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第8話 好意の対価*

「んっ……は……」


 胸の先端を口に含まれ、舌先で尖りをゆっくりと転がされる。

 以前はまったく感じなかった部分なのに、今は甘く切なくうずき、腰がジンと痺れた。


「くっ……も、そこ、いいから……」


 やわらかな髪をつかんで、抗議するように引っ張ると、喉の奥で小さく笑われた。


 男らしく骨ばった手が、パジャマのズボンに差しこまれる。そして、まだ兆しのない、やわらかな中心を、やさしく揉みしだかれた。


「あ、……くっ、んん……」


 鼻にかかった声が、たまらなく恥ずかしい。必死に声を我慢してると、手の動きはますます激しく、大胆になっていく。


「ふっ……可愛い」


 やがて津和の頭が、足の間にゆっくりと沈んでいった。


(あ、ヤバい……)


 熱い粘膜が、先走りのにじむ先端を、ゆっくりと包んでいく。そのあまりの気持ち良さに、我慢していた声が自然と口から漏れてしまう。

 自分の嬌声は、もう本当に、聞くに耐えない。耳にするのが恥ずかしくて、嫌でたまらない。


(こんな声を聞くくらいなら……キスで口を塞いでくれたほうが、ずっとマシだ)


 すべて吸い取られてしまうようで、意識まで持っていかれそうだ。

 ギリギリのラインで、必死に踏んばっていたのに。彼の技巧に長けた舌づかいによって、体の奥の秘めた熱が、無理やり外へと引きずり出されてしまう。


(ヤバッ……マジで持ってかれる)


 キツく吸われてしまうと、食い止める余地もなく爆ぜた。


(また我慢、できなかった)


 乱れた呼吸で彼を見上げた。ちょうど汗ばんだ白い喉が、ゴクリと上下した瞬間が視界に映り、俺はやるせなさに唇を噛みしめた。

 こればかりは、やめろと言っても聞きやしない。


 俺の体は一気に弛緩しかけたが、津和は間を置かずに後ろへ指を這わせ、丹念に解しはじめた。

 ぬるつく指はすでにローションがまぶされているのだろう、さして抵抗もなく挿し入れられ、奥を押し広げられる。


「くっ、ん、ん……」


 どのくらい経っただろうか。

 リズミカルに動いていた指がようやく抜かれると、一呼吸置いて、彼がゆっくり腰を進めてきた。


「うっ……!」


 痛みこそないが、圧迫感がハンパなく、息がなかなか整わない。

 喉から漏れる不規則な息づかいに酸欠状態になりそうで、この瞬間は何度経験しても慣れそうになかった。


「ケイ……ケイ……こっちを見て」


 津和のこらえるような表情は、壮絶なまでに色香があって、濡れた唇から漏れる吐息すら艶めいて響く。


 きっと、もっと自由に動きたいはずだ。

 それなのに、ここでも俺の体を気づかって、なかなか思いのまま動いてくれない。


(クソッ、なんだよ……!)


 やさしく抱かれているのが、かえってつらくてやるせない。


 でも、ここで俺が泣きごとを言えば、ますます津和は遠慮してしまう……そして、きっと後悔する。それだけは、どうしても阻止しなくては。


「もっと、欲しいから、もう」

「ケイ……駄目だって」

「あ、あずさ……う、動いて」


 下の名前で呼んだとたん、律動が激しくなった。

 津和の荒くなっていく呼吸が、触れあう汗ばんだ肌が、俺に密かな安堵感をもたらす。


 そうだ、もっと動いてとばかり、俺は力を失いかけた両足をなんとか彼の腰にからませた。そして何度も、動きが鈍くなりそうな気配を感じるたびに、俺は彼の名前を呼び続けた。


「あずさ、あず、さ」

「ズルい……ケイ、それは反則だ……!」


 彼の紳士的な部分がなりをひそめ、ギラついた本能が顔をのぞかせる。

 中途半端な気づかいなんていらない。


 理性なんてかなぐり捨てて、存分に求めてほしい。

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