「もっと好きになってもらいたい、君の気持ちを失いたくないって思ったんだ。そのためには、君の気持ちを、どう受けとめれば正解なのかわからなくて」
「つまり料理作ったりしても、迷惑じゃなかったってこと?」
「迷惑だなんて!」
津和は勢いよくこちらへ体を向けると、まるで俺を責め立てるような口調で詰めよってきた。
「嬉しかった、ものすごく嬉しかった!」
「わ、分かった……分かったから」
「いいや君は分かってない。俺を思って、俺のためだけに作ってくれて、しかも俺の好みを考えてくれて……なにもかも理想どうりで、どう受けとめたらいいのかわからなかった。俺のこの、どう表現したらいいのか分からないうれしさを、どうすれば君に正確に伝えられるのかすごく悩んでいた。今でも悩んでる……」
今の言葉で、じゅうぶん伝わった。
でもきっと、俺が想像する以上に、津和の愛情は深くて重いのだろう。
俺は肩の力を抜いて、彼を見つめかえす。すると、津和も少し落ち着きを取り戻したようだ。
「それに……もしかしたら、君の勘違いかもしれないって。そうだったら、どうしたらいいのか。君を繋ぎ止めるには、なにが正解なのか分からなくてなった」
津和は皮肉交じりの笑みを浮かべて、苦しそうに小さく首を振った。
「頭痛で苦しむ君が、俺を頼ってくれて……俺は心配する気持ちと同じくらい、君におせっかいを焼けるのが嬉しくて……つまり弱っている君につけこんだ」
たしかにつらいとき、そばにいてくれたのは心強かった。
頭痛で苦しむ俺を心配してくれて、あれこれ世話を焼いてくれて、申し訳ないと思いながら、うれしさを感じずにはいられなかった。彼の優しさにほだされたのでは、と問われれば否定できない。
「でも俺を思って心配してくれたことに、変わりないだろ。津和さんがいろいろしてくれたこと、すごく感謝してる。それがなかったら、津和さんとこういう関係になってたか、と聞かれたら、正直俺だって自信ないよ。でもきっかけはどうであれ、今の俺が、その……津和さんを好きなことは本当だ」
「ケイ……」
「津和さんは? ただの同情心から、そばにいてくれるの? それとも俺と同じ気持ち?」
俺は津和を見上げ、青白い頬をそっとなでる。そして彼のからだに両腕を回すと、ギュッと抱きしめた。
「俺はただ、津和さんによろこんでもらいたかった。いや、ただ俺の自己満足かな……小さなことでもいいから、津和さんになにかお返ししたくって。でもそれは、義理とか義務とかじゃなくて、ただ津和さんによろこんでもらいたいだけだ」
「君はもう、たくさん俺をよろこばせているよ。それ以上はいらない、俺がぶっ壊れそう」
「ぶっ壊れていいよ」
抱きしめる腕をゆるめて顔を上げると、津和は泣いていた。
(涙腺が崩壊してる……)
津和はゆっくりと顔をかたむけて、何度も唇を合わせてきた。その触れるだけのキスが可愛くて愛おしくて、俺も同じくらい唇を求める。
「ああ好きすぎて、頭がおかしくなりそうだ……ケイ」
たぶん俺の気持ちは、まだ津和に追いつけてない。
彼のむき出しの愛情はとても激しく、底知れない深さがあって、うっかりハマると溺れてしまうだろう。
(そういえば津和って、俺が最初の恋人だって言ってたな……)
もしかしたら彼の初恋はとても遅くて、うぬぼれじゃなければ、それって俺なのかもしれない。
そう思えるくらい、彼の気持ちは繊細で透きとおっていて、うかつに触れると粉々に壊れてしまいそうに思えた。
彼には自信家の部分と、繊細であやうい部分と、両極端の感情が同居している。
自信家の彼も好きだけど、こうやって弱い部分も包み隠さず見せてくれるとうれしい。
俺もつられて、恥ずかしすぎる素直な気持ちをぶつけられそうだ。