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第2話 栄花

「……誰か来たみたいだぜ?」

「えぇ……」


 警戒するようにドアを見つめるダートを見て、急患ではなく……彼女が警戒するような人がそこにいるのかもしれない。


「出ねぇのか?もしかしたら急患かもよ?」

「……そう、ですね」

「大丈夫だって、もしヤバい奴だったらレースの事は、俺が守るからさ」


 彼女の言葉に頷いて、診療所と外へと繋がる扉を開けると、そこには眼鏡をかけた女性と、大剣を背に担いだ男性がそこにいた。


「えっと……」


 一瞬、先程の人が武装を整えて再び尋ねに来たのかと思ったけれど……そうじゃない。

冒険者崩れの護衛達とは違って、目の前にいる彼らから漂う雰囲気でダートと同じ戦いのプロであることがわかる。


「あの、どなたですか?」

「あ、はい!あぁ……うん、まずは休業ってあれ?休診か、とにかくいきなり来てごめん!ここに治癒術師の先生が住んでるって、村の人から聞いたんすけど……あってますか!?」


 そんな彼等がどんな用で来たのかと警戒していると、急に目の前で大声を出されて、余りのうるささに咄嗟に耳を塞ぐ。


「実はで……ゴボォ」


 こちらが迷惑している事を気にせずに、話を続けようとしていた声が唐突に苦し気なものへと変わる。

いったいどうしたのだろうかと思い顔を見ると、口元が水で覆われて苦しそうにもがいているのが見えた。


「……え?」


 どうしてこんな恐ろしい事になっているのかと周囲を見渡すと、眼鏡をかけた女性が何処からか弓を取り出すと、魔力の光を灯しながら彼へと向けて構えている。


「ケイ、いきなり大声で出すのは、人様の迷惑になると何度言えば分かるの?」

「──!?──!!」

「罰として、あなたは暫く黙っていなさい」


 黙っているどころか、むしろ……顔色が悪くなってる辺り、今にも死んでしまうのではないだろうか。

そんな事を思いながらどうしようかと、思考を巡らせていると


「ほんとだよ!俺達の耳がおかしくなったらどうしてくれるんだ?おいっ!」


 後ろから飛び出して来たダートが、苦しんでいる彼を勢いよく蹴り飛ばすと、状況の把握ができずに呆気にとられた顔をしている女性を睨みつける。

何て言うか……初対面でここまで雑に扱われる姿に、ちょっとだけ同情をしてしまうけれど、これに関しては自業自得だとも思うから、今は放置しておこう。


「おめぇもおめぇだよ!なぁに自分の仲間に攻撃してんだ?」


 なぜなら完全に頭に血が上ったダートが、来客用の丁寧な口調から、いつもの乱暴な言葉遣いになってしまっているから、彼よりもこっちを優先した方がいい。


「ダート、言葉遣いが乱暴になってるよ」

「……あ、やっべ!い、今の無し!」


 ぼくの指摘に、顔を真っ赤にしながら顔を抑えて焦り出す姿を見て、少しだけ微笑ましい気持ちになる。

弓を持った彼女も、この光景に緊張の糸が切れたのか、口元を手で抑えながら笑い出してしまう。


「ふふ……話しやすい方で大丈夫ですよ?泥霧の魔術師さん」

「ん?俺を二つ名で呼ぶって事は、誰か知ってんのか……もしやおめぇ、同業者か?」


 同業者という言葉を聞いて、二人の事を見るけれど……身なりの良い服装の上に隊章を付けているのを見ると、何れかの組織に所属しているように見えて、到底彼女と同じ冒険者のようには見えない。


「同業者?あぁいえ、私達は冒険者ではなく……統括している組織の所属ですね」

「という事はおめぇら……栄花か?」

「はい、いつもAランク冒険者【泥霧の魔術師】ダート・アデリー様にはお世話になっております」


 栄花という事は、もしかして【栄花評議国】の事だろうか。

詳しく知らないけど、他国とは完全中立の立場を守り、他国間に置いて争いが起きたら仲裁を行う世界の中心ともいえる国だった筈。


「……んなお偉いさんが、何の用があってこんな辺ぴなとこまで来たんだよ」


 それに……統括組織となると、ぼく達が住んでいる【魔導国家メセリー】を含む五大国や、その他周辺の小国に【冒険者ギルド】の支部を置き、国内では即座に対応しきれない案件を冒険者として登録された国民を利用して解決する組織の元締めという事だろうか。


「ん……まず、アキ先輩、ここからは俺が話すよ」


 大剣を背に担いだ男性が魔術で作られた水を飲みながら立ちあがると、どうして彼らがここに来たのかを話してくれる。

栄花評議国に存在する【栄花騎士団】から派遣されて来たらしく、年に一度、国内の視察の為に選ばれた隊員が五大国を巡回しているそうだ。


「──という訳で、いつも通り冒険者ギルドに顔を出して最近の依頼の量を確認したり、国内の状勢を調べたりして、終わったら軽く観光でもしようと思ってたんすけどね」

「観光っておめぇ……視察なのにそんなお気楽でいいのかよ」

「まぁまぁ、いいんすよ……で、そしたらたまたまフェーレン領の冒険者ギルドに顔を出したら、領内に出来た開拓村が大分大きくなって来たって報告を貰ったんで、興味本位で開拓作業に視察って言う名目で同行させて貰おうかなぁって思って、ここまで来たんすよ」


 とりあえず話は分かったけど、それと診療所まで来た事に何の繋がりがあるのだろうか。

同行したいなら勝手に二人で行けばいいのに……


「……それとここまで来た事に何の繋がりがあるんですか?」


 だからつい、思った事を直接口にしてしまった。

栄花の騎士団が冒険者ギルドの統括であることは知らなかったけれど、あの国の騎士達は武器と魔術、それに治癒術まで高い水準で使いこなす精鋭が揃っている事で有名だ。

だから、治癒術師を求めて尋ねに来る人用何て無い筈なのに、何故ここまで来たのだろうか。


「そりゃ、あんたがこの村で唯一の治癒術師だって聞いたから、一緒に来てもらおうかなって思ってさ」

「後はそうですね、Aランク冒険者のダートさんが、依頼を受けてこちらで護衛をしていると知って、あなたにもついて来て頂けないかと思い、今回事前連絡が取れず突然な訪問になってしまいましたが、診療所まで来させて頂きました」

「あぁ……俺がここにいる理由までって、そりゃあ栄花騎士団なら知ってて当然か……けどよぉ、俺はレースの護衛でここにいるんだぜ?二つも同時に依頼を受ける気はねぇぞ?」


 ぼくを庇うように前に立ちながら、威圧するかのように二人をにらみつけるダートを見て、大剣を背に担いだ男性が苦笑いを浮かべ助けを求めるように、先程彼がアキと呼んだ女性を見る。


「あれ……?おかしいですね、数日前に護衛隊の隊員の方に伝言を頼んだのですけれど、開拓への同行の件に関してお聞きになっておりませんか?」

「あぁ……そいつなら今日来て、レースが断ったら怒って帰っちまったぞ?」

「……まじっすか、伝言を頼んだのに直ぐにはいかずに、更には断られたら怒るってなんすかそれ」


 確かに数日前に伝言を頼んだというのに、直ぐに行かないどころか問題を起こしたとなったら、困惑するのは当然だろう。

まぁ……実際は、ぼくが余計な事を言い過ぎたせいだけど、ここは何も言わずに黙っておいた方が良いのかもしれない。


「……とりあえず何があったのかは大まかにですがわかりました、この度は私達ののせいで治癒術師様にご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」

「いや……ぼくは別に気にして無いので大丈夫です」

「だってさアキ先輩!いやぁ、気にしてないなら良かったって事でさ、改めて俺達から開拓の同行の件について話したいから時間を作って貰ってもいいっすか?」


 ……初対面で親しくもない人相手に、態々貴重な時間を割くのは嫌だけど、今回の件に関しては、ぼくが余計な事を言ってしまったせいでもあるから、謝罪の意も込めて、話を聞く場を作った方がいいだろう。


「……わかりました、それならリビングまで案内しますので、そこで話を聞かせて貰えますか?」

「おぉ、ありがとう!アキ先輩、承諾頂けたから中に入りますよ!」

「ケイ……あなたって人は本当に……まぁいいです、治癒術師様の寛大な心に感謝致します」


 ケイと呼ばれた大剣を背に担いだ男性が、アキさんの名前を呼びながらぼく達を横を通って中へと入っていく。

その姿を見て、何とも言えない複雑な気持ちになりながらも、伝言を伝えに来てくれた彼の話をしっかりと聞いていれば、こんな面倒な事にならなかったと反省ながら、二人をリビングへと案内するのだった。

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