案内して貰って思うけれど、窓が一つしか無くて殺風景で寂しい部屋だ。
「……とりあえず買った物を全部出すか」
空間収納の中から必要な家具を取り出して配置していく。
とりあえず……ベッドは窓際において、朝になったら陽の光が入るようにしよう。
「こうすれば……朝になったら直ぐに起きれるか?んん、やっぱダメだな」
暗示の魔術が掛かった状態だとどうしても、こういう細かい作業が雑になる。
「レースは暫く来ねぇだろうし、解いちまうか」
指先に魔術の光を灯らせると、額に触れて暗示の魔術を解いていく。
少しずつ今の自分を形作っている人格が薄れて、中から本来の自分が戻って来る感覚に、不快感を覚えるけれど長く使っているうちに少しだけ慣れた。
「……これでいいかな」
そうして元の私に戻ると改めて室内を見渡してみる。
ベッドが一つと、後は必要な雑貨類だけでは殺風景に感じてしまう。
……女の子の部屋としてみたら、個人的にはあんまり良い印象を感じないから、クローゼットと小物入れを置いてみる。
「んー、後はどうしようかな」
クローゼットの中には、冒険者として活動する時に着ている露出の多い服と魔術師のローブ、後は村でおばさまから頂いた服をしまっていく。
そして、小物入れの上に元の世界から唯一持ってくることが出来た、家族の写し絵を入れた小さな額縁を置いて、寂しくなったらいつでも見れるようにした。
「……もう会えないって分かってはいても、やっぱり会いたいなぁ」
写し絵を愛おし気に触れ、当時の生活を思い出す。
この世界で例えると空間魔術と呪術を扱う魔術の名家に生まれて、何不自由ない生活をさせて貰っていたけど、幼い私は何処か満たされなかった。
「……懐かしい」
魔術を教わったり、安全なところでお父様の仕事を見させて貰ったりしていたけど……変わらない日々に飽きを感じていた。
あの頃と比べて、この世界に来てから色んな事があったけれど、今の方が自分の力で生きていると感じるし、新しい経験ばかりで楽しい事が多い。
けど……それでも、写し絵越しに見る両親の顔を見ると、会いたいと思ってしまうのはしょうがないんだと思う。
「ダメね、気持ちを切り替えないと」
ゆっくりと深呼吸を繰り返すと、小物入れに生活に必要な物を並べて行く。
そうしているうちに、ふと思う事があって作業をする手が止まる。
これからレースの助手として仕事をするという事は、お化粧とかもある程度はした方がいいのだろうか。
一応、お母様からは将来、必要になる時が来るからと、教えて貰ってはいるけれど、冒険者になってからは一度もした事が無い。
「とりあえず明日からまたやってみようかな」
空間収納の中から手鏡を取り出して、自分の顔を眺めながらそう一人で呟く。
とりあえず目立つ傷とかはないし、仮に怪我をしても治癒術師に治して貰えるから傷痕も残らずに綺麗なままでいられる。
「良かった……これならお化粧をしても大丈夫そう」
けど……お母様が以前、若い内に濃いお化粧をし過ぎると肌が荒れてしまうから、ある程度の年齢になるまでは軽いのにした方がいいって言ってた気がする。
空間収納の中から手鏡を取り出して、自分の顔を眺めながらそう一人で呟く。
とりあえず目立つ傷とかはないし、仮に怪我をしても治癒術師に治して貰えるから傷痕も残らずに綺麗なままでいられる。
「良かった……これならお化粧をしても大丈夫そう」
けど……お母様が以前、若い内に濃いお化粧をし過ぎると肌が荒れてしまうから、ある程度の年齢になるまでは軽いのにした方がいいって言ってた気がする。
「……んー、後はテーブルが欲しいからまた今度、村に行った時にコルクさんのところで買おうかな」
とりあえず部屋の中での作業に一段落がつくと、扉の隙間から良い匂いが入って来る。
「良い匂い、お腹が空いて来るかも」
香草の良い香りと、お肉独特の匂いが合わさって……嗅いでいるだけで、お腹が鳴りそうになる。
「……もうお夕飯の時間なのかな?」
もしそうだったら、暗示の魔術を掛け直しておいたほうが良いかもしれない。
指先に魔力の光を灯すと、少しずつ今の私が薄れて消えて行き、違う自分になっていく。
「……さぁて、レースが呼びく来る前に俺から行ってやるか」
部屋を出ると、足早にリビングへと向かう。
近付く程に強くなる良い匂いに、思わずよだれが出そうになる……これはもしかしなくても、期待できるかもしれない
「やべぇ、ほんとに腹が減って来た」
期待に胸を膨らませながら、リビングへの扉を勢いよく開け……
「良い匂いがしてるから、呼ばれる前に来てやったぜ?」
すると、そんな俺の姿を見たレースが、どこか面白そうなものを見たかのような表情を浮かべ。
「あぁ……ちょうど今から、ダートを呼びに行こうって思ってたから、丁度良かった」
と言葉にすると、今度はぎこちない笑顔を浮かべながら迎えいれてくれる。
テーブルの上には手に取りやすい大きさに切り分けられたパンと、美味しそうな匂いがする肉と野菜が二人分並べられている。
「……おぉ、これはめっちゃ美味そうだな」
これなら今日の夕飯も、満足な食事になりそうだと思いながら椅子に座り食器を手に取ると、肉から口に運ぶ。
そして、あっと言う間になくなって行く料理を見ながらふと、胃袋を掴んでいるのは、レースじゃなくて俺かもしれない。