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第12話 そっけない態度

 その日の夜。

 いつもより少し早めに帰宅した津和は、俺の作った渾身の夕食を見て微笑んだ。


「作ってくれたんだ。ありがとう」

「いや、うん……」


 笑ってお礼を言われたが、どうも反応はイマイチだ。

 いつもならテイクアウトか、スーパーの惣菜に頼りがちなため、もっと驚かれると思ったのに。


 食事中もいつもどおり、他愛のない話をするものの、普段より口数が少ない気がする。

 笑顔もあまりなく、どちらかというとかたい表情だった。


(なんか、嫌いな物でもあったかな……)


 津和に食べ物の好き嫌いはあまりない。

 それでも一緒に暮らすうちに、なんとなく好みの系統くらいはわかってくる。


 できるだけ好きそうなメニューにしたが、そのかいあってか、いつもより津和の箸は進んでいるように見えなくもない。

 ただ、よろこんで食べてるようにも見えなかった。


(まさかと思うけど、めずらしく俺が作ったから、苦手なものがあっても我慢して食べてるとか……?)


 掃除と片づけは、まあ人並みにできると思うが、料理はまったく自信がない。

 ひとり暮らし歴は長いくせに、津和と出会うまで自炊とは呼べない、いいかげんな食生活を送ってきた。家ではもっぱらインスタント食品ですませ、面倒なときはゼリー飲料にたよっていた。


 そのため味音痴になってるかもしれないと、今回どの料理もネットのレシピの分量どおりに作った。

 調味料にいたるまで、計量スプーンを使うという徹底ぶりをみせた結果、わりとうまくできたと思ってた。


(でも味付けって、好みもあるからなあ)


 食器を洗う津和の後ろ姿をながめながら、次の作戦を練ることにした。

 弁当はどうだろう、難易度高いだろうか。

 そもそも彼が、会社で弁当を食べるかどうか……。


 津和の会社には、社食はないらしい。

 そのため外へ食べにいくようだが、時々テイクアウトして席で食べることもあるそうだ。


 もしかしたらテイクアウトする代わりに、弁当を食べてくれるかもしれない。


「あのさ津和さん、明日だけど」

「明日は遅くなるから、夕食は用意しなくていいよ」


 背を向けたままそう言われて、俺は何も言えなくなった。

 やんわりと、でもハッキリ断られてしまった。弁当どころか、夕食も作るなと釘刺されたようなものだ。


(少し、いや、けっこうショックかも)


 そのあとは各自お風呂をすませて、普通に寝た。

 とうぜん甘いムードにはまったくならず、なんだかよそよそしさすら感じて泣きたくなったが、俺は努めて気づかないフリをした。


 まるで近づこうとすると、離れていくようだ。

 しかたなく背を向けて寝れば、今度は寝ぼけてるのか、向こうからすりよってきた。


(困ったな……なにをどうすれば、よろこんでもらえんの? よく分からん……)


 背中から伝わるぬくもりに困惑しつつ、俺は浅い眠りについた。

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