとうって」

 ざわめいていた会場が、静かになる。


 放送が終わった後、一人の女生徒が壇上に立ち上がる。

制服の襟をぎゅっと握って、顔を上げて——


「……わたしも、好きだったよ」


 その瞬間、ホウソウ部の誰もが知った。

“言葉”には、伝える力があることを。


 文化祭が終わっても、部室は相変わらずだった。


「いやー、告白ラップ楽しかったー!」


「陽菜、なにそのノリ。まだ続ける気!?」


「でさ、次の依頼なんだけど——

“ウチの猫に人間の言葉で愛を伝えてほしい”ってのが来てるんだけど」


「……動物通訳編!?」


「やるしかないでしょ。だって、ホウソウ部だもん」


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?