神森は四森に言う。
「四森の人生論などとだいそれたことを言っているが、お前ごときに何が語れるというのだ。だいたいのことは既に語り尽くされている」
四森は命乞いをするような気持ちで、震える声を出し絞った。「た、たとえば、どんなことが語られましたか?」
「20年も前のことだ。山本弘の『アイの物語』(※編集注 角川書店発行)だ」
「あ、愛の物語?」
「いま、人間がAIで右往左往しているな?」
「はい」
「AIについての教訓が語られている」
「それは、どんなことで?」
「例えばだ、AIにいわせれば、人間はみんな、一人残らず頭がおかしいんだそうだ。程度の問題でな」
「頭がおかしい?」
「あくまでAIは合理主義だからな。人間の行動はあまりにも非合理的だ。たとえば、」と言いかけて神森は二の句を告げるのを辞めた。
「これ以上言ったら著作権侵害になりそうだからやめておこう」
「それは誰に対しての配慮なんですか?」四森はただただ困惑するばかりであった。
【つづく】