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第4話ゴブリン狩りと仲間の影

ゴブリン狩りと仲間の影


 ゴブリン——それはこの世界における「人型魔物」の代名詞であり、初心者の登竜門とも言われる存在。


 小柄で緑色の肌。鈍い刃物を持ち、簡単な戦術も用いる。

 集団行動を好み、時には人間の村を襲うこともある。


 ギルドの掲示板に貼られていたその討伐依頼は、明らかにFランクの新人に向けたものではなかった。


 けれど——俺は挑むことにした。



 翌朝。俺は村の東口に立っていた。


 腰には骨刀、ポーチには回復薬。装備は相変わらず心もとないが、レベルはすでに4、加速治癒も習得済み。

 さらに、昨日の夜には《スキル選択》が可能になり、新たにひとつ取得していた。


《習得スキル:戦闘直感(Lv1)》

戦闘中に相手の攻撃意図を感知する確率が上がる、受動スキル。


「じゃあ……行くか。」


 地図を片手に森を進む。空気はひんやりしており、木漏れ日が土の上にまだら模様を作っていた。


 1時間ほど歩いた頃——


「……いた。」


 茂みの先、小さな開けた場所に、3体のゴブリンがいた。


 一体は見張り。二体は何かを焼いている。小さな焚き火のそばには、動物の死骸。


 俺は草陰に身を潜め、戦況を見極める。


 (まずは、見張りからだ。)


 足音を殺し、接近。


 戦闘直感がうずいた瞬間、見張りのゴブリンが振り向いた。だが、それは一瞬遅かった。


「——ッ!」


 骨刀がゴブリンの首筋に吸い込まれる。


 ギャッという悲鳴をあげる暇もなく、一体、撃破。


《経験値+20》

《レベルアップ! 現在のレベル:5》


 だが、気づかれた。


 残りの二体が咆哮を上げながら突進してくる。


「来い!」


 俺は横に飛び、一本目の骨刀で一体の攻撃を受け流す。

 もう一体が脇から突き出してきた短剣を、逆手に持ったナイフで防ぐ。


 反撃。踏み込みから、斜め下への斬撃!


 ゴブリンの左腕が飛ぶ。


 そのまま倒れ込んだゴブリンの胸に刀を突き刺す。


 だが——


「ギャァアアア!!」


 最後の一体が、俺の脇腹にナイフを突き立てた。


「ぐっ……!」


 熱い痛み。血が噴き出す。

 だが俺は、即座に《加速治癒》の効果で立ち直った。


「死ねええッ!!」


 叫びと共に、骨刀を振り下ろす。


 頭蓋が割れ、三体目のゴブリンも絶命。


《経験値+20》《魔核(下級)×3 入手》


 息をつく。体は傷だらけ、だが、確かに俺は……生き残った。



 ——その時だった。


「……よくやったわね。」


 静かな女の声が、背後から響いた。


 反射的に振り返る。


 そこには、フードを深く被った少女が立っていた。

 年は俺と同じくらい、もしくは少し上。灰色のローブに革の靴、腰には二本の短剣。


「誰……だ?」


「私はリーネ。あんたが一人でゴブリンを倒したって聞いて、見に来たのよ。」


 彼女はすっとフードを下ろした。


 光の中に現れた顔は、整っていて、どこか冷たい印象を受ける。


「人間?」


「もちろん。」


 彼女は軽く笑うと、俺の体を一瞥した。


「傷、深いわね。これ、使いなさい。」


 差し出されたのは、見慣れない瓶。中には青白く光る液体。


「回復薬?」


「上位のよ。持ってても仕方ないし、貸しにしておくわ。」


 俺はためらいながらも受け取り、一口飲んだ。


 ……瞬間、体中の痛みがスッと消えた。


 《状態回復・中》

 《加速治癒の効果が一時的に2倍になりました》


「……すごいな、これ。」


「でしょ?」


 リーネは軽く笑うと、俺のすぐそばに座り込んだ。


「ねぇ、ユウキって言うのよね。私、知ってるわよ。」


「は?」


「昨日ギルドで話題になってたわ。『新人が牙ネズミを一人で倒した』って。」


 そうか、噂になってたのか。

 だがそれよりも——


「……なんで俺の名前を?」


「見たのよ。あんたが登録してるとこ。」


「……盗み見かよ。」


「観察眼、ってことで許して?」


 リーネはくすっと笑う。


 妙に落ち着いた態度。まるで、ずっと前から知り合いだったかのようだ。


「……で、何の用だ?」


「うん。あんたに興味があって。もしよければ——一緒に組まない?」


「組む?」


「そう。パーティー。ソロじゃ限界が来るわ。」


 確かに……それはわかってた。


 この先、もっと強い敵が出てくる。

 一人で生き残れる保証は、ない。


「……考えとく。」


「ふふ、まあ、今日のところはそれでいいわ。」



 リーネはその後、姿を消した。


 だが、彼女と出会ったことで、俺の中に“別の視点”が生まれた。


 誰かと共に歩むという選択肢——それは、俺にとって初めての考えだった。


 村へ戻る途中、再び脳内に声が響く。


《連携スキル・カテゴリーが解放されました》

《条件:2名以上のパーティー編成時に有効》


「連携スキル……?」


 つまり、誰かと一緒に戦えば、新たな力が得られるということか。


 この世界は——想像以上に、奥が深い。


 ただの剣と魔法の世界じゃない。

 人との関係、感情、選択——すべてが、力に繋がる。


「面白くなってきたな。」


 俺は笑った。


 レベル5。スキル2つ。

 そして……初めての仲間候補。


 次の戦いは、きっと今までとは違う。


 それでも、俺は前に進む。


 ——この命は、死んだはずの俺が、もう一度掴んだ命だ。


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