あんまり待たせてしまうのは悪いかなって思いつつ、身体に良い食材を選んでいると
「あっ……そうだ!俺は肉が好きだから、出来れば肉を入れてくれよな!無かったら我慢するけど!」
という元気な声が聞こえて来た。
他にも聞こえづらくて何て言っているのか分からないけれど、先程倒れたとは思えない元気さに、思わず笑みがこぼれる。
「……お肉かぁ」
数日間、まともに食事を取っていなかったろうし。
いきなり肉料理を出してしまうよりも、おかゆを作った方がいい気がする。
けど……本人が食べたいと言っているし、それなら……消化を助ける酵素を持つ薬草と一緒にするのはどうだろうか。
そう思いながら……ふと、こうして誰かの為に作っている事に喜びを感じる自分がいる事に気付く。
この辺境の村に来てから……友人と呼べるは一人くらいはいるけれど、ご飯を食べる時はずっと一人だったからかもしれない。
「分かりました、それなら卵粥にお肉と薬草を入れて、食べやすくしようと思うんですけど、それでいいですか?」
「……はぁ!?卵粥だなんて食べ応えがないもんはやだよ!そんなもんより肉があるなら肉だ!肉だけをくれ!」
さっきのちょっとした喜びと、気遣いはいったい……とはいえ、彼女のリクエストに応えて食べ応えのあるものってなると、普通の食事になってしまうけど本当に大丈夫なのだろうか。
作る以上は、美味しく食べて欲しいけど、久しぶりに食事をするってなると、身体が受け入れてくれるのか心配になる。
「……分かりました」
本人が食べたいと言っているのだから、お肉を焼いて出してあげた方がいいだろう。
でも、そうなると単純な男料理みたいになってしまうけど、それでいいのだろうか。
とりあえずお肉をぶつ切りにしながら、火を通したフライパンの上に乗せて焼き上げて行く。
……とりあえず味付けは、早く出す為に塩コショウを適当にまぶして焼く方がいいのか。
けど……それだと栄養が偏って身体に悪いから、野菜も刻んで一緒に焼いておこう。
後は、この前村に行った時に貰ったパンを合わせればバランスが良い筈だ。
「まだかぁ?早くしてくれよぉ!」
そこまで時間が掛かってない筈なのに、せかすような声が聞こえて来る。
しかし、彼女はいつから食事をとっていなかったのだろうか……もしあの時、森で遭遇する事が無かったら、栄養失調で意識を失い誰にも気付かれずに亡くなっていたかもしれない。
「とりあえず、こんな感じで良いかな」
あそこで偶然遭遇する事が出来て、彼女を助ける事が出来て本当に良かった。
そう思いながら、出来上がった料理を持ってキッチンから出ると、テーブルの上に並べて行く。
「おっ!美味そうじゃねぇか!」
……美味しく食べてくれるだろうかと一瞬不安になったけれど、豪快に噛り付くように食べ始める彼女を見て、杞憂だったようでほっと胸を撫でおろす。
「急いで食べなくても大丈夫ですよ?」
手の込んでいない雑な料理になってしまったけれど、美味しそうに食べてい姿を見て、彼女の好みに合って良かった。
これでもし、味付けや好みが合わなかったら少しばかり、申し訳ない気持ちになっていた気がする。
それにしてもどうして山に入って遭難する事になったのか、気になる事が沢山あるけれど、とりあえず聞くのは食べ終わってからでいいだろう。
「いやぁ……ごちそうさま!おめぇ飯作るのうめぇな!」
暫くして、空いたお皿を片していると食べ終わったのか、大きな声が聞こえて来る。
「どういたしまして、とりあえず食後の水でも飲んで休んでいてください、その間に全部片してしまいますので」
「おぅ、何から何まですまねぇな」
「気にしないでください……けど、久しぶりの食事だと思うので、もし体調が悪くなったら言ってくださいね?」
「あぁ、うん……なんだ?色々と気を使わせちまってわりぃな」
要望通りに作って出したのはいいけれど、やっぱりできる事なら消化に良い物を出してあげたかった。
一応、野菜の中に消化を助ける物も混ぜてはおいたから、問題無いとは思うけど、万が一って事もありえる。
「あ……そういやぁ自己紹介すんの忘れてたな、俺は【魔導国家メセリー】の首都【ミラーナ】冒険者支部所属のAランク冒険者【泥霧の魔術師】ダートってんだ」
「……冒険者?」
「おぅ、でさ……森に入った理由なんだけど、依頼を受けて辺境の村に住んでいる治癒術師の【レース】って奴に会いに来たんだけどよ、おまえで合ってるよな?」
依頼を受けて会いに来た?その言葉の意味が一瞬理解できなくて、食器を片付ける手が止まる。
誰がそんな依頼を出したのか疑問に思ったけど、ぼくがここにいるのを知っているのは師匠くらいしかいない。
……そういえばここ数年、一度帰って来て顔だけでも見せろという手紙が毎年のように来ていたけど、無視をしていたからそれが理由だろうか。
「……確かにぼくがレースだけど、誰からの依頼か聞いてもいいですか?」
聞かなくてももう誰か分かってはいるけど、母さん……いや、師匠から依頼を受けて冒険者が来てしまったからには、これ以上無視をするわけにはいかない。
「あ?誰って……名前を出せばわかるだろ?【カルディア】だよ」
やっぱりか……家を出て数年、師匠の元に顔を出さなかっただけなのに、冒険者を寄越すなんて心配性が過ぎる。
事情はどうであれ、一人立ちをしたのだからほっといてくれればいいのにと思いつつ、ダートと名乗った彼女の顔を見つめながら色々と考えてしまう。
この人は、何故ぼくが辺境の村に来ることになったのか、その事情を知っているのだろうか。
師匠の事だから話してはいない筈、けど……もし知っていたらと思うと、不安で心が押しつぶされそうになる。
でも、初対面の人にそんな姿を見せる訳にはいかないと、必死に隠すのだった。