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第7話 少し、不穏な序章


多少の些末な出来事はあったものの、

特に何事もなく一ヶ月が経った。

毎日の会社での業務もさほど何も無く…。


「美空さん!」

お昼休みに、またいつもの如く能沢さんに

話しかけられた。

何やら興奮している様子でばしばしと

肩を叩かれる。

「あのねあのねっ!あの、なんと!なんと…ッ!

 映画館のチケットが取れたの!」


「…なるほど、では私は食べ終わりましたので」

「あ〜待って待ってっ!当日に一緒に行く相手がね、

 なんかキャンセルしちゃったみたいでさ…」

「何の映画ですか」

「中世ヨーロッパ風の…ラブロマンス!」

思わず舌打ちしたくなるのをぐっと堪え、

立ち上がる。

「…では、私は食べ終わりましたので」

「…そ、そんなに嫌ぁ…??」

うるうると目を潤ませる彼女に、少し

頭痛がしてきた。

「私には合わないので」

「知見を広めると思って見てみない!?」

「恋愛は対象外ですので」

「ポップコーンとドリンクが無料!」

「貴女、私をなんだと思ってらっしゃるんですか」

そうして押し問答を繰り返すも、結局私が

折れてしまい…休日は彼女と出かける事に。


「へぇ、君友人とかいたんだねぇ…」

その事を、"邪魔をするな"と言う意味も込めて

リベルタに話しておくと彼は少し不機嫌そうに

そう言った。

どこに嫉妬していらっしゃるのやら。

「友人と言うよりよく話すだけの知人ですね。

 まぁポップコーンとドリンクが無料なのは

 魅力的ではあるので、行くだけ行きます」

「…俺とは一緒に行かないの?君のお陰で

 国も娯楽が多少増えたし…!」

今にもくーんと鳴きそうな可愛らしい子犬が

幻視してしまったが、今一度言おう。

「前に言いましたが…貴方の外見は目立ちますから」

「…はぁ、鼻とか削ぎ落とせば何とかなる?」

「スプラッタはご遠慮願いたいですね。

 後、ご自身の身体は大切になさった方がいいのでは?」

「君だって、俺と戦ってついた傷をそのままに

 してるじゃないか」

口をとんがらせ…だがどこか、嬉しそうにする

リベルタに呆れた。

「生憎、回復魔法が使えないのでそのままに

 するしかなかったんですよ。と言うか魔法

 全般使えませんし」

「えっ、そうなの?」

「あぁ、言ってませんでしたか。

 まぁもう戦う事はありませんし、

 どうでもいい情報でしょう」

そう言い、冷えた麦茶を注いで飲む。

一応リベルタとスミの分も注いでおく。

「…君、本当に自分の事を話さないよね」

「必要ありますか?」

「あるよ!俺はまだ君の1%も解ってない!

 これじゃあ口説き文句が思いつかないじゃん!」

「そうですね、必要はなさそうです」

「ちょっと…まぁいいや、てかチケットって

 どんなの?」

「貴方に渡したら複製されそうなので嫌です」

「俺をなんだと思っているのさ…」

リベルタのスキルか何かは分かりませんが、

彼は条件付きではあるものの、見たものを

複製できるらしい。

それは私ではなく、国の為に使ってほしい。

「…なんかまた自分を卑下してるでしょ。

 俺は魔王だから、最悪国を捨てたっていーの」

「よくありませんし、国民からしたら

 たまったものじゃないでしょう。

 …過去の貴方に国がした事と、変わらない」

少し、語気を強めると彼は

「…ごめん。まぁ俺抜きでも機能する様には

 しといて、後はゆっくり君を口説くよ」

「止めていただきたいですね」

本当に、切実に止めてほしいとは思う。

けれど彼の気が済むのなら、まだ少しくらい

付き合ってもいい…とは、思う。


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