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第16話 繋がるふたり*

「どうして? よく見えたほうが、もっと気持ちよくなれると思うけど」

 津和はベッドの上で膝立ちになると、勢いよくTシャツを脱ぎ捨てた。すると無駄なぜい肉など少しもない、細身なのに均整の取れた美しい体があらわになる。

(うっわ、想像以上だ……)

 俺はますます自信を無くしてしまい、自分のシャツのすそをつかむ手をますます強くした。すると津和の手が、俺のかたくにぎった手を包みこんだ。

「大丈夫だよ。俺も同じだから」

 あまりにも差があると思ってたのに、津和にとって俺たちは『同じ』らしい。津和はギュッとにぎった俺の指を、一本ずつ解放していく。そして完全に服から手がはなれると、今度こそシャツのすそをつかんで、上にずらすように素肌をさらした。

「インナー、着てないんだ」

「だって、面倒だし……」

 胸のあたりに視線を感じて、恥ずかしさに顔を横にそむけた。つい手で隠そうとしたくなるけど、それを見越した津和に両手首をつかまれ、シーツに縫いとめられてしまった。

「いいんじゃない、エロくて。でも薄いシャツで出かけるときは気をつけて。他の奴らに見せたくないから……特に、ココとか」

「んあっ!」

 胸の先端を唇でついばまれ、悲鳴のような高い声が出てしまった。

(はずかしすぎる……)

 こんなつもりじゃなかったと唇をかむと、男らしく骨ばった長い指が、引きむすんだ口もとをスルリとなでた。

「そんなにかむと、切れちゃうよ」

「んっ……」

 津和の指が口の中に入ってきて、舌をくすぐられた。うっかりすると噛んでしまいそうで、こわくて口を閉じられない。

 ようやく指が引き抜かれたときはホッとしたが、今度は胸の先に濡れたものが押しあてられて、ヒュッと息を飲みこんだ。

「な、なに……あっ……んん……」

 視線を下げたとき、ちょうど胸の尖りが津和の口の中へと吸いこまれる瞬間だった。

(し、視覚の暴力だ、こんなの……!)

 熱い口内でねぶられ、甘噛みされると、なんとも言えないむずがゆさを感じる。もう片側は、指の先で引っかいたり、こねられたりされるが、こそばゆい感じだ。こんなおかしな場所を弄られているのだから、もう少し特別な感覚がしてもいいだろうに。

(不感症なのかな、俺)

 津和はこれでいいのだろうか。俺の反応を期待してたらどうしようかと、津和の様子を見てみたいが、こわくて視線を下へ向けられない。まごまごしてると、不意に太ももにかたいものが押しつけられた。

「へっ……?」

 津和は胸から口をはなすと、俺の肩に顔を埋めてハアッと息を吐いた。

「たまらない……抱かせて」

 津和の熱い吐息が鎖骨にかかると、それに呼応するかのように、俺の中心も熱くなった。

(抱くって、俺、俺を、ま、まさか抱くの?)

 急に現実味を帯びて、腰が引けてしまうも、唇をよせてきた津和の瞳が潤んでいて拒絶できなかった。スルリと割って入る熱い舌が、歯列をなぞって口内を甘く蹂躙する。絡みつく水音がやけに鮮明で、頭で反響する音にも気持ちがゆさぶられた。

(なんだ、これ……おかしくなる)

 それは、とてつもなく気持ちのいいキスだった。何度も角度を変えて唇を吸われ、舌をからめられ、すり合わされるたび、俺の背中が陸に打ち上げられた魚のようにビクビクとはねた。

 ようやく唇が解放されると、長い睫毛がかかった琥珀色の瞳に覗きこまれた。そして無言で何度もやわらかく唇をついばむ。きっと俺の緊張をほぐそうとしてる。

「入れさせて」

「……」

「ね、お願い」

「わ、かった……いいよ」

 合意の返事をするやいなや、津和の手が俺のデニムにかかり、前のファスナーを下ろされ、すばやく下着と一緒に引き抜かれた。

「わっ……」

 片足を膝裏から押し上げられてあわてるも、津和の手はゆるもうとしない。

「大丈夫だから、落ち着いて」

「ふあっ……あ、ああ」

 再び胸の飾りを舐めしゃぶられ、今度は甘い戦慄が体の中を駆けぬけた。

(さっきと、全然違う……なんか、変な感じがする)

 粒を強く吸われると、腹の奥底までうずく感じがして、そこで考えが千々に乱れていく。もっと欲しくなったり、怖くて逃げだしたくなったり、でも恐ろしいほどの快感は理性をグズグズにくずしていく。ようやく唇がはなれても、濡れた尖りを指先でこねられたら、おそろしいほど敏感になっていて、腰が勝手にゆれてしまった。

 両胸への執拗な愛撫に翻弄されていると、今度は体の中心で張りつめている分身をキュッとつかまれた。

「くうっ……ん……」

 もっとも無防備な場所をつかまれて、ゆるゆるとすり上げられる。腰に甘い戦慄が走り、自然と声が漏れてしまった。すがるものを求めて視線を落とすと、涙でぼやける視界の先ではとんでもないことがはじまろうとしていた。津和が両手で、俺の太ももを大きく割って、その中心に顔を埋めようとしている。

(え、待って、嘘だろそれ)

 体中でもっとも敏感な部分が、熱い口内へと誘われる。熱い粘膜に包まれると、背徳的な愉悦がこみあげて来ると同時に、おびえにも似た罪悪感がドッと押しよせてきた。

「は、はなせ……きたな、ん……」

 津和は、俺の言葉に一瞬動きを止めると、くわえたままうっそりと妖艶に笑ってみせ、再び蹂躙する。初めての口淫は、視覚的にも感覚的にも刺激が強すぎた。息も絶え絶えもだえていると、今度は後ろのほうに塗れた指が触れ、思わず腰を引いてしまった。

「なっ……ちょ、ちょっと、なんで?」

「男同士は、ここで繋がるんだけど。知らなかった?」

 津和は、いったん体をひくと、ベッドサイドの引き出しに手をかけた。そして見慣れないボトルを取り出して、その液体を指にからませる。

(まさか、あれがローションってやつ?)

 すべりを良くするためだと思うが、実際に見たことはなかった。半身を起こした俺は、津和が粘度の高い液体を指先にからませる様子を物珍しそうにながめていたら、ふと視線が合った。

「ああ、ごめん。待たせちゃったね」

 軽く肩を押されて再びベッドに沈められると、今度は両足を押し上げられた。そして津和の指が、ゆっくりと体内に埋めこまれていく。経験したことのない圧迫感に息をつめている間も、挿しこまれた長い指は奥を探るように進んでいく。やがて一本目がすべておさまると、しばらくじっとして馴染むのを待ってくれたが、二本目を入れられた時は打って変わって、何かを探るような動きが開始された。

「う、ん……くっ……んん」

 気持ち悪くはないが、正直良くもない。異物感が半端なく、とてつもない違和感と圧迫感に息をつめていると、前が温かくしめった粘膜に包まれた。そして巧みな舌の動きで追い立てられ、あっという間に果てた。

「ご、ごめ……ティッシュは……」

 どうにか肘をシーツについて、体を起こそうとするも、津和の両腕にがっちりとつかまれた腰が微動だにしない。強烈な刺激を受けて力が入らないのか、単に非力なのか。眉をよせてどうしようかと困っていたら、顔を上げた津和が俺を見下ろした。そして微笑みながら、ゴクリと喉を鳴らした。

(俺の、飲みやがった……嘘だろ、そんな)

 ぼうぜんとする俺に、津和は再び後ろにさし入れた二本の指を動かしはじめた。そして、ある一点が押されたとたん、俺の腰が自然とはねた。

(な、なんだ、今の)

 その部分を集中的に攻めたてられ、俺の口から絶え間なく喘ぎ声が上がる。

「あっ、あっ、あっ、やっ……んん」

「大丈夫、こわくないよ」

 ようやく指が引きぬかれ、ホッと気がゆるんだ刹那、今度は別のかたく、張りつめたものがあてられた。ぬめりを帯びたそれは、先ほどとは比べ物にならない質量で、ゆっくりと内側を蹂躙していく。

「……ぐっ……うう……ん」

「痛い、か……ごめん、痛いだろう……ん」

 痛みよりも苦しくて、ひと思いに終わらせてほしいのだが、津和は慎重に少しずつ腰を進めていく。そのもどかしいほどの焦れったさに、俺はとうとう津和の肩にすがりついて懇願した。

「はや、く……」

「息を吐いて。うん、そう……上手」

 言われた通り、何度か呼吸を吸って吐いてをくり返したら、ふと体が弛緩した。すると次の瞬間、熱い楔が一気に奥まで貫いた。

「あああーーっ!」

 最奥の、ありえないところまで深く穿たれた。その衝撃は脳天を突き抜け、瞼の裏側が燃えるように熱くなる。やがて、ゆっくりと律動がはじまったが、そこから先の記憶はない。

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