「……で? 誰だ、“告白イベント”とかいう地獄の企画を通したのは?」
放課後、ホウソウ部の部室——例によって狭い上にうるさい空間——にて。
陽菜は机に額を押しつけて、絶望の呻きを漏らしていた。
「は〜い! この天才副会長、陽咲れんで〜す☆」
パーン、と効果音がつきそうなほど元気な声で手を挙げたのは、生徒会のトラブルメーカー・
金髪ツインテ、三白眼、しかもハイテンション系。外見はギャル100%、中身はIQ300のトリックスター(自称)。
「告白イベントって……文化祭の目玉としてアリじゃない!? 甘酸っぱい青春! 恋のドキドキ! 観客はキャーキャー!」
「いや! キャーキャーどころか、観客が地蔵になる予感しかしない!」
「ふふふ。そこで、あなたたちの出番ですの! ホウソウ部、文化祭臨時イベント担当に任命しまーす!」
「任命!? え、我々に拒否権は……」
「なーい☆」
「ぐわああああああああ!!」
数日後、校内掲示板に貼られたひときわ目立つポスター。
文化祭特別企画!
【恋のスピーカーズ・ラブフェス】
〜告白代行、承ります!〜
by 放課後なんでも相談部(通称:ホウソウ部)
そう、ホウソウ部がやることになったのは——
「“告白を代わりに届ける”イベントだ。」
と、桐島がスチャッとメガネを押し上げながら解説する。
「告白したいけど勇気がない。言葉に詰まる。失敗が怖い。
そんな人たちの気持ちを、俺たちが“代弁”する。それがこの企画の趣旨だ」
「わー、なにその良い声のプレゼン。ギャップで死にそうなんだけど」
陽菜が棒アイスをかじりながら、ぽやっと口を開ける。
「……ただ、問題がひとつある」
「問題?」
「応募が——殺到してる。」
【依頼内容その1】— ラップで告白したい!?
まず最初に来た依頼は——
「Yo、Yo! オレは韻を踏みながら愛を伝えたい男子!
だけど直接言うのはムリ!Yo! だからラップで代わりに言ってくれYo!」
「……うん、無理。」
「いや、陽菜、挑戦しよう? 新境地かもしれないし……?」
「桐島、お前もノリすぎィ!!」
陽菜が泣きそうになりながら、リリック作成ソフトを立ち上げる。
(なお、完成したラップはなぜか大受けして、文化祭初日のトレンド1位に)
【依頼内容その2】— “お面”をつけて告白して!
次の依頼は……
「どうしても顔を見られたくない! だから“馬のお面”をかぶって告白したい!」
「やめて!? それ、笑い取るためのコントじゃん!? 告白じゃないの!」
結局、部員の一人・風間(無駄にイケボ)が馬面をつけて告白する映像を作成。
なぜか感動した相手から「Yes」の返事が届く。世の中、分からない。
【依頼内容その3】— “伝えたいのはごめんなさい”?
だが、文化祭前日。
ひとつの特別な依頼が届く。
「好きだった人に……“ごめんなさい”って伝えてほしい。
告白じゃなくて、謝罪です。
ちゃんと好きだった。でも……傷つけてしまった」
依頼人:匿名。
内容:文化祭イベントの最後に、音声で流してほしいとのこと。
「これ……やるの?」
「もちろんだよ」
陽菜が、真顔でうなずいた。
「だってこれ、ちゃんと“想い”だもん。ちゃんと受け止めなきゃ、ね」
文化祭当日。最後の演目。
ホウソウ部が届けた“恋のスピーカーズ・ラブフェス”は、爆笑と感動の連続だった。
ラップ告白、演劇風プロポーズ、女装男子の涙の訴え。
会場は笑いに包まれ、そして——
最後、あの「ごめんなさい」の音声が流れた。
「好きでした。本当に、大好きでした。
でも、私は不器用で……あなたを悲しませてしまった。
今さらだけど、ごめんなさい。
本当は、ちゃんと伝えたかった。ありがとうって」
ざわめいていた会場が、静かになる。
放送が終わった後、一人の女生徒が壇上に立ち上がる。
制服の襟をぎゅっと握って、顔を上げて——
「……わたしも、好きだったよ」
その瞬間、ホウソウ部の誰もが知った。
“言葉”には、伝える力があることを。
文化祭が終わっても、部室は相変わらずだった。
「いやー、告白ラップ楽しかったー!」
「陽菜、なにそのノリ。まだ続ける気!?」
「でさ、次の依頼なんだけど——
“ウチの猫に人間の言葉で愛を伝えてほしい”ってのが来てるんだけど」
「……動物通訳編!?」
「やるしかないでしょ。だって、ホウソウ部だもん」
完