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第4話 泥霧の魔術師 少女視点

 唐突だが……俺は冒険者をやっている。

巷では、泥霧でいうの魔術師って呼ばれたりして、それなりに有名な高ランク冒険者だったりするんだけど……ある日、冒険者ギルドに顔を出したら、昔世話になったばあさんからギルドを通して呼び出しを受け……。


「悪い、相手が相手だから……直ぐに行ってくれ、くれぐれも依頼主に失礼のないようにしてくれよ?じゃないと俺の胃が……持たないからな?」


 ギルド長のおっさんから言われ、こちらも過去に恩がある以上……断ることができずに行く事になった。

いやいやながらも、首都の中でもひときわ大きい屋敷に向かうと、玄関の前に立ってドアノッカーを叩く。


「ばあさんいるかぁ?このAランク冒険者、【泥霧の魔術師】ダート様が来てやったぞぉ!」


 声を上げたけれど、返事が返ってこない。

こりゃあもしかして、ついにくたばったんじゃねぇだろうな、人の事を呼んでおいて、中に入ったら死んでるとか……そんな寝覚めの悪いのは勘弁してくれよ。


「あらぁ、やっと来てくれたのね?玄関の鍵は開いてるから、早く来てちょうだい?」

「おぅ、すぐに行くわ~!」


 すると、頭上から間延びした声が聞こえて来る。

言われた通りにドアノブに触れてひねると、確かに鍵が開いている……なんつうか、俺が来るって分かってるからって、さすがに不用心じゃねぇか?って思うけど、それよりもほんと、良い屋敷してんなぁ。


 久しぶりに来たから余計にそう感じるだけかもしれねヶど、ここまで広かったら使用人がいてもおかしくねぇのに、ある時からずっと一人暮らしだ。

これに関しては他人である俺が、あれこれ言うもんじゃねぇっていうのは分かってはいるんだけど、こうやって訪れる度に薬品の匂いがきつくて嫌になる。


 そりゃあ、この国で賢者と呼ばれる程に有名で、様々な研究を行っている以上、しょうがないんだろうけどこの匂いには未だに慣れない。

せめて窓を開けて喚起してくれるだけでも、だいぶ改善される気はすんだけど……そんな風に感じてながら歩いているうちに、ばあさんのいる部屋の前に着く。

片手で鼻をつまみながらドアをノックし、返事が返って来たのを確認してから勢いよく開けて中に入る。


「おぅっ!言われた通りに来てやったぜ?後、換気しろ換気!」

「いらっしゃい、……そんなにやな臭いがするかしら?」

「くさいってレベルじゃねぇよ!眼が痛くなるわっ!」

「それはごめんなさいねぇ、研究に集中していたら気付いて無かったわ……それよりも、ダーちゃんあなた、女の子なんだからもう少し口調や行動に気を付けて?いつも言ってるでしょ?」

「んなの今更だろ、なんど言われても直らねぇんだから諦めろ……で?急に呼び出して何のようだよ、俺は忙しいんだから手短に頼むぜ?」


 ばあさんの言いたい事は分かるけど、こんな性格をしている以上は女性らしさとかを期待されても困る。

それに冒険者をしている手前、丁寧な言葉遣いをしていたら相手に舐められるだけで……良いことなんて一つも無い、だから育ちが悪く見えるかもしれねぇけど口が悪い位がちょうどいい。


「そう?けど私は何回でも言うわよ?……それにしても相変わらず忙しそうね、ダーちゃんとお茶でも飲みながら、ゆっくりとお話ししたかったんだけどねぇ」

「……もうちゃん付けされるような歳じゃねぇよ」

「何を言ってるの?この前、15歳になったばかりじゃない……私からしたらまだ子供よ」

「勝手に言ってろよ、めんどせぇ」


 なんつうか……こちらのペースを崩して来るばあさんのそういう所が、個人的に凄い苦手だ。

かといって、ここで語気を荒げて反論してしまうのは、子供だって認めるような気がして、高ぶった感情を抑える為にわなわなと震えていると、こちらの気持ちを察してくれたのか小さく笑う。


「なら用件を伝えるわね?……手紙を何回出しても、一向に返事が返さないバカ息子の事が気になるのよね」


 ばあさんにそこまで言われるなんて珍しい。

俺が知っている限りでも、各地に魔術や治癒術を教わった弟子がいるのは知っているけれど、それでもここまで言われる奴はいなかったはずだ。

いったい何をしたら、ここまで言われるのか……興味があるけれど、聞いたら面倒くさそうで触れたくない。


「でね?私も良い歳じゃない?あんまり遠くまで行くと疲れちゃうから、ここまで連れて来て欲しいの、期限は特に設けないけどお願いね?」

「……お願いねって、俺が依頼を断るとか思わねぇのか?」

「えぇ?だってあなた、私に恩があるから断れないでしょ?」


 本当に性格が悪い、俺がそう言われたら断れないって分かって言ってきやがる。


「詳しい内容は、この封筒の中に入ってるからお願いね」


 苦虫を嚙み潰したような顔をして、いやいやながらも封筒を受け取ると、中身を確認せずに何も言わずに部屋を出る。

逃げたわけじゃないけど……ここにいるとどんどんばあさんのペースに飲まれて……余計に疲れそうだ。


「ほんと、せっかちさんねぇ……お茶くらい飲んでいけばいいのに、けどそうねぇ、これが二人にとって良い出会いになればいいわねぇ」


 そんな事を言われているとは知らずに、屋敷を出た後に封筒の中を確認する。

正直、ばあさんには悪いけど……こんなめんどくさい依頼はさっさと終わらせてしまおう。


──そんなわけで今に至るわけだが、バカ息子とやらは辺境の村に住んでいるらしい。

【治癒術師】のレースを連れて来て欲しいという依頼の為に、態々一ヵ月以上かけて村に行き。

現地の奴等から情報を聞いたら、今度は村外れの山に住んでると言われ……向かったら、毒を持つモンスターに襲われるわ、迷って遭難した挙句、食料が尽きて飲まず食わずで三日もさまよう事になり、意識がもうろうとしながらも誰かに誰かに助けを求める事になるなんて、思ってもいなかった。

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