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第6話 自己嫌悪の朝

 目が覚めると、隣に津和はいなかった。


(今、何時だろう)


 ヘッドボードに置かれたスマホに手を伸ばす。今日は土曜日なので、朝寝坊しても問題はない。

 ただ昨夜のことがあって、津和の姿が見えないのは少し気になった。


(頭痛は治ったみたいだ。とりあえず、よかった……)


 罪滅ぼしではないが、昨夜迷惑をかけたぶん、今日はしっかり働かなくては。

 津和は朝食を済ませただろうか。そうだとしたら、昼食と夕食を作ろう。掃除機をかけて、風呂とトイレを掃除して、天気が良ければ布団を干そう。シーツも洗わなくては。


(よしっ、時間は無限じゃないんだ。はやくはじめないと)


 勢いこんでベッドから起き上がったとき、ちょうど寝室の扉が開いた。


「あ、起きてる」


 現れた津和はパジャマ姿で、まだ髪のセットすらしてなかった。週末も早起きな彼としてはめずらしい。

 俺はもう一度、スマホの時刻を確認する。


(午前九時過ぎか。二度寝でもするつもりかな? あれ、ところでいつ着替えたんだろ?)


 あらためて自分を見下ろすと、同じ色違いのパジャマを着ている。

 だが昨夜は服のままベッドに入った記憶しかない。つまり夜中に、津和が着替えさせてくれたとしか考えられない……俺はさっそく朝から、激しい自己嫌悪に陥った。


(とにかく、昨夜の失態からあやまらなくちゃな)


 顔を上げると、津和の視線とぶつかった。津和はベッドに座ると、ゆったりと口を開いた。


「そろそろ、お腹空かない?」

「あ、うん……でも津和さんは」

「俺もまだ食べてない。用意したから、一緒に食べよう?」


 そう言って頭をなでられた。津和はよくこうやって俺の頭をなでるが、それはなにかしら世話を焼こうとする前兆でもあった。


「なんだよ」

「ん、寝起きも可愛いなあと思って」


 俺は警戒気味に津和の手を押しのけると、ベッドから出ようと毛布をまくった。

 しかしなぜか、津和の手で押しもどされた。


「朝メシにするんじゃなかった?」

「うん。でもここから動かなくていいよ。今持ってきてあげる」

「え、なんで? 向こうで食べればいいだろ」

「違う違う。週末だからね、忘れたの?」


 津和の含みのある言葉に、俺の顔が少し熱くなった。ここ最近の習慣で、週末前に抱かれた翌朝は、津和が朝食を作ってベッドまで運んでくれる。


(ベッドで朝食って、なんでわざわざそんな面倒なことするんだ?)


 欧米ではめずらしくない光景らしいが、ここは日本で俺は日本人だから、さっぱり理解できない。でも津和には憧れだったそうで、やりたいとせがまれて拒否できなかった。


「お待たせ。今朝はマッシュルームのオムレツにしたよ。ケイの好きなやつ」

「ああ……」


 たしかに好きだが、なんとなく釈然としない。

 昨日は抱かれてもないし、津和には面倒かけたし、むしろ朝食作って運ぶのは、俺の役目なんじゃないかと思う。


 俺がグズグズと思い悩む中、津和は手際良くテーブルをセットして、俺の前に温かいカフェオレを置いてくれた。砂糖は入れない代わりにミルクたっぷりで、コーヒーがそれほど得意じゃない俺でも飲めるやつだ。

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