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「……まぁ、見て! どうしてあのメンバーの中に男爵家の人間が混じっているのかしら?」

「あら、本当……身の程知らずもここまできたら滑稽よね」


 ――そんなことは自分が一番分かってる。


 食堂に来ると案の定、周りからヒソヒソと陰口を言われているのがベルティアの耳に届いた。ベルティアの耳に届くということは他の人にも聞こえているだろうけど、全員なにか訓練でも受けているのかというほど気にしていなかった。


「……ジェイドは俺の隣。絶対に離れないで」

「えっ、あ、ああ。分かった」


  《好感度:67%》


 ジェイドは昨日せっかく64%まで落ちたのに、今の言葉で3%も上がってしまった。ベルティアはただ、できるだけ平穏に過ごせる人の隣を選んだだけだったのに、そんな些細なことだけで好感度が上がるとは思わなかったのだ。

 ……ということは、好感度が表示されていない人を選んでいれば、他の攻略対象者の好感度が上がることはないのではないか?


「パーシヴァル殿下、お隣よろしいでしょうか?」

「ああ、もちろん。いつも図書室では向かいの席だから新鮮だな」

「ですね」


 パーシヴァルが相手だと、好感度を気にしなくてもいいので楽だなということに気がついた。ただ必然的にベルティアがジェイドとパーシヴァルに挟まれる席順になり、向かいの席はムスッとした顔のノアと気まずそうなライナスに挟まれている笑顔のセナ。結果的にはこの席順でよかったと思うけれど、なんせ目の前にいるセナのキラキラオーラでベルティアの目は潰れそうだった。


 ただ、ベルティアはこれをチャンスだと思うことにした。なんせ今、オリヴィア以外の攻略対象者がこの場に集まっているのだ。ベルティアがここでセナに対して嫌がらせや嫌味を言えば『悪役令息』だと全員から認知してもらえることを期待した。


「ノア殿下は鍛えていたりするんですか? 二の腕とか僕の二倍はありますね」

「ああ、まぁ……それなりにだ」

「へー! 僕も鍛えたら殿下のようになれますかね?」

「君は……どうだろうな。元が華奢だからあまり筋肉はつかないかもしれないが、やってみるといい」

「ノア殿下はどういう方が好みですか? 自分と同じように強そうな人? それとも可愛い系とか綺麗系とか」


 セナの様子を見てベルティアは拍子抜けした。やはり彼の狙いはノアだったようで、質問攻めにしたり無許可で体をベタベタと触っている。やはりベルティアをランチに誘ったのはノアの好みを聞き出そうと思ったのだろう。

 ノアはセナの態度にうんざりした顔をしていたけれどきちんと対応しているのは、彼が『聖なる瞳』で国にとって大事な存在だからだ。この学園の中で一番偉いといっても過言ではないノアがセナの行動に言及できないのに、ただの男爵令息が口を挟んだらどうなるだろう?

 悪役令息としてのスタートラインに立っているベルティアは、一歩踏み出してみることにした。


「セナ様、昨日もマナーについての助言をさせていただきましたが……許可なく王族の体に触れるのはいかがなものかと思いますよ。伯爵家ではそういったマナーを教えてくださる方はいらっしゃらないのでしょうか? マナー講師などをお雇いになったほうが今後は恥をかかなくて済みますよ」


 ベルティアの発言にその場が一斉に静まり返る。ライナスは『こいつマジか』という何とも言えない顔をしていて、隣にいるジェイドは突然のことに驚いたのかガシャンっと食器同士がぶつかる派手な音を立てた。


 《ライナス・ムーングレイ 好感度:47%》

 《ジェラルド・ベドガー 好感度:64%》


 ライナスとジェラルドがそれぞれ3%ずつ減少したのは望ましい結果だ。だが問題は言わずもがな、ノアとセナだった。


 《ノア・ムーングレイ 好感度:93%》

 《セナ・フェルローネ 好感度:93%》


 冷静に考えてみるとノアを助けたことになる発言だったので、彼の好感度が上がるのは仕方のないことだと分かる。ただ、嫌味を言われた側であるセナの好感度まで3%も上がるのは想定外だ。普通は『嫌味を言われた! ひどい!』となる場面である。

 ただの誤作動なのか、それともセナに好感度の表示があることさえおかしいことなので、この数値はきちんと機能していない可能性もあるなと考えた。


「では、ベルティア先輩が教えてくださいますか?」

「えっ」

「先輩の言うように、僕はまだ平民も同然です。ベルティア先輩なら正直にご指導していただけそうだなと思うんですが……いけませんか?」

「いや、お、俺には無理です。そういうつもりで言ったわけではありませんので!」

「でも、お披露目パーティーがあるそうなんです。そこで失敗したらと思うと……」


 必殺・ウルウル攻撃、とでもいうのだろうか。攻略対象者にその顔を向ければ一発でセナのお願いを聞いてくれるだろうが、残念ながらベルティアには通用しない。セナへの返答に困っていると、ノアがため息をつきながら口を挟んだ。


「王宮にいる講師をつけよう。お披露目パーティーの主催は王宮だから、それくらいはしてくれるはずだ」

「でも、僕はベルティア先輩に……」

「ベルは人に何かを教えるのがあまり得意ではないんだ。見逃してやってくれないか」


 さりげなく、口が悪いこともフォローされた気がする。ノアからそこまで言われたらセナはもう何も言えなくなり、諦めたような顔をしていた。

 むしろ講師を引き受けてセナがわざと恥をかくように指導したらいい話だが、先ほどベルティアが嫌味を言っても好感度が上がったので、彼にはあまり意味がないのかもしれない。全員の好感度を0%にするのを目指すより、卒業パーティーで断罪されるルートを選んで程よく好感度を下げたほうが効率がいいように感じる。そう考えると、ここで講師を引き受けた時の労力が伴っていないので、ノアが助け舟を出してくれたことには感謝した。


「申し訳ありません。知識が少しあるだけで、全く知らない方への講師は務まらないかと」

「……そうですか、残念です」


 《好感度:90%》


 セナの好感度が下がって一安心だ。昨日の今日でまだ全てを把握したわけではないけれど、あと半年で国外追放になるような大きな何かを実行しないといけないのは骨が折れる。作戦をきちんと立てる前にこんなカオス状態になってしまったので、早いところ状況を整理する必要がありそうだ。


「申し訳ないのですが、俺はこれで失礼します。次はお誘いしなくて結構ですので」


 ベルティアがさっさと席を外すとノアがついてくるかと思ったけれど、ベルティアのセナに対する様子がおかしかったことに気づいていたからか、彼は席を立たずベルティアのことを放っておいてくれた。


「……何も知らないままのほうがよかった……」


 なんだか、とても呼吸がしづらい。


 図書室に行こうと思っていたがあまり時間が残らなかったので、ベルティアは教室に戻って寝たふりをして過ごす羽目になった。







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【第1章 好感度変化】


✧ノア・ムーングレイ✧

好感度:95%→93%→91%→90%→93%


✧ジェイド・ベドガー✧

好感度:70%→64%→67%→64%


✧セナ・フェルローネ✧

好感度:96%→90%→93%→90%


✧ライナス・ムーングレイ✧

好感度:50%→47%




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