昨日終わらせた「小説家になろうぜ」にアクセスし、俺は新しく「ユーザ登録」をする。
新しいペンネームはすでに考えている。もう絶対に俺とは推測されないような、でも俺と関わりがある名前。
本名の橋和馬。「はしかずま」をアナグラムにして、カタカナにする。
――ハマカズシ。
俺はこの新しいペンネームで、新たに小説を書くことにした。
テーマやストーリーもすでに決まっているぞ。俺みたいな底辺作家が、大混戦の異世界ジャンルに飛び込んで勝てるわけがあるもんか。俺は前作ですっかりそれを悟った。
書くならもっとオリジナリティがあって、何よりリアルリティ。そう、俺にしか書けない、俺だけのリアルがあるじゃないか。
高校生なろう作家が、書籍化を目指すうちに暴走し、ついには騙されて絶望を背負い込む。そんなリアルな話。
どうだ、説得力があるだろう? なんたって俺は150万円騙し取られたんだからな。それで死のうと思った。今は生きてるけど。文句があるか?
タイトルは、そうだな。もう異世界とかハーレムとか、そんな幼稚なタイトルじゃない。異世界なんてもう古臭い。ハーレムなんてただの作者の妄想だろうが。もっとアイロニックで、毒をまき散らすような。読者に嫌悪感を抱かせ、トラウマになるような、そして何か少しの共感を得られるような。胸を張って、夢を見ているなろう作家たちにケンカを売ってやろう。
そうだ、タイトルはこれがいい。
「なろう作家は静かに死ぬ」
了