その日の夜。
いつもより少し早めに帰宅した津和は、俺の作った渾身の夕食を見て微笑んだ。
「作ってくれたんだ。ありがとう」
「いや、うん……」
笑ってお礼を言われたが、どうも反応はイマイチだ。
いつもならテイクアウトか、スーパーの惣菜に頼りがちなため、もっと驚かれると思ったのに。
食事中もいつもどおり、他愛のない話をするものの、普段より口数が少ない気がする。
笑顔もあまりなく、どちらかというとかたい表情だった。
(なんか、嫌いな物でもあったかな……)
津和に食べ物の好き嫌いはあまりない。
それでも一緒に暮らすうちに、なんとなく好みの系統くらいはわかってくる。
できるだけ好きそうなメニューにしたが、そのかいあってか、いつもより津和の箸は進んでいるように見えなくもない。
ただ、よろこんで食べてるようにも見えなかった。
(まさかと思うけど、めずらしく俺が作ったから、苦手なものがあっても我慢して食べてるとか……?)
掃除と片づけは、まあ人並みにできると思うが、料理はまったく自信がない。
ひとり暮らし歴は長いくせに、津和と出会うまで自炊とは呼べない、いいかげんな食生活を送ってきた。家ではもっぱらインスタント食品ですませ、面倒なときはゼリー飲料にたよっていた。
そのため味音痴になってるかもしれないと、今回どの料理もネットのレシピの分量どおりに作った。
調味料にいたるまで、計量スプーンを使うという徹底ぶりをみせた結果、わりとうまくできたと思ってた。
(でも味付けって、好みもあるからなあ)
食器を洗う津和の後ろ姿をながめながら、次の作戦を練ることにした。
弁当はどうだろう、難易度高いだろうか。
そもそも彼が、会社で弁当を食べるかどうか……。
津和の会社には、社食はないらしい。
そのため外へ食べにいくようだが、時々テイクアウトして席で食べることもあるそうだ。
もしかしたらテイクアウトする代わりに、弁当を食べてくれるかもしれない。
「あのさ津和さん、明日だけど」
「明日は遅くなるから、夕食は用意しなくていいよ」
背を向けたままそう言われて、俺は何も言えなくなった。
やんわりと、でもハッキリ断られてしまった。弁当どころか、夕食も作るなと釘刺されたようなものだ。
(少し、いや、けっこうショックかも)
そのあとは各自お風呂をすませて、普通に寝た。
とうぜん甘いムードにはまったくならず、なんだかよそよそしさすら感じて泣きたくなったが、俺は努めて気づかないフリをした。
まるで近づこうとすると、離れていくようだ。
しかたなく背を向けて寝れば、今度は寝ぼけてるのか、向こうからすりよってきた。
(困ったな……なにをどうすれば、よろこんでもらえんの? よく分からん……)
背中から伝わるぬくもりに困惑しつつ、俺は浅い眠りについた。