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「……セナ様は、どちらかと言えば“受け”だと思うんですけど、なぜ俺に対しては“攻め”みたいな態度なんです?」

「え? だって前世の俺はベルティア先輩を抱きたいと思っていたからですよ」

「だ……っ!?」


 セナがペロリと唇を舐め、くいっとベルティアの顎を指先で持ち上げる。ベルティアより少しばかり身長は低い彼だけれど、意外とそういう行動が様になっていてドキッとした。


「ふふ、可愛い。やっぱり僕に乗り換えませんか?」

「やっ、セナさま、それは……!」

「……セナ殿。いくらあなたでも、許容範囲を超えていますよ」

「……ちぇ。屈強な護衛ですね」

「お、王太子殿下を護衛だなんて!」

「あっ、怒ってくださいます? やっぱり僕にはマナー講師が必要だと思いませんか?」

「セナ殿!」


 前世のセナは攻め気質だったようだが、ベルティアに怒ってほしいのだとニコニコしている彼を見るとMの気質もあるのかもしれない。セナはわざとノアを煽るようにベルティアの腕にしがみついていて、ノアはただただ何か言いたげな視線だけを向けてムッと唇を尖らせていた。


「今考えれば、もっと早くフェロモンレイプしてもよかったかなって」

「はい!?」

「オメガのフェロモンで誘えばよかったなって思ったんですけどぉ……ムーン・ナイトの時にはもうオメガに転換していたみたいなので、遅かったです」

「……セナ殿はやはりベルティアにそういう気持ちが?」

「はい。ベルティア先輩って可愛いですもん。パーシヴァル殿下だってそうですよね?」

「僕はベルティアを結婚相手としてアルべハーフェンに連れて帰るつもりでしたから」

「……君は本当に、人を惑わせる天才だな」

「お、俺のせいじゃないですよっ」


 ハーレム展開に陥るのは主人公であるセナの役目なのに、ノアとの隠しルートのエンディングが確定していてもこの状況までは終わらないらしい。パーシヴァルやセナからの視線が熱いけれど、ノアからの視線はチクチクと刺さってきたのでふいっと顔を逸らした。


「と、いうか! アルべハーフェンとの共同研究ってなんの話ですか!?」

「そのままの話だよ。さっきも話した通り僕はレイク家の魔力にも興味があったけど、グラネージュの深刻な魔力不足を解消するために共同研究の話は元々あったんだ。それに君が加わっただけさ」

「グラネージュでは年々気候問題により、食糧困難に陥っている。このままいけば自然に任せて作物が育つのは難しくなるだろう。アルべハーフェンでは魔力を使って作物を育てているというので、グラネージュでも応用できたらと思ってな」

「あとは軍事的な意味もあって、魔術師が軍に加わったり結果を張れるようになると戦力になるからね。そういう人材を育てていく必要もある」

「なるほど……では、アルべハーフェンの妖精の祝福がグラネージュでも通用するかどうか、グラネージュの人間が途中からでも魔力を持つことができるのか、そういった部分も検証していくということですか?」

「話が早いね。まさしくそういう部分をこれから研究していけたらいいなと思ってるんだ」


 アルべハーフェンでは魔力を持たないものが永住することになると妖精から祝福され、魔力を授与されるのだとパーシヴァルから話を聞いたことがある。グラネージュの国民はほとんど魔力を持たない者が多いので、今後は妖精の力を応用して魔力を与えるような研究を行いたいのだとノアとパーシヴァルは話した。


 そのためにまずはベルティアやジェイドの魔力量を検査したり、どういう能力があるのかを研究した上でグラネージュでも応用できるのかどうか共同研究していくという話らしい。


「これから忙しくなるから、王宮の近くにベルティアが住む家を用意してある」

「……え?」

「もう少し整えてから言うつもりだったんだが、お前は明日もう発つだろう? 最近バタバタしていたし言う暇がなくてな。準備ができたら迎えに行こうと思っていたんだ」

「……なんかもう、何があっても驚きません」


 ベルティアがセナと出会った日に想像していた卒業パーティーとは180度変わってしまった。本来であれば今頃セナやノアから冷たい視線を向けられ、国外追放を言い渡されていたはずなのに。


 ゲーム本編では関わりが見えなかったパーシヴァルともこんなに親しくなり、今度から二つの国の架け橋として一緒に魔力の共同研究をしていくことになるなんて思ってもいなかった。


 人生思うようにいかないものだなとこの半年で何度も思ったことだけれど、まさかこんなに幸せな結末が待っているだなんて。


「ベルティア、卒業おめでとう」

「何事もなく学園生活を終えられてよかったな」

「ジェイド! それにライナス殿下も、ありがとうございます」

「よければ……これからもよろしくな」


 ジェイドがグラス片手に近づいてきて、ベルティアの肩をぽんっと叩く。呪いの話を聞いてからというもののジェイドを避けていたので、なんだか久しぶりにちゃんと顔を見た気がするなとベルティアは彼を見上げた。


「ベルティアがレイク家の呪いを解いたって聞いて……うちの家のことも聞いたんだろうなと思うと、話しかけづらかったんだ」

「……なんで俺が考えてたこと分かったの?」

「え? あー……幼馴染だから?」

「ふふっ。あーあ、やっぱり憎めないなぁ」

「は……」


 ベルティアがぐしゃぐしゃとジェイドの頭を掻き回すと、彼はぽかんと口を開けて目を丸くする。そんな顔が幼い頃と変わっていなくて安心したのと同時に、やはりジェイドは昔からベルティアの一番近くにいた大事な幼馴染だなと実感した。


「俺ね、お前になら殺されてもよかったよ」

「ベルティア……」

「でもやっぱり、話せるほうが嬉しい。だから、これからも俺のこと好きでいて?」

「……ノア殿下から略奪していいってこと?」


 そう言いながらジェイドがぐいっと腰を引き、こつんと額を合わせた。唇にジェイドの息がかかるくらい顔が近くて、ベルティアの心臓は思わず暴れ狂う。突然の出来事に動けないでいると、反対側から引き剥がされ「ベルは俺のだ、ジェイド」と低い声が降ってきた。


 不機嫌そうな声も、ベルティアを抱きしめる温かい腕も、今ではその全てが愛おしくてベルティアのものなのだ。そう思うときゅっと胸が締め付けられてチラリと彼を見やると、満月ような瞳が見下ろしていた。


「俺には、後にも先にも、あなたしかいませんよ」


 自然と出てきた言葉だったが、本心だ。ベルティアが呟いた言葉に今度はノアが驚いた顔して、その後すぐに白い肌が真っ赤に染まる。「今すぐお前を連れて帰りたい……」と嘆くノアを見て、ベルティアは声を上げて笑った。




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