目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

2「初対面の印象は最悪で最強。」

昇降口を抜け、指定されたクラスの階へ向かう途中。

六夢は鼻歌まじりに、白い校舎の中を歩いていた。


(ふふふ〜ん、

教室ついたらまずは自己紹介だよねっ。

どんな子がいるかな〜?

可愛い子いるかな〜?

話しかけてくれる子いるかな〜?)


鞄を両手で抱きしめながら廊下を歩いていたそのとき――


「わっ、っとと……!」


肩が、思いっきりぶつかった。


「いっったぁ〜……すみませ……」


目を上げた瞬間、目が合った。


バチバチな金髪。

高めの身長。

睨むような目つきに、

鋭く整った輪郭。そして右目には切ったような傷跡。

制服の着崩し方も堂々としていて、妙なオーラがある。

ただの新入生には見えなかった。


「……どこ見て歩いとんのじゃ。」


低く、しんと冷えた声。

しかも何故か広島弁。


しかもそのあと、はっきりとした舌打ちが響いた。


「……ちっ」


そのまま男は六夢の横をすり抜け、

何も言わずに歩き去っていった。


六夢は呆然と立ち尽くす。


(……うっわ。なに、あの感じ悪い人。

え、初対面で舌打ち?

ぶつかったのはこっちも悪いけど、

あんな言い方あるか?はぁ?)


ふつふつと小さな怒りが湧いてくる。

でもそれと同時に、胸の奥の「もう一つの感覚」が、静かに目を覚ます。


――ざくっ。ざくっ。と、音のしない包丁が心の奥を刻んでくる。


(……でも、ちょっとだけ、)


あの時、すれ違いざまに香った体温。

血の巡る音。怒気を含んだ、冷たい呼気。


(なんか……“美味しそう”だった)


「……ちがーう!なに考えてんの六夢ーっ!」


思わず声が出てしまい、

通りかかった先生に「静かに」と注意される。


六夢は慌てて頭を下げ、急いで自分の教室に向かった。

階段を駆け上がりながら、顔をパチンと叩く。


(よし、切り替え。

あんな変な人のこと、どうでもいい!

教室!クラスメイト!青春!)


でも。

どこか胸の奥に、さっきの舌打ちが残っていた。


不快なのに。怖くもないのに。

なんだか妙に印象に残る、あの目。あの声。


(……なーんか、嫌な予感がするなあ)


六夢がそう思いながら教室のドアを開けた次の瞬間。


「…………あ」


窓際の一番後ろで、

だるそうに肘をついているあの男が――

ついさっきぶつかった、

あの感じ悪いクッソパツキン野郎が、



そこにいた。




(う、そ。マジで同じクラス!?)


六夢は、入学初日早々、

運命の悪戯に頭を抱える羽目になる。


あぁ嘘だろ神様おいゴラァ!!!

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?