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第5話連携スキル発動!森の中の試練

朝霧が森を包み込んでいた。


 静けさの中、乾いた落ち葉を踏む音が二つ、規則正しく続いていた。


 一人は俺——ユウキ。

 もう一人は昨日出会った謎の少女、リーネ。


 俺たちは今日、初めて“パーティー”を組んだ。


 目的は、森の奥に巣を構える中級魔物「ブラッドウルフ」の討伐。


 ギルドで得た情報によれば、牙ネズミやゴブリンとは比較にならない速度と凶暴性を持つ、獣型の魔物だ。


「緊張してる?」


 リーネが俺の横で、ふと聞いた。


「まあな。正直、今までのとは段違いだろ。」


「それでも来るって決めたのは、あんたよ。」


「……ああ。」


 それに——俺にはもう、退く理由がない。


 死んだはずの命。今さら安全圏なんて選ぶ気はない。


「連携スキル、発動条件は“意識の共有”よ。」


「つまり、意思疎通か。」


「そう。言葉だけじゃなく、動き、呼吸、間合いの取り方——全部ね。」


「面倒くせえな。」


「でも、あんたはたぶん、向いてると思う。」


 リーネが少し微笑んだ。その表情は、昨日よりも柔らかい。


「……なんでそう思う?」


「直感よ。」


「そりゃ便利なやつだ。」


「ふふっ、ね?」



 やがて、開けた場所に出る。


 空気が急に重くなった。腐臭と血の匂いが混じる、不快な空間。


「ここが……巣か。」


 低く唸る声が、木々の奥から響いた。


 現れたのは、一頭の巨大な狼——全身が赤黒く染まり、瞳は血のように赤い。


《ブラッドウルフ・討伐対象確認》

《危険度:Dランク中位》


「来るわ!」


 リーネが叫ぶと同時に、ブラッドウルフが唸り声と共に突進してきた。


 速い。


 だが——


「——左に!」


 リーネの声に即座に反応し、俺はステップで回避。

 逆に、リーネが俺の背後に入り、ウルフの脇腹へナイフを突き刺す!


「ギャゥゥッ!!」


 だが、浅い。毛皮の防御が厚い。


「ユウキ、上から叩け!」


「ああ!」


 俺は岩場を駆け上がり、高所から跳躍。


「うおおおおおッ!!」


 骨刀を振り下ろす。ブラッドウルフの背中に斬撃が走る。


 同時に、脳内に声が響く。


《連携スキル:ツインフェイント Lv1 発動!》

——使用条件:二人の攻撃が同時に一点へ集中した時。


「今だッ!」


 リーネが再び飛び出す。


 俺の斬撃と同時に、彼女の短剣が喉元へ刺さる!


 ブラッドウルフが呻き声を上げてのたうち回る。


 しかし——


「まだだ!」


 突如、ウルフが身体を震わせ、赤いオーラを纏い始めた。


《状態異常:怒り(バーサク)発動》

《攻撃力+50%、防御力-30%、理性喪失》


「ちっ、来るぞ!」


 ウルフが咆哮し、俺に一直線に突っ込んできた。


「くっ……!」


 受け止めきれない!


 その時だった。


「下がって!」


 リーネが俺の前に飛び出し、短剣でウルフの目を狙った。


 刹那、ウルフが顔を逸らし、軌道が逸れる。


 すかさず、俺が反撃に転じる。


「はあああああっ!!」


 骨刀を振り下ろす。

 喉元を狙った一撃が、ようやく深く突き刺さる。


 ブラッドウルフが咳き込むような呻き声を漏らし、よろめき——そして、崩れた。


《討伐完了》

《経験値+130》

《魔核(中級)×1 入手》

《ユニークドロップ:血染めの牙》


 ……勝った。


 呼吸が乱れ、汗が背中を伝う。


「……生きてるな、俺たち。」


「うん、生きてるわ。」


 二人して、倒れたウルフを見下ろす。


 まだ温もりの残る死体。だが、確かな達成感。


「連携スキル、ちゃんと発動したわね。」


「ああ、なんか……不思議と合ったな。」


「そういうのって、説明じゃないのよ。感覚なの。」


「俺、もしかして……才能あるか?」


「あるんじゃない?」


 二人で顔を見合わせ、笑った。



 帰り道、俺は少し前を歩くリーネの背中を見つめていた。


 誰かと並んで歩くのは、きっとこの世界で初めての感覚だ。


 この先、もっと強い敵が現れるだろう。

 だけど、今日のこの勝利が、確かな道標になる。


《連携スキルカテゴリ更新》

《次のスキル習得条件:共闘10回以上》


「——ユウキ。」


 振り返ったリーネが、不意に言った。


「また一緒に、行ってくれる?」


 俺は、迷わず頷いた。


「ああ、もちろん。」


 たった二人の、小さな冒険者パーティー。

 けれど、ここから始まる。


 俺の——“もう一つの人生”が。


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