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第6話ダンジョンへの招待と、試される信頼

 ギルドの掲示板は、朝から騒がしかった。


 中級以上の依頼が一気に解禁されたからだ。


 その中に、ひときわ目立つ金枠のクエストがあった。


【新設ダンジョン:黒鉄の坑道(くろがねのこうどう)調査依頼】

《危険度:D+ランク》

《報酬:初期調査報酬+ボーナス魔鉱石》

《参加条件:ギルド認可パーティーのみ》


「——ダンジョンだ。」


 俺は、紙をじっと見つめながら呟いた。


 目を引いたのは“ダンジョン”という単語。ゲームで見たような幻想的なものではない。

 ここでのダンジョンは、“魔素の濃度が異常に高く、魔物が巣食う特異空間”を指すらしい。


「おっ、ユウキじゃねえか。初ダンジョン挑戦か?」


 背後から、聞き覚えのある声。


 振り返ると、同じく新米冒険者のラッセルが腕を組んで立っていた。


 金髪で大柄、口は悪いが腕は立つと評判の男。俺と同じタイミングでギルド入りしたが、ソロで突っ走っていたタイプだ。


「リーネちゃんと組んでんだっけ。へぇ、いい女手に入れたな?」


「……そういう言い方はよせ。」


「なんだよ、嫉妬か? ま、せいぜい気をつけろよ。ダンジョンは街の外とは訳が違うからな。」



「行くつもり?」


 ギルドのカフェで、リーネが俺に聞いた。


 カップの紅茶が、微かに湯気を立てている。


「行きたい。強くなりたいし、あの連携スキルを試したい。」


「……」


「でも、無理はしない。もし嫌なら——」


「私も、行く。」


 彼女は静かに言った。


 その言葉の奥に、覚悟と信頼があった。


「じゃあ、準備は今日中に。明日、出発しよう。」


「了解。」


 俺たちは目を合わせ、頷いた。



 翌日。


 街の外れにある黒鉄の坑道入口は、すでに人だかりだった。


 十数人の冒険者、全員がギルド認可パーティーの参加者たちだ。


「ふん、見ろよ。あのガキどもも来てやがる。」


「おい、あれリーネじゃねぇか? 一匹狼が、男と?」


 周囲の視線が痛い。


 リーネは“元・高ランクの剣士”だったらしい。今は何らかの理由でランクを落としているが、彼女を知る者は多い。


「気にするな。」


 俺がそう言うと、彼女は小さく「平気」と返してくれた。


 坑道の入口は、朽ちた鉄扉で閉ざされていた。だが、ギルド職員の魔法によって、ゆっくりと開かれる。


 中から、湿った空気と魔素の匂いが漂ってきた。


《新エリア:黒鉄の坑道》

《環境スキャン中……》

《適応力スキル解放:ダンジョン耐性Lv1》


「スキル、来た。」


「私も。」


 脳内に響いたシステムの声。どうやら、ダンジョンに入ることで発現する特殊スキルらしい。


 “ダンジョン耐性”——長時間の探索での疲労や、魔素による精神異常を抑える効果があるという。



 内部は、まるで古代の炭鉱跡だった。


 木の支柱、崩れかけた石床、壁に残る古い鉱脈の痕。


 だが、それ以上に恐ろしかったのは、異様な静けさだ。


 まるで、魔物が気配を消して俺たちを“待っている”ような——


「気をつけろ。」


 その直後、暗闇から飛び出してきたのは、全身を黒く包んだ鼠型の魔物。


「シャドウラット……!」


 数は五体。


「リーネ!」


「任せて!」


 俺たちは背中を合わせ、正面の敵に集中する。


「ツインフェイント!」


 同時に声を上げる。


 骨刀と短剣が交差し、ラットの一体を一瞬で仕留める。


《コンボ成功》

《連携スキル:ツインフェイント Lv2》

《効果上昇:クリティカル率+15%、再使用間隔短縮》


「成長してる……!」


「スキルも進化するのね。」


 戦いながら実感する。


 この世界で、生きていくためには——

 戦って、殺して、進化しなければならない。



 戦闘を終えた頃、通路の先で爆発音が鳴った。


「何だ!?」


「罠か?」


 別ルートのパーティーが騒いでいた。


 急行すると、倒れていたのは……ラッセルだった。


 血まみれで足を負傷し、剣も折れている。


「くっ、クソ、油断した……!」


 そばにいた仲間が助けを求めていたが、他のパーティーは皆、見て見ぬふりだった。


「……」


 俺は、ラッセルに歩み寄った。


「ユウキ、やめて。あいつ——」


「放っておけない。」


 そう言って、俺は傷薬を取り出し、ラッセルの足に塗った。


「……なんで助ける。」


「助けられるのに、助けない理由はねえよ。」


 ラッセルは黙りこくった。


 だが、目の奥に宿ったのは——確かに、俺への“評価の変化”だった。



 ダンジョン探索は無事に終わった。


 俺たちは、数個の魔鉱石とシャドウラットの素材、そして“信頼”を手に入れて帰還した。


 ギルドに戻ると、受付嬢が笑顔で迎えてくれた。


「おかえりなさい、ユウキさん、リーネさん。初ダンジョンお疲れ様でした。」


「……楽じゃなかったけど、行ってよかったよ。」


 リーネが俺をちらりと見た。


 少しだけ——照れているように見えた。


《スキル統合条件達成》

《新スキル候補:ハーモニックリンク 発現中》

——二人の信頼度が一定以上に到達した場合に発動


「新スキル、来たぞ。」


「へぇ……私たち、思ったより“いいコンビ”みたいね。」


「そうだな。」


 初めてのダンジョン。


 試されたのは、力だけじゃない。


 信頼、覚悟、そして“生きる意思”。


 それを胸に、俺はまた、一歩を踏み出した。


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